現代・現実・ガリバー旅行記

しばぐるめぇ

最終話 現代のガリバー旅行記

私は今何処にいるんだ、、、?

足に波が優しく当たっている。ここは陸か?なら助かったということか…とりあえずここは何処か確認して他の仲間の安全も確かめなくては。

「ッ!?」

ここで自分の体が動かないことに気がつく。

縛られているという訳では無い。

ただ今は体のあちこちが痛む。ズキズキと殴られたような痛みだ。多分腫れているのだろう。首は動かすだけで激痛が襲う。

とにかく今は出来ることが状況を整理して思い出すことにした。

私はできるだけ繊細に思い出す。ここに来る前のことを。

私は漁船にいつもと同じように仲間と一緒に海へと出ていった。しかし、だんだん…いや、いきなりだったか…?よくあの時のことが思い出せない。曖昧な記憶が自分の記憶を覆っている。

とにかく船から落ちてここに流されて来たと言うことだろう。

とりあえず誰かが周りにいるか確認してみるか。

「おーい!誰かいるかー、漂流してここまで来たんだー!助けてくれー!」

反応がない。周りには誰も居ないのかと思った瞬間、私は衝撃的なものを目にしてしまった。

それは私の人差し指の第1関節の半分もない位の大きさの人間だった。

いきなりのことに脳が追いついていない。心臓が高鳴りしている。恐怖からなのか驚きからなのか、それともどちらともなのか。

「う、うわぁ!」

私が叫び始めると、その男は何かを叫びながら走って森に逃げていった。

よく見ると森の木もありえないほどに小さくなっている。なぜ気が付かなかったのだろう。

このままどうすることも出来ず、そのまま辺りを観察していたがいつの間にか私は眠ってしまった。


服が濡れたまま起きるというのはとても気持ちが悪いが寝たお陰か少しスッキリしている気がする。

問題なのは私の周りに小さい人が集まっていることだ。やはり昨日見た小さい人間は現実だったようだ。私がこの島?では大きいのだろうか?しかしこんな場所が世界に存在するわけがないと思うのだが、、、何処に位置しているのだろうか?

「あの、すみません。ここって何処なんですか?」

言語などの違いで話は通じないと思うが一応小人達に話しかける。野次馬のような奴もいれば、警察、科学者らしき者もいた。

小人が何か騒いでいる。私が喋りかけたからだろう。

すると科学者らしき者がメガホンのようなものを使って喋りかけてきた。

驚いたのはその科学者が喋っている言葉が日本語であったことだった。。メガホンよりも性能がいいのだろうか、結構声が聞こえる。

科学者が、

「貴方は何者なんですか?ここに来た目的はなんなのですか。」

と喋りかけて来た。

「私は船に乗っていたのですがいきなり転覆してここに流れ着いて来たのです。」

科学者は頷くような仕草を取っていた。こちらの話も通じるのだろうか?まるでここは小さくした地球のような場所なのだな。

「なるほど。こちらから敵意を向ける気はありません。しかし貴方はあまりにも大きすぎます。このままだと国に被害が出てしまいます。」

まるでガリバーのような展開だがこの国はだいぶ発展しているようだった。小人は地球で人が来ているようなTシャツを来ており、メガホンを見るにも、やはりそのまま地球を小さくしたようなところであった。

私は会話がしやすいようにと立ち上がろうとすると、周りの小人に迷惑がかからないようにと動かなかったから気が付かなかったが手足には鉄で作られたような鎖がが地面から伸びる形でくっついていた。いくら小人の世界でも鉄は固くなかなかちぎれない。

「この枷はなんなのですか?」

私が聞いてみると、

「貴方は少し危険なので、錠で縛らせて貰いました。しばらくはそのままでいてくれるとありがたいのですが、、、。」

「冗談ではありません。トイレにも行かなければなりませんし…どうにかなりませんか?」

「しかしその巨体で歩き回られてはどうしようもありません。」

要は国民に被害を与えなければいいのだろう。

それなら気をつければいいでは無いか。

私は足を無理に動かし鎖を壊した。そのまま手も動かし鎖を壊した。科学者は

「勝手な行動をすると我々も対処しなければ行けなくなってしまう。」

「少しトイレに行ってくるだけですよ。すぐに戻ります。」

私はそう言いながらトイレへと行った。

しかし巨人用のトイレなどはあるはずもなく、しょうがない、海に出すしかないか。

私は海にそのまま出した。良くないとは思ったが。液体の方だ。その波紋で大きな波が起きる。

そのまま私は元の砂浜に戻る。木を踏まないように気をつけるがやはり砂浜の道が狭い。

これからこの島で生きていけるのだろうか?

