第28話 散財に次ぐ散財!シン・増田、恩返しの巻
俺達は映画を見終わった後、街でカフェ巡りやクレープ巡りをしていた(させられていた)。そして彼女の行きつけだというス●バに辿り着いたのだが……、
「ん~~美味しい! やっぱりス●バのカフェラテは最高~~!」
「はあ~、まだ飲むんですか? カフェイン過剰摂取は体に良くないですよ」
眼鏡の美少女―――もとい
俺が「何でもします!」 なんて軽はずみな発言をしたもんだから、今まさに彼女に恩返しさせられている訳なのである。
都内のカフェ巡りに始まり、人気クレープ屋巡り。櫻井さんは食べたいものあれやこれやと注文し、お金は全て俺が支払った。何せ、奢れ! という強い圧を感じたからである。とはいえ櫻井さんも流石に遠慮が無さすぎると思う。
いくら財布を拾ってくれた恩人とはいえ、今日だけでどんだけ飲み食いしてんだよ! 残金500円しかないんだけど!
お陰で3回はATMに駆け込むはめになった。まぁ、俺はMADMAXから貰ったお金があるから多少の出費に関しては痛くも痒くもないが、普通の学生なら破産していてもおかしくない。てか、櫻井さんにこんな裏の顔があると思わなかったから大分ショックを受けている。
「はーーい、まっすー恩返しの旅、続いては~、お洋服のショッピング!」
何を思ったのか、俺を気軽にあだ名呼びした後、とんでもない宣言をし始めた。え、まだ買わせる気なの? 流石にもう無理だ。我慢していたけど、俺の心はもう限界だ。
「もう勘弁してください! 今日あなたにいくら使ったと思ってるんですか! もう財布すっからかんなんですけど!」
「えー、買ってくれないの?」
「大体ねぇ、限度ってもんがあるでしょうが! 確かにあなたは恩人ですけど、だからと言って何をしてもいいわけじゃないでしょうよ! 釣り合ってないんですよ、御恩と奉公の価値が!」
人目をはばからず、かなり大きな声を出して怒ってしまった。そのせいでス●バに来ていた客が一斉に俺達の方を向いた。
「ヒソヒソ、何あの子達? 痴話喧嘩?」
「ヒソヒソ、やめろ、ほっとけって!」
「ヒソヒソ、女の子に怒るなんてサイテー」
うっ……、客達の小言が耳にこびり付く。だが、そんなのを恐れているようでは男、増田の価値が下がるってもんよ。さぁ、櫻井さんよ。何か言い返してみなさい。どんな事を言われようと俺は決してめげん。いつでも来なさい!
「う~~ん、それもそっか。奢られっぱなしじゃ対等じゃないもんね……。それじゃあ、こうしよう」
「?」
「増田くんが買ってくれた分だけ……、お姉さん、イイコトさせてあ・げ・る」
「~~~~~っ、ちょっ……と! こんな所でそんな事言わないでくださいよぉ、てかお姉さんて……、同い年でしょう!?」
まさかの爆弾発言。本気か? 本気なのか?
