第3篇「水溶性の果実」

トントントン ツーツーツー トントントン


紙裏に書いたSOS

脳裏に過ぎるサヨナラ

明日にはどう足掻いても辿り着けない

存在と存在の関係性


まっさらになった雲を抜けて

飛び立ってゆく一羽の鳥よ


しけった匂いのする本棚の隙間から

抜け出した日記帳の合間から

私は一枚の紙を破りさって

空の向こうへと弧を描くように

飛ばして見せようと思いました


そのページには確か

えーっと確か


思い出したくもない何かの記録が

書き連ねてあって

お返しとでもいうのでしょうか

忘れてしまうことが何よりだと考えついたのです


しかし雨樋をたたく天気雨


私はあなたを見送りました

抱きしめるより先に

問い詰めるより先に

この雨の中を涼やかに

明後日へと生きていくあなたでしょう


僕はレモンを一口かじって

なんとかこの心の味を誤魔化そうと努めましたが

血中を巡る悪しき心はすでに致死量で

咲き始めた紫陽花を濡らす程度の些細な雨では

洗い流せはしないのでしょう


それでも溶けて

いつか解けて

睫毛を湿らす恋煩いも

日記帳に書く程度の思い出になって


そんな風に願わずにはいられないのです


トントントン ツーツーツー トントントン


雨は止むのが雨なのだから

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