第4話 お昼ご飯食べるよね?
転校4日目の昼放課、今日も僕は一緒にご飯を食べる人を探していた。こう聞くと、まるで僕がボッチのようだが実際そうなのでぐうの音も出ない。
ただ、1つ言い訳をするとするならばこうなってしまったのは僕が自己紹介の挨拶をミスったからだとか、変な奴だと思われて警戒されているだとかではなくひとえに天王寺さんの存在が大きい。
僕は転校初日、類い稀なる容姿を持つ彼女に目をつけられてしまっただけに、男子生徒達から反感を買ってしまったのだ。
だから、全ての責任が彼女にあるとは言いきれないが7割くらいは彼女に責任があると言ってもいいだろう。
ともかく僕はお昼ご飯を食べてくれる相手を探していた。
だが、同じクラスのほとんど男子からは既に僕はかなり犬猿されており、別に彼女のことを好きではないであろう男子からもさわらぬ神に祟りなしと言わばわかりに避けられていた。
ただ中には勿論、僕のようなはぐれ者を受け入れてくれる人もいる。
ただ大抵そういう人は一風変わった人種が多く、僕の求める普通の友人とはかけ離れた存在である為遠慮しておくことにした。
「蓮くん、お昼ご飯食べよ〜」
勿論、彼女もその例外ではない。例外ではないどころか関わってはいけない人物の筆頭である。まぁ、転校してきてから毎日なにかと彼女の方は僕に関わろうとしてくるけど。今日でその流れを断ち切りたい。ので、ありがたく遠慮させて頂きたい所だ。
「蓮くん、聞いてる?」
「聞いてないし、聞こえてないし、聞きたくないからどっか行って欲しい。これ以上、僕に関わらないで欲しい」
「ひどっ」
「というか、僕何度も君にそうやって言ったはずだよね? ちゃんと聞いてた?」
「うん、聞いた聞いた。それでお昼ご飯どこで食べるの?」
彼女の中に会話という概念は存在しないらしい。僕の言葉など全く胃に介さず、彼女は彼女の思うがままに行動する。
やはり僕と彼女の相性は相当悪いように感じる。
「私はあそこがいいかなぁ。ほら、中庭にあるベンチ。ああいう所で男の子と2人で食べるの夢だったの。今日は天気も良いし、日当たりも良さそうだし...」
「なるほど、じゃあ君はそこで食べてくるといいよ」
「? 蓮くんもだよ?」
「ご生憎様、僕はお昼ご飯は取らない派なんだよ。だから、とても残念だけど君と一緒に食べることは出来そうもない」
相変わらず中々折れてくれそうにないので、面倒くさくなった僕はそんな嘘をついてみることにした。
「...でも、今日は私と食べる為にお昼ご飯食べてよ」
彼女の答えは僕の予想の斜め上をいくものだった。てっきり嘘だと決めつけられて終了だとばかり思っていたが、そんな手があったとは。まぁ、自分勝手の極みみたいな発想だけど。
「無茶苦茶言わないでくれる?」
僕は感心と呆れが入り混じった感情を胸に抱きつつ、軽く彼女の言葉をそうあしらう。
「というかさ、蓮くん普通にいつもお昼ご飯食べるよね?購買行って。私知ってるよ」
が、彼女は逆に余裕の態度で僕の言葉に対しそんなカウンターを繰り出してきた。どうやら、最初から僕の嘘を見抜いていたらしい。
その上で僕を泳がせて反応を楽しんでいた、ということだろうか?
「...性格の悪い」
「性格が悪いのは嘘なんてついて逃げようとした蓮くんの方でしょ?」
「...」
珍しい彼女の正論に僕は黙り込む。
「フフッ、私の勝ちだね。嘘つきには罰ってことでつべこべ言わずにお昼ご飯食べること。勿論一緒にね」
見事に彼女に完敗を喫した僕は弁当を片手に上機嫌そうに鼻歌まじりに歩く彼女の後ろをただただ黙ってついていくのだった。こうして彼女に言いくるめられて、連れ回されるのは毎日のことになっていた。
*
「そう言えばさ、昨日蓮くんの好きな事は読書って教えて貰ったけどさ将来の就きたい職業も本関連だったりするの? もしかして、出版社とか?」
「いや、普通に市の職員とかの公務員」
「いいね、街を支える立派なお仕事だ」
これも最早、毎日のことだが話す度彼女はこうして僕のことを色々と聞いてくる。そして何の変哲もなく面白味もない僕の返答を聞いては、嬉しそうな顔をする。
彼女のその表情の意味は僕には分からない。なにが嬉しいと言うのだろうか。
「あっ、でも蓮くんあんまり愛想良くないから向いてなさそう。笑顔って知ってる?」
「君は失礼って言葉の意味を覚えた方がいいと思うよ」
かと思えば彼女は真面目な顔でそんなことを言う。一応、僕の名誉の為に言っておくけど僕は別に愛想が悪いわけではない。
ただ表情を取り繕うのが少々苦手なのと、彼女に対し愛想は必要ないからだ。
何故ならそんなことをすればただただ彼女を喜ばせ、付き纏う理由を与えるだけことが目に見えているからだ。
「それくらい知ってるよ。というか、蓮くん知らないかもだけど、私そこそこ優秀なんだからね?」
「ふーん」
「なにその反応!? 言っとくけど嘘とかじゃないんだからね?」
彼女は僕の反応に心外そうにそんなことを言う。勿論、僕だってそれが嘘ではないことくらい知っている。
「前回の模試は学年1位で体力テストもほぼ満点の文武両道を地でいく完璧さんでしょ。知ってるよ」
「なーんだ、知ってたんだ。ほーん」
彼女から言ってきたことのはずなのにいざ僕がそう言うと、何故か彼女は苦虫でも噛み潰したかのような顔をする。
何故だろう。これに関しては普通に凄いことだし誇っていいことだと思うのだけれど。やはり僕に彼女の気持ちは分からない。
「ほーんってこれ君から振ってきた話題でしょ。僕は凄いと思うけどね、君の努力」
「えっ?」
すると何故か彼女は僕の何気ない言葉に驚いたように目を丸くし、固まった。
今、僕はなにか変なことを言っただろうか?
「なんで私が努力してるって?」
「だってそうでしょ。どっちもとても努力しないと成し得ないことだよ。まぁ、世の中にはそれをいとも簡単にやってのける天才さんがいるのは僕も知る所だけど、君がどういうタイプかなんて見てたら分かるし」
「...」
ここ数日彼女に付き纏われていたから分かることだが、彼女は色々と不器用だ。端的に言ってしまえば結構鈍臭い。
しかし、彼女はそこで折れたりせず何度も何度も立ち上がる。
彼女のそういう所には僕も素直に感心させられる。まぁ、その熱意を別の方向に向けて欲しいとは思うけれど。
しかし、彼女は僕の言葉が気に入らなかったのか黙り込んでしまう。
もしかして、天才とでも思われたかったのだろうか?
「僕は努力家な人はカッコいいと思うよ。素直に凄いと思う」
「...っ。ごめん」
僕はフォローの為にそう口にするが、何故か彼女は更に動揺した様子でベンチから立ち上がると走ってその場を去っていってしまった。
そして、その時僕の目には彼女の瞳からは涙が溢れたように見えた。
→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→
次回「いつもどうり」
良かった星や応援お願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます