第10話

 やっと授業が終わる。


「次の授業は今回やった授業について議論をして貰う。昼休憩の内に予習をしておくように」


 次の授業が始まるまでアリシアは来なかった。

 まだ寝ているのか?

 先生が来て次の授業が始まった。


「議論のテーマは私から提案させてくれ。議題は『亜人スキルを持った者をどう救うべきか』だ。丁度ヨウコがいる、テーマとしてはこれ以上ない素晴らしい議論になるだろう。ではハイン、意見を言ってくれ」


 ハインは発言力が高い。

 いつも議論の中心になる。


「結論から言うとヤリスが戦士の称号を得る事で皆に生命力を供給する存在になって欲しい、それが私の主張だ」

「かなり先を見た発言になる。先生にはその意味が分かるがクラスのみんなに分かるように説明を続けて欲しい」


 ハインが頷いた。

 なんだろう、胸騒ぎがする。


「スキルを持った亜人について考えてみた。レアな亜人スキルは誰かに生命力を供給してもらう事で急成長し民に貢献できる素晴らしいスキルだ。だが逆に誰の力も借りられない場合レアスキルはただの虚弱スキルに成り下がる。東方ではレアな亜人スキルは妖怪扱いされている。つまりだ、亜人スキルは周りにいる協力者次第で輝くかどうかと救われるかどうかが決まる。肝となるのは亜人スキルを持つ者にいかに生命力を供給するか、そこがキーとなる」


 嫌な予感がする。

 何だろな?

 おかしいな?

 怖いな!


「ここまでで意見はあるか?」

「なにも間違いはない、流石ハインだ」

「非の打ちどころはないわ」

「無いようなので続けてくれ」


「繰り返し言うがキーは生命力を供給する側であって亜人スキルを持つ側ではない。この話をすればみんなで亜人スキルを持った者に生命力を分け与えればいいと、そういう話になりがちだがそうはならない。何故ならそれをする事で生命力を吸った側はいいが吸われた側が弱ってしまう問題が発生する。つまり吸った側はプラスだが吸われた側はマイナスだ。これでは吸われた側が働く際に支障をきたす。ここまでで意見はあるだろうか?」


 誰もが発言しない。

 ハインの発言に引き込まれている。


「……続けてくれ」

「だが1つだけ例外がある。みんなも分かっただろう?」


 全員が俺を見た。


「そう、治癒力アップのスキルだ。自身の回復力が高まり、訓練次第で失った血や空腹までも素早く癒すスキル、実際にアリシアがヤリスの血を吸って間接的にヤリスが皆に貢献をしている事は言うまでもない事実だろう」


 汗が出てきた。

 昨日アリシアとハインが議論した内容が何も変わらない。


「だがただ治癒力アップのスキルを持っていればいいとはならない。治癒力アップのスキルを持ったうえで高い成長率を持つ人材で無ければ話は成立しない。スキルが弱い場合、治癒力アップのスキルを持ていようと弱る事に変わりはない。つまりヤリスの強力な回復力が必要となる」


 ハインの主張は俺が戦士になる事でハーレム婚が可能となる。

 で、アリシアとヨウコ2人を妻にすれば無限レベルアップ出来るよねと言っている。


「ヤリスは高い回復力でアリシアを覚醒させている。そして血を吸われ続けているのにあり得ないほどに顔色がいい。それどころか健康そのものだ! ヤリスにはまだ余裕がある。ヤリスはもっと上に行ける! ヤリスなら高みを目指せる! ヤリスが戦士になればハーレムが可能だ。そうなれば未婚男女がキスをする事で悪評が立つ事も無くなる。未婚の男女が抱き合い肌を晒して血を吸う事で悪く言われる事は無くなる。ヤリスとアリシア、そしてヨウコはどこまでも力を高め、そしてそれは巡り巡って国に貢献すると私は確信している! 私の意見は以上だ!」


 うわあ!

 話が大きくなってる!

 国に貢献?

 それをやってしまえばモブポジションと結婚せずダラダラ生きるが出来なくなってしまう。


「ご苦労だった。反対意見があれば言ってくれ。無ければ拍手を」


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!


 まずい、俺はモブライフを送り結婚しない道を目指している。

 そして国に貢献しないで自分の為に生きるとそう言う事は言えない。

 言った時点で俺は異端者だ。

 現代日本の個を大事にする考え方はここでは通用しない。


 だがここで反論をしなければ俺はすべてを受け入れたとみなされる。


「あ、あの!」


 俺は手を挙げた。


「何かね? 意見は大歓迎だ」

「は、はい、その、僕はハーレムとか、そう言うのは、アリシアやヨウコの気持ちとか、トラブルとか、そうすんなりとはいかないかなーと、色々思うわけです」


「なるほど、いい意見だ。少し議論がずれるがまだ時間はある。今からいかに戦士のハーレムを成立させるかに絞って話を進めたい。なにせ今の議論は圧倒的な拍手で結果が出ているのだからな」

「あ、いや、そうじゃなく」


 まずい、議論が次に進みつつある!


「分かる。アリシアの事だろう? 言いずらい事を言わせるような卑怯な真似はしない。安心して欲しい。この学園の生徒は助け合い支え合う、先生はそう信じているがみんなはどうだ?」

「「その通りです!!」」


 その後ハインは愛と嫉妬、お互いが歩み寄れる妥協点や制度改正にかかわる持論を展開してハインの演説状態となった。


 俺はその間横をちらちらと見ていたが見るたびにヨウコは俺を真顔で見つめていた。


 朝のように元気になりそうになる体。


 吸い込まれそうになるヨウコのくちびる。


 止められないハインの演説。


 俺の心はモブ非婚ライフを目指す理性。

 そしてヨウコに吸い込まれそうになる本能が戦い続ける。


 絶望しようとする心を治癒能力アップが癒し続けていた。

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