第3話

 ヨウコを見るとまだ体調が悪そうだ。

 金色のロングヘアで頭にはきつねの耳が生えているが耳がフニャンと垂れている。

 瞳は赤く、キツネの尻尾がだらんと垂れており頬杖を突きほぺがぷにっとなっている姿も可愛らしい。

 調子が悪そうだけどどこか凛とした雰囲気があった。


 先生が話を続ける。


「ヨウコは東の国で妖怪扱いをされてきた。それとキスをする事で生命力を吸う事が出来る。今ヨウコは生命力不足だ。女子生徒の中で少しでいい、生命力を分けられる者はいないか?」


 女子生徒が手を挙げた。


「その前に質問があります!」

「何かね?」

「1時限目と2時限目は戦闘訓練です。生命力を分けて私達が疲れても大丈夫ですか?」

「構わない、体調がすぐれない場合休んでいい」


「「やります」」


 女子生徒が数人手を挙げた。


「よろしい、戦闘訓練に遅れても構わない。ヨウコに生命力を分けて欲しい」

「はい、分かりました」

「ホームルームは終わりだ」


 この国の思想は日本とは違う。

 思想は現代日本より江戸時代や中世ヨーロッパに近い。


『才ある者はその才を発揮して皆を助けるべき』


『才が無くても農業・生産・孤児院のシスターなどの国の豊かさを高める仕事は素晴らしい』


『寄付は素晴らしいし無償の奉仕も素晴らしい』


 困っている人がいれば手を差し伸べるし、学園に入れる者はエリート(才あり)となるので人を助ける意識がさらに強い。


 そのおかげか学園はアリシアが怒っている時以外は基本平和だ。

 俺は訓練室に向かった。


 訓練室は1つだが男性は近接戦闘のスキルを覚える事が多く、女性は魔法系スキルを覚える事が多い。

 能力値も男性は体力、女性は魔力が上がりやすい。

 魔法訓練は女性が多く、近接戦闘の訓練は男性が多い。

 別れて訓練を行う。



 訓練室に来たヨウコの耳が少しだけシャキンとしていた。

 前よりは元気になったか。

 体調が悪そうなのに美人なのが凄い。


「ヤリス、転校生が気になるか?」


 ハインが大きな声で話しかけてきた。


「何がだ?」


 ハインの正式な名と家名はハインリッヒペンタゴン・イーグルアイだ。

 フルネームを覚えている人の方が少ない。

 貴族の長男で俺とよく話をする友人だ。

 性格的には優秀な政治家みたいな感じ、つまり普通ではない。


 いつもテンションが高くて批判を受けても気にしない器の大きさがある。

 顔が良くて戦闘能力も高い。

 そして見切りのスキルを持っていて相手の考え方を察する能力が高いため戦闘でも役に立つ。


 ただ見切られるのは俺としては厄介ではある。

 俺の作り上げたモブイメージをハインはたまに崩してくる。


 でも嫌われてもいいからそれでも人の為に動こうとするハインのような人間はかなりの善人だし人としては好きだ。

 ハインは癖があるけど凄いし俺にはできない事を成し遂げる。

 ハインのような人間が国を変えていくんだろうな。


「女性として魅力を感じているのだろう?」

「可愛いとは思うけど」

「分かっている、アリシアが知れば怒り出すだろう。はっははははははははははは」


 ハインはバカにして笑ったわけではない。

 ハインはよく笑う男でこれが普段のテンションなのだ。


「で、ハインから見てヨウコはどう見える?」

「中々の才能を持っている。だが生命力を吸収出来なければ力を発揮できないだろう。今から魔法を撃つようだ」


 男子生徒がヨウコの魔法を見学する。

 ヨウコは生命力を吸ってきたのか少し元気になっていた。


 ボ!


