転校早々、会ったことも見たこともない人嫌いで有名な美少女が責任を取れと迫ってくる件
タカ 536号機
第1話 出逢い
突然だが、関わってはならない人とはどんな人物だろう?
犯罪に手を染めるような人だろうか?
それとも、電車内で突然叫び出すような人だろうか?
はたまた、SNSで痛々しい言動を繰り返す人だろうか?
きっと人によって答えは様々で中にはキノコの山が好きな人、なんていう過激なたけのこの里派の人だっているのかもしれない。
そして僕にとっての関わってはならない人とは、とにかく目立つ人だ。
例えばたった今、目が合ってしまった彼女のような人である。
転校初日、先生に呼ばれ挨拶をする為に新しく学校生活を共にする教室へと足を踏み入れた僕は彼女を見るなり関わってはならない人だと一瞬で認識した。
そしてその理由は、彼女が緊張で手足が震えまともに顔を見れなかった僕が思わず2度見してしまうほど周囲の視線を惹き寄せる
まぁ、とはいえ僕が気をつけるようなことは殆どない。何故なら、彼女ように目立つ存在の周りには同じように目立つ存在が居て、至って普通な僕のことなど気にも留めないからである。
だから、僕も特に気にすることなく当初の予定通りただただ平々凡々な自己紹介をこなせばいいだけだ。
ただ少し気になる点があるとすれば先程彼女と目が合った時、彼女が一瞬
「じゃあ、黒川くん早速だけど自己紹介をお願いしてもいいかしら?」
気を取り直し教卓の上に立った僕に今日から担任となる橋本先生が、そう声をかける。
「はい」
転校生の挨拶ということで否が応でも好奇心や興味など様々な感情が入り混じったありとあらゆる視線が僕の方へと向けられる。
しかし、先程の彼女のインパクトに勝るものではなく、僕はリラックスしていた。彼女と関わるようなことはないだろうし、むしろ彼女が教室にいてくれて良かったのかもしれない。
「初めまして、こんにちは。親の都合でこちらの高校へと転校する運びとなりました。趣味は読書、好きな食べ物はリンゴです」
密かに考えを改めつつ、僕は至って普通の自己紹介をする。順調だ。まさか、この自己紹介で変人だと思われることはないだろうし距離を取られることもないだろう。
完璧といっても差し支えないかもしれない。朝、家で1時間練習した甲斐があったというものだ。ここまで来れば最早ウイニングランだ。
「
ここまでは僕の自己紹介は平々凡々で何の変哲もないものだった。
「黒川 蓮っっ!?」
彼女のそんな声さえなければ...。
そして、僕の方へと向いていた視線は声の方向へと向くこととなる。
勿論、僕も例外ではなく一体誰なのかと声の主の方向へと視線を向ける。
「黒川、黒川、蓮...」
しかし、次の瞬間教室中に満ちていた疑問符はざわめきへと変わることとなる。
それもそのはず、僕の名前に反応し声を上げ
そしてその時点で、僕の完璧に平々凡々であった自己紹介は崩れ去ってしまったことを僕は痛感する。
案の定、教室には更なる混乱が巻き起こり主に男子生徒からは嫉妬や悪意に満ちた視線が僕を襲った。
「嘘...嘘...」
そんな阿鼻叫喚の中、当の本人である彼女はうわ事のようにそんなことを繰り返しているのだった。いや、「嘘...」は僕のセリフなのだけれど。
*
しかし不幸中の幸いなことに、結局あの後僕の名前に反応した彼女から話しかけてくるなんてことはなかった。
そのおかげか、僕に向けられていた男子生徒達からの刺々しい視線も弱まり、昼放課にもなると1人の男子生徒が僕に声をかけに来てくれた。
そんな彼の名前は
「海外からってマ? 大変だなぁ、俺は生まれてからずっと日本で良かった」
「あはは、まあね」
正直な所、彼のようなタイプと僕はあまり気が合わないが、自己紹介失敗のせいで男子生徒から敵対視され友達が作れるか危うい僕にとって彼は救世主のような存在なのでそうも言ってられない。
