第2話

 学園に向かって2人で歩く。

 ペンソード学園は王都の東にあり15才から3年通う。

 俺は2年でアリシアは3年だ。

 年齢的には日本の高校生と同じだが最高学歴が学園なので位置づけとしては大学や大学院だ。


 寮で暮らす生徒と通う生徒両方いる。

 学園に行く生徒はみんなYシャツの上に制服を着てその上に上着を着ている。

 上がYシャツ1枚だけなのは俺だけだ。

 雪が降っているのにYシャツ1枚は普通に考えればおかしい。

 でも俺は寒さすら回復する。


 しかし、それよりも目立つのはアリシアだ。

 アリシアはバンパイアのレアスキルを持っていてスキルの効果で頭にコウモリの羽が生えている。

 体が変化するレアスキルは目立つ。

 そして何よりもアリシアを目立たせているのはその美貌だ。


 男子生徒がアリシアを見ながらひそひそと話をするがしっかり聞こえている。


「アリシア、今日も可愛いよな」

「ああ、見とれてしまう」

「挨拶しようぜ」

「お、おい」


 1人の男子生徒が前に出ると後ろから他の男子が付いてくる。


「アリシアさん、おはよう」

「「アリシアさん、おはようございます」」


「おはよう」


 アリシアが笑顔で挨拶を返すとみんなの顔が緩んだ。


 女子生徒も挨拶をする。


「アリシア先輩、おはようございます」

「おはよう」

「今日もきれいですね」

「ありがとう」


 アリシアはあまりにもきれいですねとか美しいと言われすぎた結果ありがとうで済ませるようになった。

 それほど褒められ続けている。


「ヤリス先輩もおはようございます」

「おはよう」

「いつもYシャツだけで寒くないですか?」

「大丈夫だよ」


 女子生徒が俺の腕に触れるとアリシアが満面の笑顔で間に割って入る。。


「リアさん、ヤリスにくっつきすぎじゃない?」

「え? す、すいません!」


 女子生徒がすっと離れていく。


「アリシア、後輩が怖がっているだろ?」

「何が? こんなに笑顔なのに?」

「……」


 アリシアが満面の笑顔になる時は大体怒っている。

 アリシアは俺を世話するのが当然だと思っていて自分の人形が取られるような感覚なのだろう。


 学園に入ると2年の教室にアリシアが一緒に入ってくる。

 教室は講堂のような作りになっていて席が後ろになるほど段差が高くなり、机が   長くなっていて椅子も長い。


 女子生徒はアリシアが入ってきた瞬間に警戒モードに入った。

 俺は更に挨拶をしてみんなにアリシアが来た事を知らせる。


「おはよう」

「「おはよう」」


 席に座るとアリシアもいっしょに横に座る。

 無言で俺のYシャツのボタンを外して左の肩を露出させた。

 そして俺の血を吸う。

 学園に来ると毎回これをやる。

 まるで見せつけるように血を吸っているように感じるのは気のせいだろう。


 アリシアが吸血しやすいようにとスキル発動をして鍛える為にいつもYシャツだけを着ている。

 スキルは使えば使うほど強くなるのだ。

 毎日の事なのに俺とアリシアを見ている人が多い。

 吸血をしているアリシアを男子生徒がうっとりと見つめる。


「「……」」


 吸血が終わるとアリシアは俺の首筋を舐めてハンカチで拭き、Yシャツのボタンをかけていく。

 男子生徒の顔が赤い。

 アリシアを見ているとそうなってしまうのはよく分かる。

 この前「僕の血を吸ってください!」と言った男子生徒がアリシアに断られていた。


「少し吸い過ぎたわ。酔ってしまったわね」


 アリシアの真っ白い肌が赤くなる。

 俺の血は飲みすぎると酔うらしい。

 手で自分の顔をぱたぱたと仰ぐ姿も可愛い。

 アリシアが上品なしぐさで教室を出て行く。


 周りを見渡すとみんな少し寒そうだ。

 雪が降っているのに熱がるのはアリシアくらいだろう。

 薄着なのは俺くらいだ。

 女子生徒が近づき話しかけてくる。


「今は雪が降ってて寒いのにね」


 ガラガラ!


「ひい!」


 アリシアが戻ってきた。


「ヤリスとずいぶん仲が良さそうね」


 アリシアが満面の笑顔で女子生徒を見つめる。


「ひいい! す、すみません」

「あなた、何か悪い事をしたの?」

「い、いえ、滅相も、あ、ありません。ですが少しヤリス君に近づきすぎたかなあと、思います」


 女子生徒が離れていく。


「そう」


 講師の先生が入ってきた。


「アリシア、早く自分の教室にもどれ」

「はい」


 アリシアが戻っていった。


 クラスのみんなが話し始める。


「ダメだよ、アリシア先輩は勘がいいから、ヤリス君に近づくと危ないよ」

「この前はヤリスに近づいた女子生徒を感電させていたからな。女子はヤリスに近づくと危ない」

「この前なんかモンスター討伐がヤリス君と女子生徒ばかりになってアリシアさんが付いて来てたもん」

「アリシア先輩は手段を選ばないよな。脅し、監視、感電、嫌がらせ、何でもする」


「静まれ。ホームルームを始める」


 ホームルームが始まった。

 学園は8時45分から15分ホームルーム。

 9時から50分の講義と10分の休憩を3時限繰り返し11時50分に休憩し1時から4時限目があって終わると学園の1日は終わりだ。


 この世界は日本と同じように春夏秋冬があり12カ月の365日。

 違うのは学年が1月から始まる事。

 今は2年生になってすぐの新学期だ。


「ホームルームの前に東方の国から来た転校生を紹介する。入って来なさい。……入って来なさい! 失礼する」


 先生が扉を開け教室を出るとすぐに戻ってきた。


「女子生徒2名、彼女を運んでくれ、体調が悪いようだ」

「「分かりました」」


 男性教師は気を使って女性生徒に運ぶのを任せる。

 彼は紳士なのだ。

 俺も見習いたい、煩悩をもっと薄くしたい。 


 女子生徒2人が廊下に出て転校生を前に出す。

 学園の生徒は性格がいい人が多い。

 息をするように人を助ける。


「おほん、彼女の名前はヨウコだ。見ての通り亜人系のスキルを持っている」


 亜人スキルを持っていると体からケモ耳や尻尾が生えたりアリシアのように頭からコウモリの羽が生えたりする。

 そして大体瞳の色が赤い、見ただけでヨウコが亜人スキルを持っていると分かる。


「話が苦手な所があるが仲良くしてやってくれ」


 ヨウコは女子生徒2人に肩を借りてぶら下がるように立っていた。


「はあ、ヤリスの隣に座らせなさい」


 ヨウコが俺の隣に座った。

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