第6話 何やら壮大な計画が始まろうとしている!?
「良かった~~、新藤さんも彼女の推しだったんですね~。早く言ってくださいよぉ~!」
「え、ええ~、えええ~~、あっ、いや、そ~~なんですよね、ワタシ神童アリサの大ファンナンデスヨー。アアー、ダイスキー」
やっぱりそうか。新藤さん――彼女は神童アリサの大ファンなんだ! だからところどころ変な反応をしていたのだろう。急に相手から推しの名前を出されると嬉しさで動揺してしどろもどろになってしまうのだろう。分かる~分かるぞ、その気持ち。
しかし、せっかく繋がった大ファン同士、神童アリサを応援する活動をしたい。実の所俺は推し活というものに興味がある。ライブや舞台を見に行ったり、限定もののCDやBlu-ray、配信映像を鑑賞したり……、グッズを買ったりコラボカフェに行ってみるっていうのもいいなぁ。あとは、SNSで推しを布教したり……。ん……? 待てよ……!? 閃いたぞ!
「そうだ! 2人でファンクラブ作りませんか! 神童アリサファンクラブ! 彼女まだそういうのないみたいですし、非公式とはいえかなり人数集まるはず、クラファンとか新曲の情報とかファンアンケートとか色々……」
「はっ……話が大きくなっちゃってませんか?」
「いやいや、絶対ファンクラブいりますって! こんなに人気なのに! 公式が出さないなら俺達で作りましょう!」
「いえいえ、私にはそんな大掛かりな事できませんよ。それに、増田さんはどうしてそんなに神童アリサが好きなんですか?」
どうして……か。
「ああ、それは1年前かな。初めてYouTubeで彼女の歌声を聞いた時めちゃくちゃ感動してしまって……、その時登録者もまだ70人くらいでコメントも一件もなかったんだ。だから……、ちょっと見せるの恥ずかしいけど、長文コメント送ってみたんだ!はいこれが当時の動画かな?」
俺はYouTubeを開き、自身が送ったコメントを開いて見せた。これが後に後悔することになるとは知らずに。
「えっ……、あの時のコメントってまさ……、いやいや凄く丁寧で熱心なコメントですね! これはアリサちゃんも喜んだんじゃナインデスカネー」
「そうなんだよー! 本人から返信来て! めっちゃ嬉しかったんだ! そしたら毎日歌ってみた投稿してくれて! いつか売れる、いつか売れると思っていたらこんな大ヒットするなんて! もう俺のコメントなんて埋もれるのが当たり前になっちゃったけど、あの時は2人だけの空間って気がして楽しかったな~。自慢じゃないけどかなりの古参ファンなんですよ」
「そっ……そうだったんですね。あなたが……」
「ん? どうしました?」
「いえ、何でもないです。あっ、連絡先交換しませんか? 今後もまた会うかもしれませんし!」
キタッ! これはまたとないチャンス。実はどうやって連絡先聞こうか迷ってたけど向こうから聞いてくれるとはありがたい。
「いいですね! こちらこそ是非!」
こうして俺達は連絡先を交換した。その後会計を済ませ、カフェの外で解散することにした。
「じゃあファンクラブの件、考えといてくださいね~」
そういって俺は意気揚々と引き上げる。
ああ、今日は何ていい日なんだろう。でも、やりたいこといっぱいあるなぁ~。これから忙しくなりそうだぞ~。
俺は足早に家へと帰るのであった。
―――――――――――――――――――
離れていく彼の背中を見つめる。
「やっと見つけた……。増田さんあなたが……あの時……、私に……」
私が何か足りないと思っていたこと、それは……。
―――――――――――――――――――
とある大手レコード会社があった。
その社内の一室で密談が行われていた。
「社長、本当にこの企画やるおつもりですか?」
「当たり前ダね。僕を誰だと思ってるのカな?」
その社長らしき人物は新人で覚束ない女性秘書をギロッと睨んだ。その鋭い眼光に秘書は恐れおののく。
「いえ、決して否定している訳ではございませんが……、彼女達が果たしてこの要請に応じるでしょうか?」
秘書の問いが愚問だと言わんばかりに社長は顔をしかめた。そして背もたれから体を起こし、机の上に肘をつき前のめりになって喋り始める。
「音楽業界は過渡期を迎えてイる。最近は有象無象が跋扈し、旧態依然とした歌手ばかリだ。しかし、時代を象徴する歌い手がこの年に集結シた。では、我々が疑問に思うことは1つ、誰が本物の歌姫でえるのカだ」
「歌姫……ですか?」
「ああ、ここ5年以内で急速に成長している歌い手……、彼女らを戦わせ誰が天下を取るに相応しいかジャッジさせてもらおうではないか」
社長は不敵な笑みを浮かべる。秘書も社長の狙いに気付いたようだ。
「ですが……」
「心配しなくとも応じルさ。彼女達の野望は国内にとどまらナい。その点を上手く利用スる。目指すは日本一……、いや世界!」
「!!」
「これは歌い手の歌い手による歌い手のための決戦、名付けて
そして彼女達以外にも有望な若手株を炙り出し、早々に目を付けてオく。フフフ、巨大なビジネスになりそうダね。」
「ゴクリ……」
壮大な計画が行われようとしていた。秘書は意見する立場になく、息をのむばかりであった。会議室には社長の高らかな笑い声だけが響くのであった。
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