第14話

 みんなが俺を見る。

 ボスを倒したことがバレた?

 いや、見えていないはずだ。


「な、何がですか?」

「ヤリス、クマのボスを倒したよな?」

「い、いえ、見えていなかったようですが戦士さんが気絶するほどの力を振り絞って倒したんですよ」


 2人で戦士を見ると気絶している。


「い、いや、だが、クマは剣の攻撃を受けていない。明らかに内部破壊だ。それに、ヤリスが剣を投げた時の音が凄かった。そして剣が肩に当たるとあり得ないほどクマの巨体がよろめいた。色々おかしい」

「お、おかしいなあ、戦士さんが倒したのに、その、戦士さんが攻撃した凄い音と、俺の動きが、ダブって、な、何か、勘違いしていませんか?」


「いや、そうは見えなかった」

「でも、俺、戦士さんの方から凄い音を聞きましたけど?」

「そ、そうか、いや、俺も何が起きたのかまでは正確に分かっていない、見えてはいない。だがあの状況は……」

「ぼ、僕も見えませんでした。戦士さんが凄すぎて何が何だか、それよりも帰りましょう」


 こうして俺はアリシアに吸血をして貰い戦士さんを魔法で治癒してもらった。

 その間に馬車にモンスターが積み込まれてパンパンになった。


「ボスの回収は、人を呼んで来よう。すまんな、馬車はモンスターで使ってしまった」

「いえ、いいですよ、僕たちは帰りますね」

「ヤリス、おんぶして」


「おいおい、そりゃああんまりだろ、ヤリスはもう4回も吸血を受けている! その上でおんぶをして走って帰るのは異常だ!」

「大丈夫です、行けますんで」


 一刻も早くここから離れたい。

 何も聞かれたくないのだ。


「皆に何かあればこっちが困るんだ!」

「先輩、僕も後ろを走っていいですか!」

「うん、帰ろう」


 「学園生は底が知れないな、もう危険は無いとは思うが、気を付けて帰ってくれ。もしヤリスが倒れたら頼むぞ」

「はい、任せてください!」

「お疲れ様です」


 俺はアリシアをおんぶして走る。

 後ろからモーブ君が付いてくる。

 頑張ってついてくる。

 少しだけ早く走ろう。


 モーブ君は離されてもそれでも食らいついてくる。



 ◇



 街に帰るとモーブ君が地面に寝ころんで息をあげる。


「はあ、はあ、はあ、流石、ヤリス、さん、4回も吸血して、いえ、その前からなので今日何回目の吸血かは分かりません。あんなに無理をして、はあ、はあ、僕よりも全然はや、い、なんて」


 その話題は危険だ。

 違う話題に変えよう。


「モーブ君は走るのが好きなのかな?」

「はい、子供の頃はよく田舎で走り回っていました。ヤリス先輩は僕に親身になってくれるんですね」

「そ、そんな事は……子供の頃にしていた楽しくて疲れる事、モーブ君は走って訓練するのが向いているのかもしれないね」


「ああ、そういえば、なんで、気づかなかったんだろう? ……ああ、僕は手っ取り早く、強くなりたいと思っていました。裏技のような何かを探して、は、はははは、そんなものは無いのに、僕は、カッコ悪いですね」


 いやいや、モーブ君は学習し過ぎだ。

 優秀過ぎるだろ。

 普通1日だけでそこまで悟る?

 抜群の吸収力だろ!

 