そこで僕はらしくもなく作り笑いをし彼のノリに合わせることにした。側から見れば必死に取り繕っている様子は見苦しいかもしれないが、僕が望むのは「普通」の学校生活。
あの時のように友達が作れないなんてことがあってはならないのだ。
「というかさ、結局のアレなんだったんだろうな」
すると、先程まで軽くヘラヘラと笑っていた彼は目を鋭くさせ、本題と言わんばかりにそんなことを尋ねてきた。
「...アレって?」
僕はおおよそなにか分かりつつも、とぼけるフリをする。
「
すると、彼は僕が求めたわけでもないのに、僕の自己紹介を壊した彼女のことについて自分のことのように意気揚々と話始めた。
曰く、彼女は天王寺 しおりと言うらしく学校内でもトップの美少女。
そう上、運動も勉強もトップクラスというまさしく完璧超人といって差し支えない人物らしい。
しかし、どうやら彼女は人嫌いらしく声をかけても無視が当たり前。もし仮に、遊びにでも誘おうものなら「アナタ達と出掛けるくらいなら、1日中納豆をかき混ぜ続けたらどうなるのか調べる方が100倍有意義」と言われ心をへし折られる。その上、彼女は特に男が嫌いらしく告白をしても返事がないどころか、軽く舌打ちをされるらしい。
「だからさあ、そんな天王寺さんが人のしかも男の名前に反応するなんて珍しいどころじゃないと思ったんだけど。...知り合い?」
「いや、違うけど」
少し詮索するような彼の言葉に僕は即座に反論する。確かに、僕は以前この辺りの地域に住んでいたこともあったので知り合いがいてもおかしくはない。
しかし、彼女のような目立つ存在を忘れるとは到底思えないので、僕の記憶にないということは彼女のことをどこかで見たことすらないのである。
「マジで言ってる?」
「うん」
彼はまだ疑っているようで、僕の肩を掴み顔を覗き込みながら何度もそうたずねてくる。
「でも、まぁあれ以降は普段通りの天王寺さんだしお前も声をかけられたりもしてないもんなぁ」
そうして何回かの詮索の後、彼は納得したようにそう口にした。ようやく分かってくれたらしい。
「でも、気をつけろよ? たまたま天王寺さんに名前を呼んでもらったからって天王寺さんに近寄るような真似したら、天王寺ファンの奴らになにされるか」
そんなことを言う彼もその内の1人なのだろう。口では僕のことを心配しつつも、目では僕に対し警戒心を向けていた。
「言われなくても、近寄らないし僕なんかじゃ近寄れないよ。そんなこと岩橋くんだって分かってるよね?」
「そっか、そこまで分かってるならいいや。じゃあ、俺たち友達な」
慌てて僕がそう口にすると、ようやく彼は警戒心を薄め僕に向かって手を差し出してきた。そして対する僕もそれに合わせ、手を差し出すのだった。
*
思えば僕は油断していた。自己紹介でハプニングはありつつも、それ以降彼女が僕に対してアクションを起こすことはなく友人を作ることができた。
このまま、僕の理想とする「普通」の学校生活を送れるのだとばかり思っていた。否、信じていた。
「あの、黒川くんこの後ちょっといい? そのカフェとかどう? 2人で話がしたい」
「えっ?」
しかし、そんな僕の平々凡々な幻想はまたしても彼女の声よって崩れ去ることになった。
教室中から好奇と嫉妬の視線を浴び、僕の背中を冷や汗がダラダラと流れまともに思考出来なくなる。
「オッケー、じゃあ行くよ」
しかし、天王寺さんはそんな僕のことなど知ったこっちゃないと言わんばかりに、机の横にかけてあった僕のバックを取り強引に僕の手を引くと、教室の外へと連れ出すのだった。
そして、それは僕と石橋くんの友好関係が崩れ去った瞬間でもあった。
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次回「責任とって?」
良ければ星や応援お願いします。今回は、紙の方に完結まで書いてきたのでそれは保証します。
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