第2話 責任とって?


「蓮くん、本当にアイスコーヒーだけで良かったの?」

「はい」

「ここのホットケーキめちゃくちゃ美味しいのに〜」



 天王寺さんに引っ張られるままに連れてこられたカフェで、お互いに注文を済ますと天王寺さんがとても残念そうにそんなことを言う。


「あの...それで話って?」


 彼女の様子に若干違和感を覚えつつも、僕は1秒でも早くこの場を離れるべく彼女にそう切り出した。


「あーまぁ実際、話ってほどの話もないんだよね。でも、もう会えないと思ってたからつい嬉しくて...」

「えっ?」

「えっ?」


 彼女から溢れた言葉に僕が思わず固まると、彼女もそれにシンクロするかのように固まる。


「...ちょっと待って。なんで蓮くんそんな心底驚いたみたいな顔してるの? 私のこと覚えてるよね?ね?」

「いや、僕は今日天王寺さんに初めて会ったけど」


 しばらくして、お互いの頼んだものが運ばれて来ると少し怖い顔つきで天王寺さんがそんなことを聞いてくるが、僕は正直にそう答える。


「...」

「...」


 その瞬間、空気が凍りつき僕も天王寺さんもお互いに何も喋らない。いや、僕に関しては喋れないが正確だろうか?


「はっ?」

「いや、嘘嘘。うん、知り合い」


 そしてまたしばらくしてお互いに届いたコーヒー等を飲み干すと、彼女の口から生命の危機を感じるほどのどす黒い声が聞こえてきて、僕は慌てて取り繕う。


「蓮くん、目が泳いでるどころかスイミーしてるよ?」


 詰んでるじゃないか。というか、スイミーしてるってなんだ。僕の目は今、天王寺さんから見て一体どういう状態なんだ。

 仕方ないので僕は「嘘をついたという嘘をついた」ということを彼女に正直に伝える事にした。


「はぁ、私が声をかけに行くまで来てくれなかったから変だなぁとは思ってたけど。そっか、蓮くん覚えてなかったんだ」

「ごめん」


 僕の正直な言葉を受けた彼女は明らかに傷ついた様子で、そう呟く。

 そして僕は謝りつつも仮に天王寺さんに会ったことがあるとして、こんな人忘れることが果たしてあるのだろうかと疑問を浮かべていた。


 なにせそれほどまでに彼女の容姿は突出しているのだ。



「ふーん、まぁ私全然気にしてないしいいよ」

「本当に?」

「うん、本当に全然気にしてないから。ただ、ふーんってだけで。うん、こっちはウキウキで再会を喜ぼうとしてたのにまさか蓮くんが私の存在自体忘れてるなんてとか全然思ってないし。うん、全然気にしてないからね」

「全然、気にしてるじゃないか」

「フフッ。なんか今の蓮くんっぽい」


 恐らく気を遣ってくれたのだろう天王寺さんのあからさますぎる嘘に対し、僕が思わず反射的に言葉を返すと彼女は笑みを零し、そんなことを言う。

 普通なら彼女のその笑顔に見惚れてしまうが、だが何故か僕はその笑顔を不気味だと思った。あまりに綺麗すぎるのだ。絵画に描かれた作品かと見紛うほど。まるで作られたのかのような。

 いや、これは天王寺さんの容姿が綺麗すぎるが故にそう感じるだけだろうか?


「? 蓮くんどうしたの?」

「いや、天王寺さん人嫌いって聞いてたので思ったより喋るし、笑うんだなぁと」


 僕が少し考え込んでいると、天王寺さんが覗き込んできて僕は何故だか咄嗟にそんな嘘をついてしまった。


「まぁ、私は重度の人嫌いだけど。相手が蓮くんだし」

「まぁ、僕天王寺さんのこと覚えてないんですけどね」

「酷っ」


 すると彼女はそんなことを言いつつまた笑みをこぼす。しかし、どうしても僕にはそれが作り物のように見えてしょうがなかった。

 ただまぁ、彼女と会話する分には一切支障は出ないのでもう気にせず話をすることにする。


「事実ですし」

「あっ、そう言えば聞きたいことが1つ出来たんだけどね。蓮くんが私のこと覚えてないってのはよく分かったんだけど、だとしてもなんでさっき声をかけに来なかったの?」

「えっ? それはどうゆう?」


 僕は彼女の言っていることがイマイチ分からず、聞き返す。


「いや、だって蓮くんの名前に私反応して声を出したんだよ? だから、それを口実に私に声をかけれるチャンスなんだから男子だったら声をかけに来ると思うんだけど」


 すると、彼女はなんてことないようにそんなことを言う。案外、彼女は自分の容姿に自信があるタイプなのかもしれない。

 まぁでも彼女ほどの容姿ならそうでなくてもそんな疑問を抱いてもおかしくはないか。


「いや、だってそんなことしたら目立つから」


 今回は嘘をつく必要性がない為、僕は正直に彼女の問いに対し答える。


「えっ、蓮くん目立つの嫌なの?」

「逆に天王寺さんは目立つの好きなんですか」

「いや、私は嫌いだけど、でも蓮くんは運動神経抜群で体育とかで活躍しては目立って笑顔で手を振ってるイメージだったから」

「その蓮くん誰なんですか」


 僕は知らないぞ、そんな陽キャの象徴みたいな人。


「それに蓮くんは私のピンチになると空を飛んで駆けつけてきて守ってくれるような男の子だったし...」


 最早、その蓮くん人間ですらないじゃないか。


「本格的に誰ですか? というか、やっぱり僕天王寺さんの言ってる蓮くんじゃないですよ。ともかく、僕は天王寺さんのこと知りませんし「普通」の生活が送りたいのでこれ以上声をかけてくるのはやめて下さい。それじゃ」


 丁度いい頃合いだと思い、僕は流れのまま代金を置きそう言い残すと席を立つ。これ以上彼女と一緒にいては、どんどん僕の理想とする「普通」の学校生活が遠のいてしまう。


「っ。待って」


 しかし、すんでのところで僕は彼女に掴まれ引き止められてしまう。


「私の勘違いじゃないよ。蓮くんはやっぱり蓮くんだよ。それに蓮くんは私のこと覚えてなくても私と関わる義務があるんだよ」

「義務?」


 それでもなんとか逃げようと体を動かしていた僕だが、彼女から出た言葉に思わず足を止める。

 通常、義務というものは法律上または道徳上しなくてはならないもの、又、してはならないものだが僕と彼女はそんなものが求められるの関係だったのか? 

 だとしたら、いよいよ何故僕が彼女を知らないのかがおかしくてしょうがないのだが。


「ここに来たとき、私「話ってほどの話はない」って言ったけどあれ嘘なの。本当は1つ蓮くんに伝えないといけないことがあるの」


 急に天王寺さんは真剣な表情とかしこまった態度で、そんなことを口にする。


「なに?」


 僕の背中に嫌な冷や汗が流れるが、何の力も持たない弱い僕はそう尋ねることしか出来ない。まるで裁判長の判定を待つ被告人にでもなったかのような気分だ。

 やがて、裁判長かのじょは息を決したかのように僕を真正面から見つめる。


「あの時の責任とって?」


 そして、彼女が顔と顔がぶつかるんじゃないかと思うほど僕に近寄りそう呟くと、僕の頬にとても柔らかな感触が触れるのだった。



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 次回「一緒に帰ろ?」




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