第13話 サイト完成!しかし、増田の恋路は……

「わっ……、私がサイトに出るイラストのデザインを……? いやいや無理無理無理無理! そんなの私以外にもっといい人いるって!」


 月曜日の朝、俺が声をかけたクラスメイト―――芦屋凛月あしやりつきはイラスト・漫画研究部に所属している女子だ。


 背は150センチくらいで、癖っ毛のあるロングヘアーにクリリとした目。睫毛が長く、ぷるっとした淡いピンク色の唇が特徴的だ。


 俺が芦屋さんに声をかけた理由、それは彼女の絵は学年全体で見ても筆舌に尽くしがたいからだ。同級生に聞けば、冬コミで同人誌を発売したことがあるとか。


 そして最近は神童アリサにドはまりし、彼女のファンアートをひたすら描いているらしい。そしてXに投稿している。


 俺も気になって彼女のXを見てみたが、一言で言うとエクセレント! これだ! まさに俺が求めていたものは! というわけで彼女に協力してもらうべく、必死の説得に応じている訳なのだが……、


「いや、俺が見てきた限り神童アリサのファンアート芦屋さんが一番上手いんだよ! 神童アリサのファン歴1年の俺が言うんだ。頼むよ~~ 」


 神童アリサは顔出しをしていない。テレビ出演や取材対応での顔出しもデビューしてから一貫して行っておらず、イメージディレクターを務めるCHEGEBARAチェゲバラのイラストが使われている。


 そのイラストを元に様々な画風のファンアート(界隈ではArisartアリサートと呼ばれる)が様々なSNSで投稿されている。その中でも郡を抜いて上手いのが芦屋さん!


 いいねもリポストも多く集まり、神童アリサ本人からも引用リポストしてもらったことがあるという。声をかけない方がおかしいだろう。


「大丈夫だよ。芦屋さんならきっと上手くできる。それに芦屋さんの才能をもっと本人に認知してもらういい機会じゃない?」


 そう言うと、今まで自信無さげに話を聞いていた芦屋さんの目が輝き、


「そうだね……、そう言われると自信出てきたかも、うん、私頑張るよ!」


 と言ってくれた。


「ありがとう! 本当にありがとう!」


 何とか芦屋さんの協力を取り付けることができた。




 ―――――――――――――――――――




 その後、京田に芦屋さんを紹介し、3人でサイト立ち上げに明け暮れること1週間……、


「つっ……、遂に完成したぞ!」


「やったーーー!」


「頑張った甲斐があったね!」


 遂に文句なしの非公式ファンクラブが完成した。もはやオフィシャルファンサイトと言われても遜色ないぐらいの出来だ。京田の技術もさることながら、芦屋さんのイラストがサイトに彩りを与えている。


「あとは、歌唱絶姫決定戦に関する情報を適宜追加していけば、いいだろう。運営は俺と増田に任せろ!」


「うん!」


 京田の発言に芦屋さんが同意する。


 一仕事終えた俺達は京田の家で軽く乾杯することにした。もちろん未成年なのでコーラで我慢する。


 しばらく今後について談笑していると、何を思ったのか芦屋さんが急に、


「ところで、増田さんは噂の人とはどうなったの?」


 と尋ねてきた。


「ブーーーー!」


 不意をつかれた俺は思わず、コーラを京田の顔面に吐き出してしまった。京田は大慌てでシャワーを浴びに行き、15秒くらいで戻ってきた。


 この後、サイト運営代と称し、2ヶ月分の俺の小遣いを奪われる羽目になったのだが、それはまた別の話。


「なになに? 増田彼女いるの?」


 京田は色恋沙汰に興味ないと思っていたけど、話題の対象が俺ということもあり、ぐいぐいと突っ込んできた。


「いやいや、あれは新聞部の奴らに嵌められたんだって! たまたまカラオケで相席しただけでまだそーいう仲っていう訳じゃあ……」


「カラオケで相席って、聞いたことないよー。私ならしないかなぁ……」


「俺もだ。てか、お前に気があったから相席したんじゃねーのか?」


 芦屋さんと京田が口々に言う。言われてみれば、『カラオケで相席って何? 聞いたことないんだけど』と今この瞬間思ったが、2人には内緒にしておく。


「べべ……、別にそんなんじゃないし~、待ち時間とか勿体ないから一緒に歌った方が楽しいし、効率的だし~」


「おい、しどろもどろになってるじゃねぇか。図星だな」


「ふふっ、増田君たら可愛いとこあんじゃん」


 2人に詰められて冷や汗だらだらである。しかし、芦屋さんと京田、中々相性いいな。こういう時に限って。


「で、お相手の人と進展はあったのか?」


 京田が核心をつく質問をしてきた。


「それが……その……」


 これ以上はぐらかしても無駄だと思い、俺は観念したように2人に今までのことを打ち明けた。


 話を聞き終わった2人は、


「はぁー、歌い手の大会に参加するから会えない? そんな馬鹿な。毎日あるわけじゃなし、会おうと思えばいつでも会えるだろ!」


「そうだよ~、お相手の人も増田君がそれでも会いたいって言ってくれるかどうか試してたんじゃないの?」


 と言った。


「なっ……、そっ……、そういう事ー!?」


 ぬかった……! 俺は新藤さんに試されていたのか! 言われて見れば、会えないこともないじゃん! お陰で大切な事に気付けた。やはり持つべきものは友である。


「今からでもいいから一言連絡してみたらどうだ? 案外振り向いてくれるかもよ」


「ううっ……、ちょっと恥ずかしいな」


「大丈夫だって! 増田君私から見てもそんなに顔悪くないし、押せば行けるよ多分」


「ホントかなぁ……、まあ2人がそう言ってくれるなら……、連絡してみようかなぁ……。いや、でも今さら恥ずかしい!」


 2人が後押ししてくれたものの、この日はどうにも恥ずかしくて連絡することが出来なかった。2人からは『臆病者』というレッテルを貼られたが、仕方のないことだろう。


 今日の所は持ち帰ると言って、お開きになった。俺は京田の家を出て、帰路につく。


 電車に揺られ、窓から東京の景色を眺めながら、想いを馳せる。


「新藤さん、俺ってそんなに臆病かな……」

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