第12話 非公式ファンサイト立ち上げへの道!そして神絵師求む!

 『ピンポーン』


 都心郊外のマンションの一角、とある人物を訪ねて俺はやって来た。


 ドア付近のインターホンを鳴らすがいつまで経っても、誰も出てこない。


「おかしいな、いつもこの時間だったらいる筈なんだけどな」


 不思議に思いつつも、俺はもう一度インターホンを鳴らす。


 しかし、結果は同じ。


「出掛けてるのかなぁ……」


 また改めて出直すか。そう思いその場から立ち去ろうとしたその瞬間、


『ガチャッ……、あー、あーー、誰だ? って増田か? 何の用だ?』


 インターホン越しに、寝ぼけた声が聞こえてきた。相変わらず適当でムカつく声だ。


「やっぱりお前いるじゃねぇか。いるんだったらさっさと出ろよ!」


『しゃーねーだろ! 今起きたとこなんだから。て言うか日曜日の昼間に来る奴があるか!』


「夕べLINE入れただろ。しっかりスタンプ付きでOKって返ってきたのは気のせいか?」


『だーー! めんどくせぇ……、こうなるなら簡単に返事しなきゃ良かったぜ。わかった、わかった、そんな目で見るなって、傷付くだろ。今片付けて開けるから10分待ってろ! ガチャ……』


 矢継ぎ早に喋り終わった後、ガチャっと乱雑にインターホンが切れた。


 「ったく……、10年来の付き合いだっつーのに適当な奴だぜ。全く」


 アイツの聞こえない所でボソッと呟く。


 奴の無頓着さには、さすがの俺も呆れるしかなかった。




 ―――――――――――――――――――




 俺がわざわざ電車を乗り継いでまで会いに来た人物―――京田将暉きょうだまさきは中学校の時の同級生だ。高校は別々になってしまったが、今でもこうして連絡を取り合い、たまに家に遊びに行ったりもしている。京田は頭が良く、都内の進学校に通っており成績も学年でトップ10に入る程である。そんな京田の趣味はパソコン。休日は主にパソコンをカタカタ動かしてプログラミングしたり、ゲームを自作したり、サイトを運営したりと幅広く活動している。


 京田は俺を家に上げてくれた。しばらくお互いの近況について談笑していたが、京田が思い出したかのように本題に話を移した。


「で、何の用だっけ? 俺に何か頼みたいことがあるとか」


 そう、今回どうしてもコイツに協力して欲しい事。それは神童アリサの非公式ファンクラブを立ち上げについてだ。


 俺はパソコンの知識が乏しいが、神童アリサについてならいくらでも語れるくらい熱狂的なオタクである。


 そこにコイツのパソコン力と俺のアリサ推しが交われば、ファン爆増確定間違いなし!


 俺は一通り経緯を説明した。熱がこもってついつい長々と話してしまったが、想いは伝わっただろう。俺が語り終わると京田は、


「うーん、まあできるっちゃできる。今は簡単に作成できるテンプレートとかあるしな。ていうか俺らがそんな必死になって作る必要ある? その歌い手の大会があるんだったら神童アリサの事務所がオフィシャルで出すだろうからそれを待ってればいいんじゃね」


 と言った。


「京田よ! お前は何も分かっていない! ファンサイト及びファンクラブは公式が出すもの、その前提が間違っている!」


「間違ってはないだろ!」


「確かに神童アリサ自身もファンサイトを作るかもしれない! でもそれじゃあファンの愛が足りないんじゃあないかい。自発的にファンサイトを立ち上げるような熱狂的なファン。その存在が世の中に分散しているファン達を1ヶ所に集め強固な絆で結ばれるっていうもんじゃあないのかい?」


「すみません、よくわかりません」


「分からなくて結構、で、出来ないの?」


 そう問い詰めると、京田が呆れたように溜め息を吐き、


「わーった、わーった、やるよ。だが、これ結構大変な作業だからな。完成したら飯奢れよ?」


 と言った。やった! 京田の協力を取り付けることができた! これで目標に一歩前進だ!


「もちろんだとも! 本当に助かる!」


「悪友の頼みだ、しゃーねー。だが、サイトだけでは味気ないな。何かイラストレーターとかいてくれたら色味が出て、いい感じになるんだけどな」


 イラストレーターね。確かに無機質なサイトだけでは味気ない。京田は昔からデザインのセンスがないので、そっち方面に強い人材を補強する必要がある。


「神絵師は追々探しておくよ。取りあえず京田はサイトの立ち上げから運営まで頼むよ!」


「わかった。1週間くれ。サイト自体は完璧に仕上げてやる。お前は神童アリサのイメージイラストを描いてくれる絵師を早く連れてきてくれよ」


「ああ、約束する!」


 そう言って俺は京田の家から出た。何をするにも時間が惜しい。とにかく神童アリサを少しでも有利にするために行動しなければ! それがファンでありファンの鑑となる男、増田の生き様だ。


「神絵師……、神絵師……か。ん? そういえばクラスメイトに神童アリサの大ファンでいつもファンアートを描いてる女の子がいたな。確か名前は……。明日にでも話を聞いてみるか」

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