第26話 結果オーライ!増田はこれからもEnjoyできるって!あと投票フォームも直ったぞ!
「マジでカッケーあの人、ホントすげぇよ!」
「ああ、YouTubeでしか見たことなかったからさ、生で見たらやっぱすげーわあの人!」
戌威さんのあまりにもカッコ良すぎる戦闘シーンを見た俺達は興奮していた。周りの人々も沸き立ち、まるでライブ会場のように一体となっていた。
満身創痍の俺と京田が熱く語り合っていると、
「おい、そこのお前!」
俺をギロっと睨み付けながら戌威さんが近付いて来た。
「はっ、はい!」
俺は背筋を正して彼女に向き合う。何? 怒ってる? 俺もしかして何かした?
その時、彼女が懐から右手を出した。まずい! 殴られる。そう思ってぎゅっと目を閉じたのだが、
「お前、中々カッコ良かったぞ」
そう言って俺の頭にポンと手を置いた。想定外の事態に拍子抜けしたが、とりあえず殴られなくて良かった……。何だかいいことをして褒められた子供と母親のような構図に俺は少し照れくさかった。
「へへっ、ありがとうございます」
俺がそう言うと、
「ムスーーッ!」
「しっ、新藤さん!?」
何故か新藤さんがほっぺをプクーと膨らませて俺と戌威さんを凝視していた。
その様子を見た戌威さんは何やら察したようで含みのある笑みを浮かべ、
「あー、お前らそういう関係? 邪魔したな、後は楽しめよ」
と言い残し、颯爽と帰って行った。人々は
「戌威メラ万歳!」
と言って彼女を追いかけて行った。やれやれ、張り倒されてもしらないぞ。そんなことを考えていると、珍しく怒った表情をした新藤さんが話しかけてきた。
「増田さんずっとあの人の胸見てなかった?」
ギクッ! バレてた。てかこーいうのって本当にバレるもんなんだな。めっちゃ気付かれないよう自然にチラチラ見てた程度なのに……。新藤さんの言葉にちょっと棘を感じる。
「えっ、いや、見てないですよ……誤解です!」
俺は必死に弁明するが、新藤さんの膨れっ面は直らなかった。すると、マネージャーが俺の近くに来て話しかけてきた。
「相変わらずね、あなたは。
でも増田、私は思い違いをしていた。てっきり愛華の顔だけを見て近付いて来たのかと思ったけど、どうやら違うみたいね。
あなたの情熱に私も心打たれたわ。さっきの発言許してくれるかしら」
「いいですよ、俺は。これからも新藤さんと会ってもいいんですか?」
「ええ、許可します。私が止める権限もないしね」
その言葉には値千金の価値があった。止まっていた世界が動き出し、俺に活力を与えるのを感じた。
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は吠えた。意中の人の前で躊躇いもせず。新藤さんは恥ずかしそうに下を向いたけど、京田と芦屋さんは、
「良かったなぁ、増田」
「増田チャン、おめでとう!」
と声をかけてくれた。
「ちょっ、皆さん、恥ずかしいです……」
新藤さんは恥ずかしさに耐えられなくなったのか、タオルで顔を包んで縮こまってしまった。
まあ何はともあれ一件落着という事でいいのではないだろうか。
―――――――――――――――――――
水族館の後予定していたショッピング等は警察の事情聴取、俺と京田のケガの治療のため病院を行脚したためやむを得ず中止となった。仕方ない、また会えるんだし計画を立てよう。
今日の出来事はかなりショッキングだった。人生で初めて殴られるという経験をしたし、周りの皆も怖い思いをしただろうな。幸い新藤さんと芦屋さんにケガはなかった。今回の件、芦屋さんとか特に引きづりそうな感じだったけど、今は元気そうでよかった。
京田は幸い骨は折れてなかったものの、打撲箇所が多すぎてしばらくは包帯が取れなさそうだ。でも、趣味のパソコンはどうしてもやりたいみたいで、足の指でカタカタキーボードを打つとか豪語していた。京田ならやってのけそうだが……。ちなみに病院の待ち時間で水没した俺のスマホをちょいちょいと直してくれたのはかなりびっくりしたが……。
ちなみにマネージャーさんは結構重症で入院&全治1ヶ月の大ケガを負ったそう。半グレにとどめを刺していたからタフそうに感じてたが、実は結構無理をしていたのだという。しばらくは別の人が新藤さんのマネージャーを務めるらしい。早く治る事を祈るばかりだ。
俺達は駅のホームで別れを告げていた。
「今日はありがとうございました」
新藤さんとは家の方向が違うのでここでお別れだ。
「はい、また会いましょう!」
俺は決意を固めて言う。
「京田さん達も今日は本当にありがとうございました。お二人とも今後もよろしくお願いします」
「おう、不良相手に全然活躍出来ずに申し訳ないぐらいだが……」
「いいよ、京田君もカッコ良かったよ」
「何か照れるなぁ……」
うっ……、京田達何かいい感じじゃね? もしかして本当に付き合ってるのか。気になるが、今は経過観察だな。
「じゃあまた今度」
そう言って新藤さんは環状線の電車に乗った。扉が閉まる直前俺は、
「また今度会いましょう!」
と手を振る。新藤さんも手を振り、遠ざかる電車から新藤さんが見えなくなるまで俺は見送りを続けた。
「行っちゃったな」
「今度は4人でショッピングに行こう、約束だぞ」
「大賛成ーー!」
俺達は電車を乗り継ぎ京田の家付近までやって来た。ああ、後から知った事なのだが、芦屋さんの家もこの付近らしく。聞けば京田の家から200mぐらいしか変わらないらしい。というわけで2人ともここでお別れだ。
「じゃあまたねー! 増田君」
「俺は近いから芦屋さんを送って帰るよ」
「おう、気を付けろよ! じゃあまたなー!」
そう言って俺は京田達を見送る。さて、俺も次の電車で帰るとするか。そう思い、おもむろにスマホを取り出すとLINEが一件入っていた。
「あっ、新藤さんから連絡? なになに……、えっ! 投票サイト直ったのか」
どうやらサイトのバグが改善されて、新藤さんが投票フォームに表示されたらしい。
「俺にはこれぐらいしか力になれないけど、頑張って欲しいな」
俺は残りの1票を新藤さんに入れた。
―――――――――――――――――――
何とかサイトをいじってもらって私の本名を追加することができた。これで増田さんに怪しまれずに済む。でも、1つ疑問に思う事があったので峰田さんに確認することにした。
私はさっそく電話をかける。
「そういえば、新藤愛華に投票したらどうなるんですか」
「えっ、普通に神童アリサに票入るように細工してあるけど」
「えっ」
淡々とした峰田さんの回答に拍子抜けした。これが芸能界の闇というものだろうか。てか、こんなことして増田さんにバレないのだろうか。私の疑問は募るばかりだった。
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