第4話 物語の街
ふよふよ浮いたカプセルは、小高い丘にたどり着いた。ウィンと小さい音を出して、丸い窓が開く。すると、やいやい騒がしい声が聞こえてきた。ケンカかなと耳を澄ますと、それは抑揚のある声が重なっている。一つの声を追うと、流れる音楽の様だ。よかった。ケンカの街だったら、こんなヒョロヒョロな僕は一発で倒れこんでしまう。空を見上げると、なんと真っ青な色にひと際大きい星と、反対側は真っ暗で、星が瞬いている。そこにある大きい星は猫が笑ったような形で輝いている。なんともにぎやかな空だ。僕は今、明るい方の場所にいるようだ。
背伸びして、すんと匂いを嗅ぐと若々しくて瑞々しい香りがする。足元の緑はふわふわと足を撫でて、ところどころに色とりどりのいろんな形のものが風にそよいでいる。
まるで、僕の心に風が通るみたいな場所だ。しばらく美しいと眺めていたが、いけない。僕は彼女を探さないといけない。僕は声がする方へ丘を降りていった。
街が近づくと、色々な色の家がそれぞれ不思議な形で建っていて、建物の間も紐がひかれて、四角や三角の布が並んでいる。なんとも目がちかちかとする街だ。人も色んな服を着て、あちらでは何か出る大きな楽器を右に左に動かして、色々な音を出している。みんな何かしらしゃべっていて、黙ってる人がいない。よく見ると二人でいる人たちもお互いにしゃべり合っていて、誰も僕に気づいてくれないようだ。
少し歩いて、一人でいる人も黙っている人もいなかったので、僕はしゃべっている人に声をかける決心をした。太って、緑の帽子をかぶった、優しそうな笑顔の男にした。
「あの、話しているところ申し訳ないんですが、」
男は丸い目で僕を見ると
「観客だ!観客が来たぞ!」
と叫んだ。わあ、とあたりの人が一斉に僕に集まってくる。
「さあさあ、僕の物語を聞いてくれ。今朝、僕は起きると黄金に輝く美しい光が部屋の間をふっと流れ落ちるのを見た。僕は光りなのに思わず誰だいと聞くと」
「君だ、君で物語を作るから、僕の話を聞いてくれ。ある空が美しく青い日、その男は青に似つかわしくない灰色のスーツを着ていた。男は帽子を目深に被り、」
「私よ、私がこの街一番の語り手なの。さあ、私の物語を聞いて。あるところにそれはとてもとても美しい姫がいました。その姫は、まるで」
みんな一斉にこんな風に話すものだから、僕はすっかり参ってしまって、慌てて、その場から走って逃げた。そうしたら、みんなそれぞれに話しながら追ってくるではないか。たまらない。僕は走って走って、さっと物陰に隠れるとたくさんの人々はそのまま何か話しながらまっすぐに行ってしまった。
僕は一息ついて、ここがどんな街かがはっきり分かった。ここは物語の街だ。
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