第56話お弟子ちゃん

「はーい、それでは! Airi★のダンジョン日記、本日も配信始めて行きま~す」

「おう、お前ら久しぶり。ダンジョンイーツだ。また俺に会えて嬉しいだろ、喜べ」




:8888888888888


:復帰おめでとう!!!


:待ってた


:復帰後初配信!!


:( ゚∀゚)o彡°


:何事もなくて本当に良かった!!


:( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°


:ア……アア……(プリプリ……)


:なんで当然のようにダンジョンイーツがいるんだあああああああブリブリブリブリビチチチィィイイイッ!!!!


:もう既に若干コメント欄が糞臭いな


:もうすっかりNTR確定かよ




「……なんか俺、前々から思ってたけど、やっぱ歓迎されてねぇな。Airi★のチャンネルなのに毎回シレッと出演してて悪いとは思ってるよ。なるべく早めに専門チャンネル作ってそっちでやるから……」

「え……ガンジュ君、専門チャンネル作るんですか? そしたらもうこっちには出演してくれなくなる?」




 俺の発言に、なんだか素に戻ったような声で藤堂アイリが言うので、俺も少し驚いてしまった。




「え? ま、まぁ、そりゃそうだろ。コイツらはあくまでお前のファンであって俺のファンじゃないし。他人のチャンネルであんまり俺が出しゃばるのは……」

「ええ……それは嫌ですぅ」



 

 藤堂アイリが甘えた声を発してスススと身を寄せて来て、翻意を促すように俺の二の腕の辺りに触れた。




「今後もこっちに出演してくださいよ。一人じゃもうなんか寂しいというか……。私はなんならガンジュ君と一緒のチャンネルってことにしても……!」

「お、おい、あんま滅多なこと言うなよ。何言ってんだよお前、カメラ回ってんだぞ……!」




:あああああああああああブリブリブリブリビチチチィィイイイッ!!!!!


:ぎゃああああああああブリブリブリブリビチチチィィイイイッ!!!


:(白目)


:相変わらずイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ


:イチャイチャの実の能力者


:もうこれを見に来たっていうか


:待ってた


:もうアイリ、メスの顔隠さなくなってきたな


:◯にたい


:もうダンジョンイーツならいいよ


:もう許した


:ダンジョンイーツが羨ましくて◯にたい


:初々しいカップルすぎて◯にたくなる




「……案の定、物凄く炎上してるな。ったく、藤堂、お前が妙なこと言うからだぞ」

「大丈夫、私の方はもう慣れましたから」

「一方的に慣れるな……俺が慣れないんだよ。まぁこのチャンネルの方針のことはまずいいや、ひとまず置いとこう」

「そうですね。……それではいよいよ、事前に告知していた通り、今日は配信復帰後第一弾として、特別編です! 今日潜入するのはとあるDランクダンジョン、そしてそこで何をするのかと言いますと……!」




 そこで藤堂アイリが目配せすると、ダンジョンの奥から、暗がりでもよく映えるピンク色の頭が、おっかなびっくり、という感じで出てきた。


 二、三度、躊躇ったように立ち止まりかけた小柄が、やがて意を決したようにカメラの前に進み出てくる。


 藤堂アイリがどこから手に入れたものか、般若のお面を被り、猫耳を帽子で隠した小柄が配信ドローンの前にやってくると、コメント欄がワッと湧いた。




:誰wwwwwwwwww


:般若wwwwwwww


:新キャラwwwwwwwww


:もっといいお面なかったんかwwwwwwww


:顔が怖い


:なんでこの面なんだよ!!




「……はい! 本日はなんと特大発表があります! なんと、ダンジョンイーツことガンジュ君に、お弟子さんが出来たんです! 拍手!」




 パチパチパチパチ……とアイリが拍手しても、コメント欄の反応は鈍かった。




:ん? 弟子?


:ダンジョンイーツ弟子取ったのか


:え、女の子だよな?


:弟子とは?


:唐突すぎる……


:大丈夫かダンジョンイーツの弟子とか




「あらら? 思ったよりもコメント欄の反応が鈍いですねぇ。……まぁいいです。まずはとりあえず……お弟子さん、視聴者の皆さんにご挨拶を」

「はっ、始めまして皆さん……。この度ダンジョンイーツさんに弟子入りさせていただきました者です。あの、私のことは『弟子』と、お気軽にそう呼んでください」




 エロゲこと西園寺睦月はシャイな性格らしく、顔出しや実名では配信に出たくないと言ったので、結局三人で相談し、顔はお面で、名前は「弟子」と呼ぶことに決まった。


 藤堂アイリによると、名前はともかく、顔をお面で隠して配信している【配信者ストリーマー】は珍しいことではないのだそうである。


 西園寺睦月改め弟子の挨拶に、コメント欄もようやく追いつき始めた。




:弟子wwwwwwww


:そのまんまじゃねぇか


:弟子wwwwwww


:なんかもうちょっといいあだ名とお面なかったのかよ!!


