第13話 空気中に魔力が存在している可能性。
「ねーさん、まりょくのこさは、みずのまじゅつでかえたのか?」
一番短いヴァイと、一番長いヴァイ。
すなわち、最も魔力の濃いヴァイと次に魔力の濃いヴァイ。
この帯びた魔力の差が、姉の水の魔術によるものだと考えての質問だったわけだが、
「ううん、水は同じのだよ」
即座に否定される。
「それなら、どうやってまりょくのさが?」
水が同じものだとすれば――
「私もお試しのつもりだったんだけどね。
違いは……
人差し指を上げて、ドヤ顔をしている姉は置いておくとして、
……土か。
まあ、当然といえば当然かもしれない。
植物は地中から根を利用して水や体外の栄養素を取り入れ、生命活動を行っている。
故に水は植物にとって必須のもの。
そんな水と並び立つくらい、植物に必要とされる存在。
それが姉の中では、土だったのだろう。
「ということは、
「うん。魔力の濃い方は、
……やはりそうか。
土の魔術――姉が
俺が水の魔術を扱えるようになって以来、
どうやらその土の魔術が、
「いわれてみれば、つちのかがやきもちがうな」
ヴァイの魔力で気付かなかったが、最も魔力の濃いヴァイの畑は、ヴァイのみならず畑一面が丸ごと輝いているようにも見える。
「本当は、水の魔術で魔力量の調整もしてみたかったけど、これはこれでいいかなーって」
今回の短いヴァイの魔力の濃さを、水の魔術だけでも再現できるのか。
それとも水と土の魔術を組み合わせたからこそ、この魔力の濃さになったのか。
そんな考察の余地はまだ残っているが、それはまた今後の課題と言うことだろう。
今回の実験は、あくまで魔力――魔術とヴァイの成長の関連性の確認なわけだし。
「次回は水の魔力調整と、水と土の組み合わせで比べたいねえ」
姉自身も、既に次回のヴァイ育てに思いをはせているようだ。
……さて、それはいいとして。
未だ疑問は残っている。
「まりょくをあげてないはずのヴァイが、どうしてまりょくを?」
最も魔力の薄いヴァイ。
姉が普通の水しかあげていないはずのヴァイが、どうして魔力に染まっているのかという疑問だ。
……姉の魔術操作にミスがなかったと考えると、一体何が起きたんだろう。
「それがわからないんだよねえ」
「「むー」」
「おい、二人ともどうした? 難しい顔して」
気さくな声が、悩んでいる俺たちに語りかける。
いつもの聞き慣れた声。
安心感を与える声だ。
「お父さん!」
「とーさん!」
振り向くと少し離れた所に、一見好青年に見える男が一人。
俺たちの父親こと、ツーリンダーである。
見慣れた顔は相変わらず若々しく、十代後半にも見える整った顔立ち。
しかしその所作は、顔に似合わずガサツで大雑把だ。
そんな父が、俺たちの元へとやってくる。
……気のせいだろうか、俺以上に足取りが怪しい気がするのは。
どうやったら、3歳児よりも怪しい足取りができるんだ。
「おお……前から分かってたが、俺のヴァイよりでかいじゃねえか……」
姉の作物を見て、
……なるほど。
どうやら娘のヴァイの成長の喜びと、父の作物よりも大きく育ってしまった悔しさがブレンドされた複雑な心境が、歩みに出てしまったらしい。
顔の表情も、何とも味のある表情をしている。
そんな父の顔を見て、不安げな様子の姉。
姉は姉で自身が初めて育てた作物に、父がどのような評価を下すのか心配なのだろう。
「……やっぱりクーグルンはすげえよ! さすが俺とゾーレの娘だな!」
父のヴァイのプロとしてのプライドと、娘の成功への祝福とでは、後者の方が勝ったようだ。
武骨な手で、姉の頭をわしわしと撫でた。
「……えへへへ! すごいでしょ!」
姉もそれに対して、弾けるような笑顔で応える。
「それで、二人は何を考え込んでたんだ?
魔術については、大して分かんねえが、ヴァイについては一家言あるぞ?」
姉の頭を撫でながら、父は俺たち二人の力になろうとしてくれている。
……ほんと、良い父親だ。
前世の俺よりずっと若く見えるのに……心の方はよっぽど大人である。
「それじゃあ――」
「このヴァイのことなんだけど――」
姉と一緒に、3枚のヴァイの畑について説明すると、
「なるほど。魔力で育ててねえはずのヴァイにも、魔力が宿ってると」
姉の頭を撫でる手を止めて、父も考え始める。
魔力を与えていないヴァイに、なぜか宿る魔力。
そもそも、当然のように扱っているが、俺は魔力自体がどんな力かすら、まだ理解しているとは言えない。
前世には存在しなかった力。
魔術や魔法、超能力といった力はあくまでフィクションの存在であった故に、俺の魔術への理解はまだまだ足りないところが多いのだ。
「なあ」
思案に耽っていた俺たちに、父の声が届く。
「俺は魔術の事はわかんねえが……魔力ってうつるのか?」
……うん?
魔力がうつる?
「お父さん、どういう意味?」
同じ疑問を抱いた姉の質問に、父は応える。
「いや、ヴァイには病気があってな。
今年はうちのヴァイでは出なかったけどよ。
その病気は、風に乗って別のヴァイにうつるんだ。
病気の元が、風に乗っていくんだとさ。
魔力もそんなことあんのかなーと思って」
という父の言葉に、姉の脳が回転し始める。
「魔力がうつる……それって――」
父のその考えは、一考に値する意見だ。
俺の想像力も、大いにくすぐられている。
……もし魔力がその病気同様に、空気を介してヴァイからヴァイへうつったのだとすれば――
そう考えて、空を見上げる。
ヴァイや土に宿った魔力の様に、見えるわけではない。
だが、ひょっとするとだが――
水や土の魔術に籠められた魔力よりは、ずっと弱くて。
だが、確かに大気中に存在しているのであれば。
植物が身体に取り込むのは、水や地中の栄養素ばかりではない。
呼吸や光合成によって、体内に空気を取り込み、体外に排出するのを繰り返している。
その中に魔力が含まれていたのだとすれば――魔術の水が与えられなくても、魔力が宿るようなことが有り得るのかもしれない。
「まあ、素人考えだ。そんなに深く気にすんなよ」
父はこう言っているが、とても重要な話のような気がするのだ。
俺にとっても、姉にとっても。
ひょっとすると――魔術を扱える全ての者にとっても。
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