第18話 デートの計画を立てましょう!そして怒てる峰田のSOUL!HEY!

「増田……、増田って言ったわよね。誰よそれ……」


 そう言うのは、私の専属マネージャーである峰田薫みねたかおるさん。黒いスーツに身を包んだバリバリのキャリアウーマンっぽい見た目でお団子に結えた黒髪に眼鏡をかけている。年齢は非公開らしく、勇気を出して聞いた社員さんは地獄を見たらしい。私もこの峰田さんには幾度も助けられてきたけど、唯一困っている部分がある。それは……、


「もしかして彼氏? ねぇ、アリサ!」


 男女交際の話題になると、しつこく問いただしてくるのだ。峰田さんの言葉を聞いた社員さん達は驚いた表情を見せた。


「えーーー、アリサちゃんに彼氏が!?」


「おめでとうーーーー!」


「こんなに可愛いアリサちゃんと付き合うなんて許せない……、祝ってやる!」


「幸せならOKです!」


 峰田さんの言葉を真に受けた社員さん方は祝福ムードになる。


「いやいや皆さん違います! 付き合ってないですよ! ただの友達です!」


 私がそう言うと、皆白けた顔をして『なーんだ』と言わんばかりに去って行った。まあ、面倒なマネージャーさんに付き合ってられないというのが大半だと思うけど……。


 さて、デスクを除いた社員さん方全員が持ち場に戻り、その場に残っているのは私と峰田さんだけになった。峰田さんは改まって私に話し始めた。


「まさかアリサ、自分の正体バラしてないでしょうね! 」


「それはもう徹底してます!」


 バレかけたことがあるとは口が裂けても言えなかった。すると、峰田さんが何かに気付いたかのように目を見開いた。


「あーー! 思い出した、アリサこの前電話かけてきたわよね。正体をバラしたい友達がいるって! それってアリサがさっき言った増田って言う人?」


「そっ……、それは……」


「増田なのね?」


「あっ……あの……、はい」


 しまった……。この前相談した時話した事と増田さんが点と点で繋がってしまった。どうしよう、このままじゃ増田さんに迷惑がかかっちゃう!


 しかし、次に峰田さんが発した言葉は意外なものだった。


「アリサ、彼と会う約束をしなさい」


 突拍子のない提案に、私は面食らった。


「え? でも、大会期間中なのでそれは……」


「関係ありません!」


『どういう意味ですか』と聞く前に峰田さんの独壇場が始まる。


「男なんてね、皆クソなのよ。」


「ちょっと峰田さん?」


「アリサはねぇ、自分が思っているより可愛いのよ。男なら全員落とせるくらいにね!


 だからその増田っていう男もアリサの外見だけ見て近寄ってきたっていう可能性があるわけ!」


「ちょっと! それは言い過ぎです!」


 さすがの私でも増田さんをウジ虫呼ばわりされることは許せなかった。しかし、峰田さんは止まらない。


「あんたは黙ってなさい! いいわね! 私が奴の正体を見破ってあげる! 裏の顔を見ればアリサも諦めがつくでしょう」


 なっ……、何だか大変なことになっちゃったよぉ。増田さん。どうしたらいいのぉ。


 事態は"混沌カオス"極まる。




 ―――――――――――――――――――




 それは、突然の出来事だった。俺が連絡を躊躇っていたら新藤さんの方から電話がかかってきたのだ。


 俺はびっくりした。しかし、同時にこれはチャンスかもしれないと思い直した。今度は失敗しないようにとセルフで念押しし、画面の『電話に出る』をタップした。


『あっ、もしもしお久しぶりです。新藤です!』


「もしもし、新藤さん! 珍しいね。そっちから連絡なんて……、どうかしたの?」


『あっ……、はい……あのぅ……、この前は本当にすみませんでした。会えなくなるかもしれないって言ってしまって』


「いえ、全然気にしてないですけど。だって新藤さん忙しいでしょ……、歌い手の大会に出るとかってああっ!」


『ビクゥッ)、どうしました?』


「もしかして新藤さんに出場するんですか?」


『(ーうしよーーバレそ、え? そのまま?  分かりました。)はい、そうなんデスヨ! 私も一歌い手として応募してみたんですヨネー』


「何で片言なんですか! でも凄いと思いますよ! だってあの有名な歌い手5名参加されるんですから物凄い大会になりますよ! 新藤さんのらあの神童アリサに匹敵するかもだから、もしかしたら決勝まで残るかもしれませんねー」


『ア、ハイ、ソーデスネー。ワタシ、頑張ってアリサチャンに勝つゾーナンチャッテ』


「何でおじさん構文みたいな喋り方なんですか! まあそれは置いといて、何の電話でしたっけこれ?」


『ああ、そうでしたね! ええと、増田さんって今週の土曜日って何かありますか?』


「ええと、特にないですけど……」


『よかった! そしたらどこか一緒に遊びに行きませんか?』


 え……?


 今、なんて……?


 どこかに……?


 遊びに行こう……?


 夢かこれ!


「えっ! マジですか! もちろんです! 行きましょう! 行きましょう!」


 天から与えられしこのチャンス。物にできなければ男が廃る。臆するな増田。ここは攻めて攻めて攻めまくれ。そういう訳で俺はカラオケ以外の場所を提示してみることにした。


「どこか行きたい場所ってありますか? たまにはカラオケ以外もいいかなーって」


『そうですねー……、あ水族館とかどうですか?』


 キタッ! 水族館! デートスポット三種の神器(?)のうちの1ヵ所! え? 勝ったのでは? 私、男増田、運命に抗い栄光を手にしたのでは? てか新藤さんが行きたい場所に俺が行きたくないって言う理由なんか無い!


「いいですねー! 俺も魚めっちゃ好きなんで楽しみです! その後オシャレなカフェとかあとショッピングとか行きませんか?」


『それもいいですね! 行きましょう! (え? 何? 増田ますます許せないって……、ちょっと黙ってて!)』


 何やらぶつぶつ言っているけれど、親フラかな。うん、思春期に親に電話を聞かれるのは嫌だよな。男、増田は敢えてそこに触れない。男たるもの紳士であるべき。それが俺の騎士道精神也。


「じゃあ今週の土曜日○✕駅集合で!」


『はい! お願いします!』


 そう言って通話は切れた。電話が切れた瞬間俺は両手を掲げてガッツポーズした。そして、勝利の雄叫びを上げる。


「いやーーーー! 最高! マジで最高! マジで神様ありがとう! 俺ってば運良すぎ! そうだ! 後で京田達に自慢してやろうっと!」


 俺のルンルンは止まらないのであった。

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