:そのまんますぎて草


:弟子ちゃん可愛い!!


:弟子ちゃん美少女!!


:結局ダンジョンイーツハーレムかよ裏山


:ハーレムラブコメか


:次々と女が寄ってくるな




「あっ、あの! 私はダンジョンイーツさんの弟子にはなりましたけど、別にハーレム要員とかでは……!」

「おっ、おい弟子! 言わんでいい言わんでいい! ……お前らもあんまり茶化してくれるな。弟子は配信とか初めてなんだから……」




 俺が諌めると、かわりに藤堂アイリが説明を始めた。




「お弟子さんは私たちが通う聖鳳学園の中等部の生徒さんで、数日前、ガンジュ君に弟子入りを志願して来ました。どうです、般若のお面が可愛いでしょう?」




 可愛い。藤堂アイリのその一言に、コメント欄によそよそしい空笑いのような空気が漂った。


 西園寺睦月が被っているお面は藤堂アイリのチョイスなのだけれど、藤堂アイリ本人はこの形相を可愛いものと思っているらしい。


 なんでこんな気色悪いお面を選んだのか今まで謎だったが、謎が解けた。この美しい人は意外にも美的センスが少しズレているようだ。




「彼女はレベル1の覚醒者で、まだまだ将来が期待できる有望株です。今日は弟子入りして初めてのダンジョン探索ということで、私とガンジュ君が彼女を鍛え、サポートしながら探索をしていきます!!」




:弟子ちゃんレベル1なのか


:レベル1でDランクダンジョンは……


:探索者としては結構厳しくない?


:うーむ、レベル1か……


:ダイバーは少なくともレベル2からが推奨されてたよな?


:まぁアイリとダンジョンイーツがいればとりあえず安心だけどさ……


:大丈夫か?




 続々と寄せられる心配のコメントを見て、西園寺睦月が自信をなくしたかのように俯いてしまった。


 俺がどうしたものかと迷っていると、ぽん、という感じで藤堂アイリの手が西園寺睦月の両肩に回り、励ますように声を張った。




「大丈夫! 誰でも最初はみんな初心者で、弱くて未熟なのが当たり前です! お弟子さんには私とガンジュ君がついてますから! みなさんも彼女を応援してあげてくださいね!」




 藤堂アイリのその一言に、西園寺睦月が俯きがちにしていた顔を上げ、同時にコメント欄にも西園寺睦月を励ますコメントが増えてきた。




:お弟子ちゃん頑張れ


:弟子ちゃんファイト


:弟子! 弟子! 弟子!( ゚∀゚)o彡°


:頑張れ! 応援してるぞ!( ゚∀゚)o彡°


:お前ら( ゚∀゚)o彡°は応援とは違うだろ


:( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°


:弟子ちゃんがんばれよ! 俺たちも見てるぞ!




 ああ、この人はやっぱり凄い人だなぁ。


 俺は尊敬の眼差しで藤堂アイリを見つめた。


 さっきまであんなに西園寺睦月を心配していたコメント欄の雰囲気が、藤堂アイリの一言で、一気に応援一色になった。


 この人はやはり人を鼓舞したり、励ましたりすることに関して、普通の人にはない特別な才能を持っている人なのだ。




「……はい、それでは説明は以上として、いよいよダンジョン探索を始めていきましょうか! 本日の目標は20階層にある中層階フロアボスの討伐を目標に頑張っていきます! ガンジュ君もお弟子さんも気を引き締めて!」

「よし、じゃあ早速、始めていくか。……おい弟子、言っとくが俺は一切手心とかは加えないぜ。ビシバシやってくから気合入れろよ!」

「はっ、はい!」




 その言葉をしおに、俺たちはいよいよ、復帰後第一回となるダンジョン配信を開始した。




 ――ここで、敢えて先に言っておくことだが、俺はこの配信で、ふたつのことを理解することになった。




 ひとつは、レベル1でしかない覚醒者がダンジョンを探索するのは、正直に言ってかなり厳しい行いであるらしいこと。




 2つ目は――俺には人の師匠になるための才能が、まぁ全くない、ということを、俺はこの配信で知ることになるのであった。







お盆中は更新が滞っておりすみません……。

地味に今後の展開に迷っております。

しばらくフラフラしながら更新続けていきます。


「面白い」

「続きが気になる」

「弟子ができてよかったね」


そう思っていただけましたなら


「( ゚∀゚)o彡°」


そのようにコメント、もしくは★で評価願います。

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