第11話

 俺は何も言えないまま授業を終え、気配を消したまま4時限目の授業を終えた。


「今日の授業は終わりだ。気を付けて帰りなさい」


 学園は昼まで1から3時限目を行い、昼休憩後に4時限目の授業が終われば放課後だ。

 学園のみんなは勉強をしたり依頼を受けたりして午後を過ごす。


「ヨウコ、もう帰って大丈夫だ。今日の学園は終わりだから」

「……」


 ヨウコは無言で俺を見つめてくる。


「ヨウコ?」


 ヨウコは立ち上がる、と見せかけて腰を浮かせて俺と距離を詰めた。


「あ、あの」


 クンクン!


 コツコツコツコツコツコツコツコツ!


 廊下から足音が聞こえる。

 嫌な予感がする。

 この足跡は、きっとアリシアだ。

 アリシアが今の状況を見たらまずい!


 ガラガラ!


 ガシ!

 アリシアが俺の腕を掴んだ。


「行くわよ」

「どこに?」

「いいから来て」


 俺は予想外にも怒られず、アリシアと共に廊下を歩く。


「どこに行くの?」

「いいから」

「何をするの?」

「……」


 うわあ、何も答えない。

 怒ってる。

 こうして2人で職員室に入った。


「今すぐにヤリスとヨウコの席を離してください! 授業に集中出来ません!!」


 教師全員がアリシアを見た。

 誰に対して言ったのか分からないがアリシアは相当怒っている事が分かった。


「私が対応します」


 美人サキュバスのテスター先生が手を挙げた。


 そして先生に連れられて応接室に入った。


「まずは話を聞きましょう。ただし今日のようなルールを守らない行動は慎んでください。強いアリシアさんに力で来られると弱い私は困ってしまいます」


 本当にテスター先生が弱いのかは疑問だ。

 不意打ちとはいえアリシアを無力化している。


「しません! それよりもヤリスとヨウコの席を変えてください! 私耐えられません!」


「続けてください」


 先生はガス抜きをするようにアリシアの話を聞いた。


「ヨウコとヤリスの席を放してください。ヤリスは私が血を吸っているので他の子をハーレムに入れる余裕はありません。ハーレムはありえません。私はたくさんの学園生を無償で癒しています。もっと貢献が必要なら私がヤリスの具合が悪くならない程度に血を吸って対処します。それにヨウコの事は信頼できません。不意打ちのように何も言わずに近づいて急にキスをしようとしてきます。他国と文化が違いすぎるのでまずは文化を勉強するのが先だと思います。ヨウコは危ないのですぐに席を変えてください。気になって勉強が手につきません。それにまだ学園になじんでいないヨウコに対して急にハーレムの話を持ちかけるのはおかしいです。ヨウコとヤリスの席を放してください」


 アリシアは3回も席を変えるように言った。


「分かりました。ヤリス君とヨウコさんの席が隣になるのが嫌で席を変えれば納得する、それでいいですか?」

「そうです」


「ですがヤリス君の担任が決めたルールを変えるほどの要求をするならまずは貢献活動をしてください」


 この国では口だけの主張は中々通らない。

 意見を言うならその前に貢献を求められる。

 と言ってもアリシアはかなり貢献していると思う。


「やれば変えてくれますか?」

「話を聞きます」


「変えないんですか? 変えるとは言わないんですか!?」

「まずは貢献活動です。やってからでなければ話は聞けません。力あるものは人を導き助ける役目があります。1年生を1人を連れてモンスター狩りに同行して下さい」


「相手は男性ですか? それとも女性ですか?」

「男性です」

「分かりました。受けます」


「ヤリス君も受けてくれますか?」

「ヤリスも受けます」

「ヤリス君に聞いています」

「受け、ます」


「偉いです。同行する1年生はヤリス君と同じ治癒力アップのスキルを持っています。ついでに相談にも乗って下さいね?」

「分かりました」


「治癒力アップのスキルで悩んでいる生徒は先生の悩みの種でもあります。席替えとは別件ではあります、ですが困った下級生の悩みを少しでも緩和出来れば先生の態度はかなり軟化するでしょう」


 治癒力アップのスキルを鍛える方法は皆分かっている。

 痛い目、苦しい目に合って体を消耗させればいい。

 でも普通の人間は苦しい事をしたがらない。


 ちょっと苦しい目に合ったくらいでスキルはそこまで伸びない。

 下級生の助けになるかは分からない。


「僕も人に言えるほど出来ているとは言えませんが、話を聞いてみます」

「ヤリスなら大丈夫よ。他の人が出来ない事をやっているじゃない」

「ええ、期待しています、自分ならこう考えている、そういう事を言うだけでもいいんですよ」

「分かりました」



 こうしてモンスター狩りが決まった。

 アリシアは相当機嫌が悪い。

 いつもならあんなにきつい事は言わないのに。

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