第7話 もしかして、ワンチャンいやツーチャン、いやいやスリーチャンあるのでは!!?
「フンフフンフフーン♪」
俺は上機嫌に鼻歌を歌いながら通学路を闊歩する。一昨日のことを思い出すとニヤニヤが止まらない。まさか美少女と一緒にカラオケできて、しかも神童アリサの大ファン同士だとは!
ファンクラブ立ち上げにライブ巡り、忙しくなりそうだなぁ。
そう思っていたのだが……、
「なっ……、なんだこれ??」
学校に着くなり、俺は開いた口が塞がらなかった。
「増田、お前やるなーー!」
「いや、ただのヒョロガリだと思ってたけどあんな……、ねぇ……、まさか……! むるんふっふっふ!」
「やりますねぇ!」
「ヒソヒソ、何あの人。あんな可愛い子と付き合っちゃって!」
「マジウケるんだけどーー!」
クラスで……、いや学年で俺は噂になっていた。それもその筈、廊下の掲示板には俺と新藤さんがカフェで仲良さげに喋ってる写真付きの新聞が貼られていた。
見出しにはこう書かれていた。
『号外!! あの日陰者でクラスでプカプカ浮いてる増田が○○町○○役場付近の○✕カフェで美少女と密会! ~男女の風紀を守り隊の独占インタビュー付き!~』
俺はその場で膝をついて崩れ落ちた。
はぁぁぁーー! これでは俺と、新藤さんが付き合っているみたいに見えるじゃんかよーー!
いや、そりゃ付き合いたい願望はないわけではないけど、本人達の意思を無視するなよ!
それにこの写真、一体誰がいつどこで撮ったんだよーー!
あり得ねーー! 恥ずかしーー! マジムカつくーーー!
さっきから、ずーーーっとクラスの奴らにもみくちゃにされる。これが結構ウザくて中には俺と新藤さんの関係をしつこく問いただしてくる者までいた。
「付き合ってるのか、付き合ってないのか、どっちなんだい!」
なか●まきん●くんやめれ!
「絶対に~~~、神に誓って~~~、皆には~~言わないから、どこまで~~デキてんのか~~教えてクレメンス!」
コイツは持久走で一緒に走ろうって行って裏切って置いてく奴の筆頭格だ。絶対に教えてたまるか!
「Aした? Bした? Cした?」
貴様は道徳を義務教育からやり直せ!
埒があかないので、俺は慌てて逃げ出した。
後ろで生徒達が、
「逃げるなー! 卑怯者ーーー! 逃げるなー!」
と叫んでいたが、無視する。
何とか追手を振り切り、屋上へ避難してきたところだ。
クッソー、何で俺がこんな目に……!
これを作ったのは恐らく……、奴らだ!
あいつら……、覚えてろよ。
こうして俺は追手が諦めて帰るまで屋上で時間を潰すのだった。
――――――――――――――――――――
「おい! なんだこの適当な記事は今すぐ取り消せこの陰キャ気質の新聞部野郎!」
俺は怒鳴り込みながら、部屋のドアを思いっきり開いた。
バァンと音がなって、中にいた奴ら(計3人)が一斉に俺の方を見た。
俺に恥をかかせた元凶、新聞部の奴らは小学校の頃からの知り合いで、地元では根暗三兄弟と呼ばれている。いつもクラスの端っこにいて、体育祭や文化祭の時も教室でゲームをやっている所謂日陰者。
それだけなら良かったのだが、高校に入ってからというものの、奴らは既存の新聞部の部員を追い出し、自分達の帝国を築き始めた。そして、平穏だった学級新聞や学年だよりは週刊誌並のゴシップや教員の不倫を堂々と写真付きで公開していた。
それが熱狂的な人気を生み、調子に乗った新聞部はエスカレートしていった。時にはありもしないことを記事にし、恨まれることもあったとか。その標的が今回俺になってしまったという訳だ。
三兄弟は一斉に立ち上がり、1人ずつ喋り始めた。
「ムム、今の暴言聞き捨てなりませんねぇ」
「ウチラ新聞部は治外法権、報道の自由が認められているんだよ、ボーイ」
「緻密な取材に基づいて作った記事を適当だとぉ!? 新聞部なめんじゃあねぇ!」
はっ……、反省してねぇ! コイツら……、開き直りやがって……! ワナワナと怒りが込み上げてきた。
「それっぽいこと言ってんじゃねぇ! まず、この写真いつ撮ったんだ! 肖像権の侵害だぞ! 相手にも失礼だろ!
あとこの文章なんだこれ??
『増田は相手の方と向かい合い、愛の告白を行った! それはそれはとてもサブかったが、お二人結ばれておめでとう!』
なんだこれ? ふざけるのも大概にしろよ!」
しかし、三兄弟は全く動じずに、
「何、コイツに俺達の恐ろしさを教えてやらねばならんな。皆行くぞ!」
「「おおっ!」」
「吾輩は
「わちきは
「ぼくちんは
とヒーローばりの自己紹介をし、決まったという表情でそれぞれポーズをとった。うん、クソダサい。
ていうか、ツッコミたい所が他にもある!
「お前らの名前大丈夫か! 親恨んだことないんか! あと、お前らの好きな性癖知りたくねぇよ! 需要ねぇから!」
「「「いやぁ~、それほどでもぉ!」」」
「ほめてねぇよ! てかその程度の国語力の奴らが新聞部やるな!」
全くしょうがない奴らだ。ここはガツンと一発……、
「まあまあ、それは置いといて……、増田よ。実際どうなのだ?」
思いがけないことを聞いてきた。不意をつかれたような気分だ。
「え?」
「この噂の美少女とどこまで進んでるんですかぁ?」
「いや、えっと、それは……そのぉ……、まぁそれなりに、仲はいいような……気は……する」
「連絡先とか交換したのかぞぇ?」
「あっ、一応……」
そう言った途端、三兄弟は急にテンションが上がって
「「「フーーーーーーーーーーーー!」」」
と手元のタオルをぐるぐる回しながら叫んだ。
「うっ……、うるせぇな。いいだろ別に!」
「小童よ、お前は何も分かってない。相手が嫌ならわざわざ連絡先を交換してこないだろう、ということは脈アリのサインなんじゃないかい?」
「!!」
脈……、アリ……、だと?
「「そうだ! そうだ!」」
「男は押してなんぼのもんじゃい!今がチャンスだ、押して押して押しまくれ!そしてあの子のハートをバッキュン!」
ダサッ! でも、考えてみれば嫌いな相手とわざわざ連絡先交換しないよな。カフェに行ったときも楽しそうだったし、もしかして……、
「ふわぁぁぁ……、もしかしたら、ワンチャンいやツーチャン、いやいやスリーチャンあるかも~~!!」
俺が自信ありげに言うと、
「「「そうだ! そうだ! その意気だ!」」」
三兄弟揃って俺を応援してくれた。
「ありがとう、俺デートに誘ってみるよ!」
俺はまた浮かれ気分で新聞部の部室を出た。
――――――――――――――――――――
増田が部屋を出て数十秒後……、
「うまく躱したな」
「チョロQですわよ」
「さて、ゴシップ収集に行きましょう!」
相変わらずの三兄弟であった。増田はこの件をきっかけに、『褒めれば上手く躱せる男』という不名誉な称号が広まるのであった。
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