エピローグ 溺愛は続く

 ある日、ダーナラ公爵家の王都の屋敷タウンハウスにて。

 ヘレーナはエリオットの幼馴染であるリネーアからお茶会に招待されていた。

 そして、そのお茶会には当然のようにエリオットも参加している。

「はい、ヘレーナ、このクッキー美味しいよ。口を開けて」

 甘い表情でそう迫るエリオット。

 当然ながら、ヘレーナはエリオットの膝に乗せられている。

 エリオットはヘレーナにクッキーを食べさせようとしていた。

「あの、エリオット様……恥ずかしいです。他の方々が見ておられますわ」

 ヘレーナは頬を赤く染め、困ったように微笑む。

「じゃあ他の人が見ていなかったら良いってことだね」

 エリオットは悪戯っぽく口角を上げる。

「リネーア嬢、二人きりになれる休憩室はあるかな?」

「ええ。今案内させるわ。紅茶とお菓子も休憩室に用意するわね」

 リネーアは苦笑しながら手配する。

「あの、リネーア様。ご用意なさらなくて構いませんわ。むしろエリオット様を止めてください。他の方々の前で色々と恥ずかしいのに……」

 ヘレーナはリネーアに抗議する。しかし、リネーアは困ったように肩をすくめるだけである。

「ヘレーナ様、どうか諦めてください。エリオット様は貴女のことになると手段を選びませんのよ。ヘレーナ様の元婚約者とその浮気相手、それからヘレーナ様を嘲笑するような方々がどうなったのか、貴女もご存知でしょう」

 そう言われると、何も言えなくなるヘレーナ。

「以前申し上げた通り、エリオット様はヘレーナ様次第なのでございます。どうかよろしくお願いしますね、ヘレーナ様」

 リネーアにそう見送られ、エリオットと二人きりになってしまうヘレーナであった。


「ようやく二人きりだ。ここならもう良いよね?」

 エリオットのムーンストーンの目は甘くねっとりとヘレーナを見つめていた。

 ヘレーナは諦めて苦笑する。

「仕方ありませんわね」

 すると、エリオットの表情がパアッと明るくなる。

「さあ、ヘレーナ、口を開けて」

 言われるがまま口を開けると、クッキーを食べさせられた。

 サクサクとして、濃厚な甘さがヘレーナの口の中に広がる。この甘さは絶対にクッキーの甘さだけではない気がした。


 ヘレーナはこの日もエリオットに過剰な程に溺愛されるのであった。

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