第6話 さよなら、物語の街
色とりどりの嘘の街。僕はその街を右へ左へと彼女を探した。ここは嘘の街よりやっかいだ。なにせ、嘘か本当かもわからない。物語を奏でるだけの街。みんな、自分の物語の虜にしようと必死だ。でもその先に何があるというのだろう。物語はきっと眠りそうな子供のとなりで親がするもので、大人が大人のためにするものじゃないんだ。大人は物語じゃ眠れない。
どれだけ歩いただろう。ふと、赤い窓辺に寄り掛かって眠っている子供がいた。物語を語りつかれたのだろうか。もしくは聞き疲れたのだろうか。けれど、その子は幸せそうに眠っている。僕はそっとその子の隣へ。少し屈んで話しかけた。
「ここにアイリスを持った女性は来たかい?」
「・・・来たよ」
「その人はまだここにいるかい?」
「いないよ。僕の物語はね・・・」
むにゃむにゃと何かしゃべっている。僕はこの街にすでに彼女はいないと理解した。子どもはきっと嘘をつかないだろうから。ならば、この街にはいる必要はない。さっさと次の街へ行こう。歩き出して、ふと、僕は引き返す。
「ありがとう」
子どもにささやいて、僕は再度歩き出す。初めて、本当の『ありがとう』を言えて、僕の足は浮き立っていた。この街の人達はばかだなあ、と思った。ありがとう、5文字だけでもきっと素晴らしい物語だ。けれど永遠と、長い話を聞かせている。自分の物語の虜にするために。さあ、さっさとこの街を離れよう。僕が探しているのは彼女で、僕が探しているのは真実だ。
小高い丘に着くころには僕はすっかり疲れてしまって、カプセルの中に入ってしばらくボタンを押すまでに時間がかかった。ふかふかの椅子は僕を癒してくれた。
ぽち。
カプセルはまたゆっくりと浮き出した。少しずつカラフルな街が遠くなっていく。さようなら、物語の街。僕は行くよ。
僕が彼女を探す旅 K.night @hayashi-satoru
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