第28話

 ハインの命令で皆の動きが良くなっていった。

 落馬した兵士をみんなで攻撃して下がる、もしくは雷撃で痺れた歩兵を攻撃して下がる。

 これの繰り返しだ。

 やる事はシンプルだ。


 アリシアが兵士に雷撃を当てると即座に武器で攻撃して倒す。

 この事でアリシアは弱い雷撃を無数に撃つことで手数を増やしていった。


 俺は半裸のまま走る馬車の方を向く。

 アリシアは前から俺に抱き着き、吸血をしながら片手で雷撃を撃ち続ける。


 一方で敵は前に出た者から死ぬゲームを仕掛けられ勢いを失いつつあった。

 最初は士気の低かった兵士だったが士気が上がり、敵の士気が下がっていく。


「雷撃の光を見たら即飛び込め! 斬って突いて殺したら即下がれ!」

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」


 味方の兵は練度を上げる。

 敵軍の規模が小さすぎた。

 1000にも満たない兵数ではアリシアの尽きる事無い連続魔法は脅威だ。

 騎兵は落馬して攻撃を受け、歩兵も痺れれば動きが止まる。


「1人で飛び込むな! 3人以上で感電した敵を攻撃しろ!」


 ハインの命令は恐怖を和らげ味方の士気を上げる。

 一斉に攻撃する事で恐怖を和らげる。


「アリシアの雷撃があれば俺達だけで勝てる!」


「勝てる! いけるぞ!」


「奇襲部隊が到着するまでも無い! 勝てる!」


「そうだ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 私達は狩られる側ではない! 狩る側だ!」

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 敵軍の兵は恐怖で足が止まる。


「あ、あの半裸とバンパイアは何なんだ! ぎゃあああああああああああ!」


「前に出れば雷撃が飛んでくる! うぎゃあああああああああああああ!」


「半裸の血は無尽蔵か! うああああああああああああああああああ!」


「半裸の血が尽きない! なんで半裸、ぎゃあああああああああああああ!」


 敵軍はあっという間に100を超える被害を出していた。


「撤退! 撤退だ!」


 敵将の指示で敵が撤退していく。


「後退やめ! 前進開始! 敗走兵を倒す」


 ハインの命令で馬車は前進を始めた。


 味方は勢いに乗っている。


 敵兵が走って逃げ出す。

 だがそれに逆らうように今まで指揮を取っていた白髪の男が前に出る。


「アリシア! 撃て!」


 だが男は4発の雷撃をすべて躱しつつもハインの所に迫ってくる。

 俺は馬車を飛び降りた。

 あの指揮官は普通じゃない!


 アリシアが範囲魔法の雷撃で避けられない攻撃を放つがその雷撃を魔法を込めた剣で拡散させた。

 多少雷撃を受け感電しながらもハインを目指す。


 ハインの横にいた槍使い2人の攻撃を1振りで弾いた。

 そしてハインの剣をもつばめ返しのような連撃で弾いた。


 俺は後ろから迫る。

 だがその瞬間に指揮官は横に飛んで走り去った。


「ヤリス、追うな! 止まれ! 我らの勝利だ!」

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」


 俺達は勝利を収めた。

 だが追撃をやめさせられた。

 あの指揮官が流れを変えた。


「あの指揮官は何者なんだ?」

「それよりもヤリス、助かった」

「お、おう」


 みんなが近づいてくる。


「よくやった、本当に助かったぜ」

「さすが王が認めた男だ」

「ヤリス、最高だぜ!」

「ヤリス君、君のおかげで救われた」


「い、いや、僕は、そんな」


 あまり目立ちたくはない。

 目立つのはアリシアだと思っていた。

 でも思えば戦闘前のヤリスの言葉、あれか。

 あの言葉でみんなの意識が俺に向いている。


 サッカーで考えればサポートよりシュートを決めた側が目立つ。

 でもハインがそれを防いでいるように見えた。

 アリシアじゃなく、サポートの俺に注目を向けさせる意図を感じる。


 敵が逃げていく。

 今までこっちが不利に見えていたけど向こうからすれば敵国の奥まで進軍していた。

 向こうは敵勢力の中にいる事になる。

 プレッシャーがある中進軍できたのは将と兵が優秀だったからだ。

 

 今の状況で追撃をすればかなり効果的だ。

 もう追撃しないのか?



「ヤリス、思う事があれば言ってくれ」


 ハインは俺が何かを言いたそうにしている事を見切ったか。

 ハインが俺の目を見た。

 嘘はつけない。


「い、いや、追撃、しないのかなーって」


 兵士が騒ぎ出す。


「ま、待て待て! 追い詰められた兵士が反転して攻撃をしかけてくる可能性もあるだろ!」

「あの将はハインよりも強い、危なすぎる!」

「俺も反対だ。無謀だ!」

「危ないわ!」



「私はヤリスの意見に賛成だ。所で追撃をかけるのはヤリスか?」

「い、いや、俺がアリシアをおんぶして攻撃して貰う、感じかな」

「……いいだろう、アリシアはまだいけるか?」

「はあ、はあ、大丈夫よ、血で少し酔っただけ」


 兵士がハインを止めるがハインはその言葉を無視した。


 ハイン、俺が戦った方がいいとか思ってるんだろうな。

 でもそれを言うと俺が抵抗することまで見抜いた上で1歩引いた。

 タイムリミットが無い状況ならハインは絶対に折れなかっただろう。


 ハインは柔軟だ。


「ヤリスはアリシアを背負って半裸のまま前に出てくれ。10人だけヤリスの後ろについて行こう。そうする事で敵が反転して攻撃してくる可能性を減らせる」


「ヤリスとアリシアを入れて12人だけか! 危なすぎる!」

「ハインがいくなら俺も行く! 馬車の馬を使えばいい。俺の槍なら馬の上からでも戦える!」

「俺も行く!」

「私も行こう」


 俺はアリシアを背負う。

 ハインを含めた歩兵8人。

 騎兵2人。


 僅か12人の小さな部隊で俺達は追撃を開始した。




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