第16話
「ヤリス君、ハイン君の主張は素晴らしいと思いました。違いますか?」
テスター先生の『違いますか?』が怖くなってきた。
なんだろう、違いますか? は違う事は何もありませんよね? まさか否定なんてしませんよね? に聞こえてくる。
アリシアが立ち上がった。
「私は反対です!」
「アリシアさんに質問はしていません。まだ議論も始まっていません。座って下さい」
「……」
アリシアがテスター先生を睨んだまま動かない。
「座って下さい」
俺はアリシアの腕を掴んで座らせた。
「ヤリス君、もう一度聞きますね。今の演説はいいと思いました。違いますか?」
「そ、それが本当に出来るなら、とても、いいと、思います」
テスター先生が満面の笑みで言った。
「ヤリス君は自分が本当に出来るかどうか不安ですか?」
「はい、不安はあります」
「ふふふ、ありがとうございます」
「???」
「議論を始める前にこちらの映像をご覧ください。この映像は昨日モンスター狩りに行った時のモノです。」
テスター先生が魔道具の映像を再生させた。
アリシアが雷撃でモンスターを倒してその後すぐ俺で血を補充する、それを3回繰り返す映像だ。
「はい、アリシアさん、ヤリス君、昨日はお疲れさまでした。見て貰った通り、ヤリス君は昨日モンスター狩りだけで3回の吸血を受けています。ヤリス君、ここまでで間違いはありますか?」
「……ありません」
「続きの映像です」
俺が巨大なクマのボスを倒す映像が再生された。
「はい、速すぎて分かりませんよね? 拡大してゆっくりと映像を流しますね。ヤリス君、どうしました? 凄い汗ですね」
テスター先生が歩いて来て俺の頬を撫でて額を撫でる。
そしてハンカチで汗を拭きとる。
「ふふふ、ぐっちょぐちょです。さあ、続きを再生します」
俺がスローで剣を投げて大きなクマがよろめく。
俺の剣の力だと分かるようなスロー映像だ。
そして俺は走って戦士の前に止まった。
俺は素手でボス熊を殴り倒した。
スロー再生でそれがよく分かるようになっている。
「また繰り返してヤリス君がボスを倒す所を再生します」
またスロー映像で俺のパンチが映し出される。
「もう一回映しますね。はい、ヤリス君が武器を何も使わず素手だけで殴って巨大なクマを倒しました。ヤリス君、凄い汗ですね。ヤリス君、昨日大きくて立派で硬いクマを倒しましたね?」
「……」
テスター先生がまた俺に向かって歩いてくる。
そして笑顔のまま俺の両頬に手を当てた。
「ヤリス君、安心してください。これは裁判ではありません。ただ、あの大きくて立派で硬いクマを倒したかどうか聞いています。ふふふ、倒しましたね?」
「あ、いや」
「倒しましたよね? 違いますか?」
「た、たおし、ました」
「ヤリス君、ちゃんと言えて偉いです」
テスター先生が俺の頭を撫でる。
目の前にはテスター先生の立派な胸が接近する。
く! これも、罠か!
アリシアが立ち上がった。
「そうやって追い詰めるのは卑怯です」
「卑怯ではありません。私は自信の無いヤリス君の為に言っています。皆には真実を教えただけです。ヤリス君を陥れる気はありません。それとアリシアさんに質問はしていませんよ。座って下さい」
アリシアが立ち続けた。
「少し補足をします。ハイン君の報告は2つです1つは『ヤリスは戦士になる資質を持ち亜人スキル持ちを引き上げる事が出来る。ヤリスの成長率の高さは常軌を逸している』です。そしてもう1つは『ヤリスは結婚と活躍をする事に抵抗を持っている。ヤリスは自分が必要以上にしっかりとやらなければいけないと思い込んでいる』です。ハイン君、そうですね?」
「その通りだ。ヤリスは自分が必要以上にしっかりとやらなければいけないと思い込んでいる。そこを配慮して欲しい。ヤリスは私の友で素晴らしい人間だ。そうだろう? ヤリス」
ハインの目を見て分かった。
ハインは俺が自分の為だけに生きようとしている事を分かっていてそれでも俺が不利になる事を言わないでくれている。
「ハイン君、ありがとうございます。当然配慮します。次にアリシアさんについての映像を見て貰います。これは昨日モンスターを狩りに行く移動の際の映像です」
昨日のアリシアの映像が流れた。
『そうやって鍛えてるんだね。偉い偉い』
『そうなんですよ、ヤリスは本当に偉くて』
女性兵士が俺の頭を撫でるとアイシアが俺を引っ張る映像が流れる。
「アリシアさんはヤリス君に強い執着があります、このように女性が近づけば即座に引き離します。次も、その次の映像もご覧ください」
テスター先生は王を見ながら言った。
3回に渡ってアリシアが女性兵士と俺を引き離す映像が流れる。
まずい、1時限目が始まる前もアリシアはそういう行動を取っていた。
俺達はもうすでに見られていた!
王様の目が鋭かったのは勘違いじゃない!
見られていた、すでに視察は始まっていたんだ!
「アリシアさん、そんなに怖い目で見ないでください」
「……」
「亜人スキルをもつ者は強い愛を持つ傾向があります。議論の際にアリシアさんの発言力は低くなります。この国で才を遊ばせることは悪ですから。さあ、話を続けます」
「アリシア、座って」
「……」
「アリシア」
俺はアリシアを技をかけるように強引に座らせた。
く、なんてことだ!
このままじゃ俺はモブじゃなく、戦士になってハーレム、
……ハーレム、アリシアとシテ、ヨウコともスル。
右のアリシアと左のヨウコを交互に見た。
魅力的だ。
ゴクリ!
俺は、欲望に、勝てないのか!
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