第12話
剣を装備して集合地点に向かった。
兵士がいる宿舎に向かうと1年の男子生徒が手を振った。
「アリシア先輩、ヤリス先輩、よろしくお願いします。僕の名前はモーブです」
「うん、よろしく」
「よろしくね」
学園を出てからアリシアの機嫌が前よりよくなっている気がする。
「もう馬車の用意は出来ています、すぐに出発しましょう」
馬車が複数用意されていた。
兵士が30人ほどと戦士が1人が集まっている。
戦士は指揮を取る場合もあるが1番期待されているのは戦闘能力の高さだ。
戦士は戦闘能力が高いエースの立ち位置だ。
「すぐに乗り込んでくれ。話は移動しながらだ」
俺達はすぐに馬車で移動を開始した。
モーブ君と話をしながら景色を眺める。
「ヤリス先輩、最初に謝りたいです」
「どうしたの?」
「僕もヤリス先輩と同じ治癒力アップを持っています。僕がヤリス先輩と1度でもいいので組みたいと言いました。いきなり呼びつけるような真似をしてすいません」
「大丈夫、気にしないで欲しい」
「その上でヤリス先輩、相談があるのですが」
「何かな?」
「治癒力アップのスキルについてです。このスキルは苦しい思いをしなければ強くなれません。でも苦しいのも痛いのも嫌で、いえ、分かっているんです。訓練は厳しいものだと、でも、続けるコツみたいなものがあれば教えてください」
俺は毎日アリシアに血を吸って貰っているだけだ。
苦しくないどころか、脳内で作り上げたアリシアの体が浮かび上がり首を横に振った。
「……俺は、そんなに立派な人間じゃないからなあ」
「いえ、そんな事はありません! ヤリス先輩は毎日血を抜く訓練を続けています! 毎日牙のような尖った歯で傷を負い、血を吸われ、ふらふらになってもそれでもめげずに訓練を続けています! 知りたいんです! どのような気持ちで何をして自分のスキルと向き合えばいいかを! 本だって読みました、同じスキルを持っていた英雄エムスマイルの本も読みました。読んでやってみようとして、続ける事が出来ませんでした」
あの本はドMが書いた本だ。
参考にはならない。
最初の内容が寝るな、座るな、食べるな、飲むな、性欲を発散するなだ。
マジで修行僧だから。
それに最初は木の棒で叩かれて次は鉄の棒になって最後には真剣で攻撃を受け続ける。
魔法攻撃も同じ感じで酷くなっていく。
あれを受け続けるとかやっている事がおかしい。
でも、俺は何も我慢していないのか?
アリシアが俺に抱き着いて血を吸ってもらう。
血を吸われる事自体は問題無い。
でも、アリシアの魅力に俺は抗ってきた。
何度も服を脱がせてヤッテしまおうとする自分を押さえた。
何度も触れようとする手を自分で押さえつけた。
最後までイキたいと思いながら出来ない絶望感を癒し続けてきた。
俺は毎日、自分と戦ってきたじゃないか。
「そっかあ、俺もさ、今でも苦しいよ」
「ヤリス、先輩でもですか?」
「うん、苦しい」
「分かり、ました」
モーブ君が落ち込んだような顔をした。
何かいい方法があるんじゃないか? そう考えていたんだろう。
でも、俺はそこまでやっているとは言えない。
俺がやって来た事、血を吸ってもらう、性欲を押さえる、冬でも薄着、大した事が無い。
いや、考え方だけでもいい。
「でも、さ、これなら自分は耐えられる、そういうのは何かないか?」
「それは、分かりません」
「うん、何でもいいんだ、全部やってみて、一番続けられそうなことを、何でもいいから毎日続けてみるのがいいと思う。人によって耐えられる事は違うから、俺もエムスマイルの本を読んで無理だった。だから毎日続けられる事を探してやる、それしか出来ていないよ」
「ヤリスさん」
「ん?」
「僕は、何もやってこなかったようです。本だけ読んで手っ取り早く結果を得たい、そう思っていました。全部試す前に諦めていました。でも、僕は、何もやってこなかった、先輩はそれを教えてくれました。もう一度、自分と向き合って色々試してみます」
「何度も言うけど、俺はそこまで出来ていないから」
「いえ、ヤリスさんは出来ています。出来ている上で更に前に進もうとしている、それが分かりました。僕は、自分の小ささを思い知りました」
「い、いやいや」
「よく分かったわね」
「あ、アリシア」
「はっきり言った方がいいわ。モーブ君の未来を思うならね」
「それ以前に俺はそれほど出来ているわけじゃない」
「吸血を毎日受けて続けられるヤリスは毎日自分を高めているわ。ヤリスも、モーブ君も、毎日できる何かをコツコツと積み上げるしかないじゃない。そういうスキルなんだもの」
「はい、先が見えてきました!」
「う、うん」
「でも、少しだけ安心しました。ヤリス先輩でも苦しいんですね」
聴いていた兵士も会話に参加する。
「学園に入れる時点で俺達から見れば偉いと思うぜ」
「そうよ、それに治癒力アップのスキルは苦しい思いをしないと強くなれない。それなのに学園に入れる2人は凄いよ」
「どっちも偉いです!」
兵士と打ち解けつつ馬車で話をした。
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