助けは来るのか?

そして砂浜につく。私が着くと小人が騒いだりしている。ガリバーのようにこの国にピンチなどが来れば助けて和解できるのだろうか。

その日はそのまま動かなかった。しかし食べるものがなく腹が減る一方だった。紛らわすため、早めに寝ることとした。

この国に来て2日目になった。

私は小さい砂が頭や顔に当たって起きた。しかし当たっていたのは砂ではなく、小人が投げていた空き缶などのゴミだった。

小人は紙などを持って抑える警官に何かを抗議している。いや、その抗議は私に向けられているものだろう。この一日に何が起きたのだろうか。

すると爆竹のようなものが顔に投げつけられる。小さいとはいえ痛い。これは流石にやりすぎなのではないのか。少しムカつくが警官に様子を聞いてみる。私の声は大きいので響いてよく聞き取れなかったと思うが警官が説明してきた。

「貴方が歩くことで振動が起き地面が揺れ、波が強くなり、貴方が歩けば地面が凹んで固くなってしまう。さらに貴方が海に向け排尿したことにより、異臭と魚への被害が出ており、国民に不満が積もっているのです。」

なるほど、その紙をよくよく見れば本当に小さい文字でその巨人をこの国から追い出せ、殺せ、等と書いてある。

やはりこの国に私の居場所はないのだろうか。

ついには猟銃を持ってくるものも現れ、打たれても殺すのは可哀想、私が悪いのだからと自分を落ち着かせた。

だんだん行為はエスカレートしていく。

面白がって塩酸のような液をかけてきたり、刃物を投げて来る者もいた。

私は耐えれなくなり、大声を出して威嚇したりもした。だがそれは逆効果で相手の正義感を高め、さらに私を退治しようとする動きが高まった。

3日目、人間は水を飲まないと3日で死に至るらしい。

ついに喉が限界だった私は自分の尿を飲んだ。

尿は予想どうり酷い味だった。吐きそうになったが何とか堪えた。吐いてはさらにこの先辛くなるだけだった。さらに小人のデモ活動は酷くなっていった。

その日は政府の人が来た。そして私の殺処分が決定されたと伝えられた。私は逃げた。海の方へずっと、ずっと。

海の真ん中で私は考える。ここで生きていける方法を。

私が何故こんなことにならなければ行けないのか。私だってここに来たくて来た訳では無い。帰れるものならば帰りたい。

だが小人からしたら私は突然現れた巨人であり、邪魔者でしかないのだろう。このまま人に迷惑をかけて狭く生きていくよりもこのまま死んで行く方がいいのかもしれない。

そう思うと私はまた陸まで歩いて行った。

死ぬために一歩一歩ゆっくりと。

私が陸に着くと何か騒動が起きていた。

小人が掲げている紙には、

『巨人を殺すな!』

『彼も生き物だ!ニンゲンだ!』

と言ったものだった。

私は震える。

小人たちは私の為にこんなに動いてくれたのか…。

本当に、本当に…












気持ちが悪い。

こいつらはやはり人間なんだ。小人であり人間なんだ。初めは毛嫌っていた癖にいざとなるとすぐに手のひらを返す。

お前らは尿を飲んだことがあるか、味を知っているか。何処にいるかも分からず、1人で過ごす悲しみを知っているのか。

ただただそんな怒りが小人に対して出てくる。

今更守ろうだなんて正義感を振り回して何がしたいんだ。本当に反吐が出る。

気付くと私は足を小人のいる場所へと伸ばしていた。

がちゅがちゅとしたような気持ちの悪い音がする。

だが足を止めることは無い。

今まで何を躊躇っていたのだろうか。蟻を潰すのに今まで躊躇っていなかったでは無いか。

こいつらは感情があり言葉を喋るだけ蟻よりもタチが悪い。これは小人に教えてやっているのだ。

「お前たちの正義は全て間違っている」

と。

少し前までは殺せだの言っていたくせに、殺すのは可哀想?

話題が欲しいだけのクズどもが。こいつらはやはり小人であり、『ニンゲン』なんだ。―

―此奴らは我儘で勝手なんだ。

―人間と同じように。



◆◆◆

それから100年がたった。小人の国は復興していた。

どこかで先生が言う。

「こうして、この国に来た巨人は私達を虐殺していったのです。」

子供が悲しそうな顔で言う。

『その巨人は我儘で勝手だったんですね。

―私達とは違って。』

と。



―Fin―

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現代・現実・ガリバー旅行記 しばぐるめぇ @HASAMI8331

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