彼女は柔らかな表情で緩んだ口角を少しだけ上げる。そして眼鏡の奥の瞳は美しく輝きながら、俺を真っ直ぐに捉えている。
「てか、そんな
「とか言っちゃって~、ホントはしたいんでしょ」
「したぁぁ~~~~い♡」
世紀末かな。自分でも生まれてきた事を後悔するぐらい情けなく、気持ちの悪い声が喉奥からハミングした。
―――――――――――――――――――
ス●バを後にした俺達は通りを並んで歩く。目的地の服屋はあそこの角を曲がって400m程進んだところにあるという。歩いている途中、通行人達の視線が気になった。
それもそうか。櫻井さんの美貌は黒淵の眼鏡やボーイッシュな服装では全く隠せていないのだから。そんな美少女と一緒に冴えない俺が歩いてるものだから余計に気になるのだろう。俺ですらこんな美少女と比べられるのは億劫になるレベルで可愛いのだから。端から見たら不釣り合いな男女とでも思われているのかな。
あらぬ事を想像しながら歩いていると、突然櫻井さんが俺の左手を抱き寄せて腕を組み始めた。
「ちょっ……、何やってんですか!」
「ふふっ、こっちの方が恋人っぽいでしょ」
櫻井さんが近くに来たことによって、俺の心臓の鼓動はさらに速まる。甘い花の香水の匂い、サラサラとした黒い長髪の煌めき、微かに感じる肌の温もり、その全てが純情な感情を剥き出しにさせて、俺の本能へと訴えかけるように魅惑する。
「恥ずかしい……です……、少しだけ……」
「
やばい。櫻井さんの耳元での囁き、1つ1つに理性が弾き飛びそうになる。でも、俺は新藤さんっていう心に決めた人がいるんだ。そう思うことで何とか自分を律し、堪えていた。
でも、この状況、完全に恋人同士にしか見えないよなぁ……。本人に見られたら何て言い訳しようか。
なんて事を考えていると不意に櫻井さんが話し掛けてきた。
「そういえば、増田くん。先日のデートはどうなったの?」
「いや、まぁ色々ありましたけど、上手く行ったんじゃないですかね」
「ふ~ん、今いい感じなんだ」
「まっ……、まだ完全に付き合ってるという訳じゃないですけどね……。告白もまだタイミングが合わなくて出来てないですし……」
「奥手だねぇ……。早いとこ告白しとかないと、意中の子、誰かに取られちゃうかもよ」
「うっ……、それは嫌だ……」
新藤さんが他の男の人に取られるなんて想像したくないが、起こり得なくもない未来だ。早いところ覚悟を決めた方がいいのだろうか……。いや、でもそもそも新藤さんは俺の事どう思っているんだろ……。その辺気にした事なかったけど……、無自覚に嫌われていたりしないよな。あらぬことを心配し、気分が悪くなってきた。
「ねぇねぇ増田くん、お相手の写真とかないの? 気になるから見せてよ」
「嫌ですよ。あなたと会うの2回目じゃないですか。そういうのは気心知れた人に見せたいですし、第一あなたに見せたら悪用されそうで……って痛タタタタタタッ!」
しまった! 言い過ぎた。散財魔とはいえ恩人である櫻井さんを無自覚に貶してしまった俺は左腕を思い切りつねられた。表情は笑顔をキープしてるものの、その笑顔の裏からは怒りが滲み出ていた。目が笑ってない! 怖いって!
「ふ~ん、私の事そういう風に思ってるんだ~。見損なったよ、まっすー?」
「ひぃぃぃ、ごめんなさい、ごめんなさい。謝りますから腕をつねるのをやめて下さい!」
ひたすら謝りようやく俺はつねりから解放された。全くひどい目にあった。この人は怒らせたら怖いと、心のノートにメモをするのであった。
てか……、それは置いとくとして通行人の視線がさっきよりも鋭くて、辛い。「もげろ」何て言葉がテレパシーのように聞こえてくるし。
「もげろ、もげろ、さっさともげろ~~!」
「クソが! 何だってあんな冴えない男が! 彼氏なんだよ!」
「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ―――』
ひぃぃぃ、1人何らかの術式を詠唱してるめっちゃ怖い人いるんですけど。え、何なのマジで。俺だって望んでこんな状況になった訳じゃないのに恨まれるのは違うくない?
俺は通行人達への恐怖に悶えていたが、櫻井さんは全く意に介してないどころか、この状況するも楽しんでいるように思える。絶対櫻井さんにも聞こえてるよな、この人達の声。だとしたら強靭なメンタルの持ち主だ。恐るべし。
「さっ、もうすぐ着くよ。前から欲しかった服あったんですよね~」
「あんまり高いものとか……やめてくださいね」
釘を刺しつつ店先に到着したその時、後方から誰かの声がした。
「まっ……、増田さん……、誰ですか……、その女性?」
嫌な予感が当たった。その透き通った声の持ち主は1人しかいない。背筋が凍り、冷や汗をかきながら恐る恐る後ろを振り返る。
「しっ……、新藤さん……、ぐっ……、偶然ですね……、こっ……、こんな……、所で……、会うなんて……」
やばい。突然の出来事過ぎて言葉が上手く出てこない。
「増田さんこそどうしてここに……、ってミオちゃん!?」
「え、アリサちゃん!?」
櫻井さんがそう言った瞬間、新藤さんの顔が急に青ざめたように見えた。
「あっ……」
「あっ……、やば……!」
「え、ミオ? アリサ? どういう事?」
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