第19話

「その前にいいかな?」


 文官の男が声をかけてきた。

 そういう事か。


 テスター先生は生徒である俺の体をまさぐり、頭を撫で、胸を押しつけ続けた。

 教師として不適切な行動だ。

 上からテスター先生は注意を受けるだろう。


 実際に周りを見ると男子生徒は赤くなりながらもテスター先生を見ている。

 テスター先生は本当にモテる。

 女子生徒ははしゃいだようにテスター先生を見たり、ひそひそと話しをしたりと反応は様々だ。


 そう、テスター先生はやりすぎた。

 今ここで注意を受ける。


「まずはテスターさん、若くして議論の進行に大抜擢された上で良いと思えばハイン君に演説を譲るその大胆さ、とてもよかったです」

「ありがとうございます」


 そう、まずは褒める。その上で間に挟むように指摘をする。

 これが相手のやる気を削がず、指摘する効果的なやり方だ。

 今からテスター先生は怒られる。


「その上で、自信の無い生徒を大胆に励まし続けるその行い」


 来る、テスター先生はやりすぎた。

 今からはお説教タイムだ。

 学園での不適切な行動、これはアウトに違いない。


「とても素晴らしいです」


 ん?

 おかしい。

 おかしいぞ。

 いやいや、ここ怒られるところ!


「素晴らしい教師の愛です。亜人スキルをもつ者は愛が強いと言います。今の視察でそれを思い知りました。テスター先生はアリシアさんも、ヨウコさんも、そしてヤリス君も救おうとしています。その心が分かりました。情熱が伝わってきました。任命した責任は我ら文官にあります。人が輝ける場所で輝くようにすることが我らの務め、何でも言ってください」


 全肯定、だと!


「そしてヤリス君」

「はい」


「失敗を恐れる必要はありません。ヤリス君が国の為を想い行動した結果失敗したとしてもそれは文官の責任です。議論は終わりました。やってみましょう。思いっきりやってみましょう。ヤリス君は学園の生徒として優秀で民を助ける為に動くと信じていますから、その上での失敗は我らの責任」


 俺はだらだらと汗を掻いた。

 俺は自分だけ楽に、緩く生きて行こうと思っている。

 でも、それを潰すような文官の発言。

 まさか、俺の事を見抜いている?

 見抜いた上で釘を刺しているのか?


 今行動を変えるなら、どう思っていようと見逃す、そういう事か!


「ヤリス君、国の為に動いてくれますね?」


 文官の男が俺にずいと近づいて握手をする。

 圧が凄い!

 なんだろう、『失敗したら自分たちの責任になるし責任を取ると今この場で言ったんだから全力でやるに決まってますよね?』みたいな圧を感じる。


「は、はい(それしか言えない)」

「期待しています。全力で実行してくれると信じて、期待しています」


 怖い。

 自信の無い俺を励ますテスター先生が素晴らしいと言っておいて俺への圧が凄い。


「素晴らしい、素晴らしいです!」


 パチパチパチパチ!

 文官の全員が拍手をすると周りの視察も拍手を始める。


 後ろからも拍手の音が聞こえて振り返ると生徒が皆拍手をする。

 視線を戻すと王まで拍手をしていた。


 テスター先生が耳元で言った。


「ここまで期待されたら、ヤルしかありません。違いますか?」


 テスター先生の『違いますか?』でダラダラと汗が噴き出す。


「ヤリス君? 凄い汗ですよ。自信を持ってください。失敗しても思いっきりヤレばいいだけなんですから。ヤリス君は皆の為に動いてくれます。違いますか?」


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!


 周りの拍手。


 文官の圧。


 一見笑っているけどたまに目が鋭くなる王。


 テスター先生の色気、


「……はい」

「ああ、偉いです、偉いですよ、勇気を持てて偉いです。さあ、ヤリス君、ヨウコさん。イキましょう」


 俺達3人はテスター先生に導かれて教室を後にした。


 でもだ、あの大勢のプレッシャーからは解放された。


 これからは落ち着いて対処しよう。


 前を歩くテスター先生がお尻を振って歩く。

 女性をむき出しにしたような魅力に思考が奪われる。

 だめだ、落ち着くんだ。


 普段は生徒が入れない分厚い鉄の扉が開いて中に入る。

 まるで金庫のように感じる。


 目の前には下着姿で拘束されたアリシアがいた。


 アリシアが拘束されているのに興奮してしまう。

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