「モーブ君は優秀だよ。これから伸びるだろうね」

「あ、ありがとうございます!」


「俺は、帰るね」

「あ、待ってください」


 モーブ君は疲れているはずの足で立ち上がった。


「ありがとうございました」


 そして丁寧に礼をする。


 いい子だな。


「うん、また」

「はい!」


 お互いに手を振って別れた。


「そろそろ歩く?」

「いいわ、おんぶされたままで」

「そっか」


 いやいやいやいや。

 おんぶするのはいいよ。

 でも今日は朝からアレが元気すぎてヤバイ。


「ねえ、暗くなって来たわね」


 耳元でその声で囁くのはやめて欲しい。

 吐息が耳にかかるように言うのはやめて欲しい。

 『暗くなって来たわね』とか言わないで欲しい。


 全部の要素がエロく聞こえてしまう。


「帰ったらお風呂? 食事、それとも……」

「なに! 最後まで言って!」


 自動的に良からぬ妄想を膨らませてしまう。



 ◇



【学園美人サキュバス教師視点】


 モンスター狩りに行っていた女性兵士が学園へと訪れる。

 私はお茶とお菓子を出した。


「テスター、持って来たよ」

「それで、どうでしたか?」

「うーん、魔道具で撮影はしたけど、映像を見ても何が起きているのか分からなかったんだよねえ」

「構いません、分析は任せてください」


 彼女は魔導士の称号を得るはずだったがその授与を遅らせている。

 理由は生徒の事を監視してもらう為だった。

 戦士や魔導士相手だと対象が警戒してしまう。


 話しやすい兵士としてヤリス君の力を見極める事が目的だ。

 モーブ君はフェイクとしての役目を果たした、もちろん本人には言っていない。


 ハインリッヒペンタゴン・イーグルアイ。

 彼は見切りの力を持ち、誰がどの役割を果たせばいいかいつも考えている。 

 彼が一番に押していたのがレアジョブのアリシアさんでも、ヨウコさんでもなくヤリス君だった。


 ハイン君いわく『ヤリスは戦士になる資質を持ち亜人スキル持ちを引き上げる事が出来る。ヤリスの成長率の高さは常軌を逸している』と言った。


 そしてこうも報告した『ヤリスは結婚と活躍する事に抵抗を持っている。ヤリスは自分が必要以上にしっかりとやらなければいけないと思い込んでいる』


 映像を再生するとヤリス君がクマのボスを倒していた。

 素手で、1撃で、一瞬で。


 ああ、やっと尻尾を出してくれた。

 明日は楽しくなりそう。


「ふふ、ふふふふふ」

「テスター、その笑い方怖いからね」

「失礼しました」


「テスターってサキュバスのスキルを持ってるでしょ?」

「ええ」

「性欲があるでしょ?」

「まあ、そうですね」


 サキュバスのスキルを持つ者は性欲が高いと言われている。


「なんでそんなにモテるのに結婚しないの? なんでまだ経験が無いの? なんで女の人からしか生命力を吸わないの?」

「そうですねえ」


 紅茶を飲んでお菓子を食べる。

 そしてぺろりと自分の舌を舐めた。


「最近、気になる人が出来ました」

「え? だれ? だれだれ!? テスターが! 誰々、誰なの!」


「でも、学園の生徒ですから」

「……そっちかあ」


 彼女には分からない人間、そう聞こえるように言った。

 そして禁断の愛、そう思わせる言い方で言った。

 でも彼女が撮影しているヤリス君、それが私の想う相手だ。


「先生ですから卒業までは中々手は出せませんし、それに、彼は結構モテるんですよ」

「テスターも大変だね」


「それはいいのですが、問題は今から仕事が残っています」

「え?」

「この映像の解析と編集です。明日までに終わらせる必要があります」


「ええ、まさか、王命?」

「はい、明日王が学園の視察に来ます。王が見るので分かりやすく映像を編集する必要があります」

「邪魔してごめん、すぐ帰るね」

「いえいえ、映像ありがとうございます。また一緒にお茶を飲みましょう」

「うん、またね」


 彼女を見送った後自分の部屋に戻る。

 私はヤリス君の動画を分析する。

 服を脱いで自分を慰めながら見続ける。


「はあ、はあ、ふふ、ふふふふふ、ああ、ヤリス君、やっぱりぃ、良いオスの匂いがすると思っていましたぁ。ん、はあ、はあ、ヤリス君、ヤリス君、はあ、はあ」


 ヤリス君、明日が楽しみです。




 作品紹介

 タイトル:魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は黒魔法と白魔法を覚え世界にただ1人のトリプルジョブに至る~

キャッチコピー:表舞台から消えた剣士は更なる力を手に入れて冒険者に復帰する

 こちの作品もよろしくです。

 https://kakuyomu.jp/works/16818093076031328255

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