第25話 歌って踊って殴れる歌い手戌威メラ!!
俺達は唖然としていた。戌威さんの戦闘力は間違いなく53万だ。
「手加減してやっから、3人まとめて来いや」
戦う前にそう挑発したのにはびっくりしたが、始まってみると一方的だった。
男達は3人とも頭に血が昇り、戌威さんを倒そうと必死にパンチを繰り出すが、彼女は半グレ達をいなし続け、続けざまにワンツーからの左ボディ、右アッパーからの金的。アウチ! 男のシンボルがぁぁぁ。って言うてる場合か!
「ふっ! どりゃあ」
大柄な男が死角から襲いかかるが、
「遅ぇ」
そう一蹴し、裏拳をぶち込む。
「ガハッ!」
「よくも兄貴を!」
横から棒のような物で殴りかかってきた細マッチョを
「邪魔」
と言い。手刀で棒を粉砕し、腹に蹴りを入れた。
「ゲバァ!」
「おらぁぁぁ!」
頭上からスキンヘッドの男が迫る。しかし、
「格闘技の基礎がなってない。組長とやらに一からしごいて貰え!」
と吐き捨て、男を背負い投げした。
「ダバァ!」
男達は満身創痍だが、最後の力を振り絞って立ち上がる。
「ふーん、まだやる?」
戌威さんは呆れたように呟く。どこかその目は虚空を見つめてるような……。
「3人一気にかかるぞ、強いっていってもたかが女だ。至近距離から力で捩じ伏せれば勝てる」
男達はタイミングを合わせ、一斉に飛びかかる。
「「「うおおおおおお!」」」
威勢も良くてバッチリ! と思いきや
「覇ッ!」
回し蹴りで3人とも一蹴した。
「「「ギャァァァァァァーー!」」」
男達は断末魔を上げながら倒れる。
「すっ……すげえ!」
「あの人強ッ!」
傍観者含め俺達もさっきから驚くことしかできない。てか最初からこの人に戦ってもらった方が良かったまである。
「一件落着か?」
俺がそう言うと、
「いや、まだ後ろ残ってる!」
群衆が口々に言う。
「この野郎貴様ァァァァァァ!」
スキンヘッドの男が戌威さんに飛びかかろうとしたその時、
「お前はよくも愛華を! 汚らわしい手で触ったな!」
復活したマネージャーが間に割って入った。そして、渾身の右ストレートを男の顔面ど真ん中に向かって放った。
「ゴバギャァ!」
情けない声を上げながらスキンヘッドの男は遥か後方に吹っ飛んだ。見ると気を失っている。半グレ全員戦闘不能かつ失神していた。
人々も拍手喝采、警備員も出動し、警察に通報する者もちょくちょく現れた。さっきのマネージャーの言葉が少し響いたのかな。
それにしても俺は……、ダメだな。
向こうでは戌威さんとマネージャーさんが会話していた。
「ねーちゃんやるねぇ! 相当格闘技噛ってんだろ?」
「まあそれなりに。貴女には勝てそうにないですが……」
「ハハッ謙遜すんなって、あ飼育員さーん、コイツらサメの水槽に放り込んで置いて」
さらっとキツイ冗談を言う戌威さん。
「やめてあげて!」
そうしたいのは山々だが、倫理的にNGです。
そうこうしている内に警察が到着し、半グレ達をパトカーに乗せて去って行った。
「覚えてろ、元ヤンーーーー!」
半グレ達は最後の最後まで往生際が悪かった。全くどの口が言ってんだか。パトカーの姿がどんどん小さくなって見えなくなった。
――――――――――――――――――――
「危ないところを、本当にありがとうございました」
「フン、別にお前の為じゃねぇし。あんなムカつく奴あたしも久しぶりに見たからさ。いてもたってもいられなくて……」
すると、人々が何かに気付いたように戌威さんを指差しながら、
「あれ……もしかして戌威メラじゃないか?歌い手の……」
と言い始めた。人々は顔を見合せ、口々に言う。
「本当だ! あの歌い手の大会に出てる!」
「うおおおおおお! 戌威メラ万歳!」
「人気投票入れるぞーーー!」
水族館が熱狂的なライブ会場に様変わりし、戌威さんを中心に群衆が押し寄せた。私はその人波に飲まれてしまったのだけれど。
「もしかしてこれが狙いですか、戌威さん」
私がそう言うと、戌威さんは不機嫌な顔付きになり、
「ちげぇよ。お前はあたしがそんな事すると思うのか?」
とドスの効いた声で威圧してきた。
「いえ、滅相もございません! 助かりました」
「ならいい。大会はもう始まってんだ。無駄にほっつき歩いてんじゃねぇよ」
「戌威さんだって水族館来てたじゃないですかー!」
「あたしは今日この近くでイベントがあったから帰りに来ただけだ。てか歌い手神童アリ…(グブルルル何する!)」
戌威さんが私の正体をバラシかけたので慌てて彼女の口を押さえる。
「すみません、私の正体のことは黙っててください! 事務所とか契約とか色々あるんです!」
「悪かったな! 分かったから手を離せ! 殺す気か! アタシはもう行く。じゃあな」
そう言って戌威さんは私から遠ざかっていった。やっぱりあの人、不器用なだけで優しいのかな。もう少し仲良くなったら連絡先交換できるかもと捕らぬ狸の皮算用をするのであった。
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