 ヨウコの手から火の玉が発生した。


「思ったより魔法が小さいな」

「まだ生命力が足りないのか?」

「いや、あれは的に当たってから一気に燃える」


 ハインは見ただけである程度の事を理解する。

 見切りはそういうスキルだ。


 ヨウコの火の玉が魔法防御の的に当たった。

 その瞬間に業火を放ち燃え広がる。

 狐火みたいな攻撃だな。


「「おおおおおおお!」」


 ヨウコが座って動かなくなった。


「魔力切れか」


 近接指導の先生が俺の肩に手を置いた。


「生命力不足のようだ」

「そうですね」

「いくら生命力を吸っても回復し続ける逸材がいれば助かるんだがな」


 男子生徒全員が俺を見た。


「例えばそう、自分の回復力を向上させる治癒力アップのスキルはヨウコとても相性がいい」

「……」


 ハインが会話に参加する。


「友として言っておくが私はヤリスの事を高く評価している。学園の逸材を上に報告する使命がある。当然ヤリスの名前を毎回上げている」

「……買い被りすぎだ」


 先生が俺の周りをゆっくりと歩きながら独り言のように話をする。

 話が長くなる気がした。


「ヤリス、言われる前に言っておくが治癒力アップのスキルは確かにレアスキルではない。だが成長速度には明らかに個人差がある」


 勇者とか剣聖とか亜人スキルがレアスキルで俺の治癒力アップはノーマルスキルと呼ばれている。


「そしてレアではないノーマルスキル、それもヤリスと同じ治癒力アップのスキルで英雄になった例はある。そう、エムスマイル、聖騎士、この国グロース王国の盾、様々な呼び名で呼ばれる英雄だ。説明の必要すらない偉大な男だ」

「……」


 先生はレアかレアじゃないかの軸だけではない。

 成長率も大事だよと言っている。

 でも俺に生命力を供給しろとは言っていない。


 スルーしよう。

 重要な仕事には責任が伴う。

 日本でも上に行けば行くほど仕事量が増える割に給料は上がらないし中間管理職は板挟みで大変らしい。

 ネットで何度も調べた。

 俺はモブがいい。

 責任が無く、目立たないポジション、それが居心地いいのだ。


「学園に来るとヤリスは毎日吸血により血を失う事で治癒力アップのスキルを発動させている。スキルは使えば使うほど強くなり、そして能力値も上昇する。15才でスキルを授かった後ヤリスは毎日アリシアの吸血を受けているのではないか? その冬でもYシャツ1枚で過ごす事でも寒さを回復させスキルを発動させ続けている」


「あ、はははは、僕はよく体調不良になっていました」


 ヨウコにキスをして生命力を供給すること自体は出来る気がする。

 でもアリシアが怒る気もする。

 それにヨウコから嫌な顔をされたらショックだ。

 そして、俺はモブとして生きていくし結婚をしないと決めている。

 やんわり断る、これがベストだ。


「確かに1年の時はそうだった、所で私は教師として医師の資格も持っている。生徒の健康管理は大事だ。そして顔を見れば調子がいいか悪いかは分かる。体を調べさせてくれないか? ヤリス、吸血を受けている割には随分と顔色がいいように見える。こんな寒空でYシャツ1枚でも調子が良さそうに見える。実に興味深い」

「い、いやあ、い、今、は、具合が悪いまでは、いかないです」


 こういう話は苦手だ。

 焦ってしまう。


「そうか、それは良かった。所で自己評価と周りから見た評価は驚くほど噛み合わない場合がある。自己評価が低いほど鍛錬を積み上げ高みに登り続けている場合もある」

「そ、そうですかねえ? は、ははは」


「そしてクラスで、いや、学園すべてで見ても勉学、実技と成績優秀なハインはヤリス、君の事を高く評価している。結果を出しその道を歩んできた者の意見を私は重視しているがヤリスはどう思うかね?」


 その道を進んで成果を出した人の言葉と何もやっていない人の言葉なら実績のある人の言葉を重視する、当然だ。

 でも、はいとは言えない。

 言えばモブとは違う道を進む事になってしまう。

 ストレートな答えはアウトだ。


「その、ヨウコは女性ですので、男女でそういうのは、色々と問題が起こりそうな気が、その、はい」


「それは分かる。アリシアの事もあるだろう。分かっている。うむ、簡単ではない事は把握している。すべてを押し付けるように面倒に巻き込む気はない。だが今の話は考えておいて欲しい」

「……はい」

「気になる転校生の見学は終わりだ、今から近接戦闘の訓練を始める」


 1時限目と2時限目は木の剣で試合をした。

 俺は『すぐ回復するから』と言われ全員と総当たりの試合を続けた。

 先生は俺の回復力を測っている気がした。

 そして顔色が悪くならないかじっと見られていた。

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