第20話 水族館でWデート、しかし増田と京田が対立!?

 駅の中の時計台、それはデートの待ち合わせ場所の定番である。そこには数多の男女が、彼氏彼女の到着を今か今かと待ちわびている。俺もその内の1人だ。今日は新藤さんから誘われて水族館デートに行くこととなった。最高の1日になるだろう。コイツらさえついて来なかったら尚良かったのだが。


 そんなくだらない事を考えていると、駅の西口階段からピンクのロングヘアーを風に靡かせた美少女の姿が見えた。彼女は辺りをきょろきょろと見回し、俺達の姿を発見すると右手を振りながら小走りで近付いて来た。


 そんな姿の新藤さんも可愛いな。京田と芦屋さんに悟られないよう、心の中で堪能するのであった。


「お待たせー! ごめんなさい、遅れちゃって、待ちました?」


 よほど急いで来たのか、息遣いが荒い。しかし、その姿さえどこか上品さを感じた。彼女の気品だかさがそうさせているのだろうか。


「いやいや全然、俺も今来た所です」


 ここは男増田。大海のように広い心を持て。例え意中の人が遅れて来たとしても動じず、怒らず、常に冷静に、優しく笑顔で出迎える。それが男の信条というものであろう。そう常々思う、今日この頃であった。


 ああそう言えば京田達、新藤さんに会うの初めてだよな。初対面だし、きちんと紹介しとかないと。


「あと、紹介します。こちらが友達の京田でその……」


 そこで俺は言葉に詰まった。ヤバい、これ彼女って紹介してもいいのかな? 京田と芦屋さんは今日カップルの振りをして来てはいるが、実際の所、付き合ってはいない。それは俺も重々承知しているのだが、新藤さんに嘘を付いて紹介するのはどこか抵抗があった。何より事前に打ち合わせもしてないもんだから、芦屋さんも彼女と紹介される事に違和感がないのか気になる。


 どうしたものかと思い、チラッと2人の方を見ると、芦屋さんが緩く口角を上げてVサインをしていた。ああ、OKということなのだろう。まあ、いいか。後の事は2人に任せよう。


「……彼女の芦屋さんです」


「まあ、増田さんのお友達なんですね! 初めまして私、新藤愛華しんどうあいかって言います! 今日は1日よろしくお願いします!」


「初めまして、京田将暉きょうだまさきです。ウチの増田が迷惑かけててすみません。今日はどうぞよろしく!」


 お前は親か! 恥ずかしいからそういうことするなよな、全く。


「初めまして、の彼女の芦屋凛月あしやりつきで~す! うわぁ、増田ちゃんの彼女生で会ったらすっごい可愛いね~! 今日は全力で楽しもーね!」


「なっ……、彼女じゃないですよ(ありませんよ)」


 俺と新藤さんがほぼ同時に叫んだ。


 しかし、あまりにも息がピッタリだったため、俺達は顔を見合わせて赤くなった。その様子を京田達がニヤニヤして見てくるのがやけに腹が立つ。


 てか芦屋さん、キャラ変わりすぎだろ。普段は大人しくて控えめな人なのに今日に限ってどこかはっちゃけているように見える。それに京田のことは『きょうちん』呼びか……。ちょっと笑えるかも。


 芦屋さんが変貌したのは性格だけでなく服装もだ。学校では髪もボサボサで特に化粧もせず、制服以外の服を着ている所を見たことがないが、今日はしっかりメイクをしており、別人かと見間違う程お淑やかな美少女になっている。


 薄い緑のサラサラ髪のツインテールに日焼けしてない真っ白な肌、長い睫毛にクリリとした翡翠色の綺麗な目。淡いピンク色の口紅。服装はミモレ丈のスカートにヒールを履いており、少し大人っぽさも感じられる。


 良く見ると可愛いな芦屋さんも。今日みたいにちゃんとメイクしたら学校でもモテそうなのに勿体ないなと思ったのは内緒だ。


 さて、皆揃った事だしそろそろ出発かな。


「まっ……、取りあえず全員揃った事だし、行きましょうか」


「そうですね。増田さん、W楽しみましょうね!」


「おっふ!」


 新藤さんの笑顔に悶絶するのであった。




 ―――――――――――――――――――




 俺達は電車を乗り継ぎ、街の中心にある水族館にやって来た。流石は東京、やはり人が多い。


 外は初夏の暑さがあったが、中に入ると冷房が涼しくて快適だった。ほどよい暗さと悠々自適に泳いでる魚達を見るのは楽しい。


「あ、あれオウムガイだ! 凄げぇ! 図鑑で見たアンモナイトみたいだ」


「こっちはウミウシとチンアナゴがいますよ! わ~可愛い。写真撮ろうっと♪」


「ニモ(カクレクマノミ)とドリー(ナンヨウハギ)だ。綺麗な色だな」


「マンボウだ! 大きいね~!」


「ダイオウグソクムシってでっかいダンゴムシみたいだね。こんなのが深海にいるなんて考えたらちょっと怖いなぁ」


「わっ、アザラシだ。こっち向いて~!」


「凄い、ここペンギンが沢山いるぞ!」


 久しぶりに来た水族館はとても楽しく、童心に返ったように感じた。皆が好きな生物を順番に見て回って、あっという間に時間が過ぎた。


 さて、いよいよ水族館Wデートの締めくくり、ここはやはり目玉のあれを見るしかなかろう!


「やっぱり最後はイルカショーですよね! 時間もないですし、チケット買いに行きましょう!」


 俺が悠々と前売り券売場に行こうとしたその時、


「いや、アシカショーだろ!」


 と京田が俺の前に立ち塞がった。


 え? 何でアシカショー? 普通水族館と言えばイルカショーじゃんね。読者の皆様はどっち派ですか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る