第45話ユニコーン
「え、ええ……なんだこいつら？ なんでこんな悲鳴上げてんだ？ 藤堂が助かって喜んでんのか？」
「ばっ、馬鹿なこと言わないでくださいガンジュ君！ ますます炎上しますから口を閉じて……！」
「おーいお前ら、藤堂アイリは見ての通り無事だぞ。悲鳴じゃなくて喜べよ。それに俺を殺すってなんでだよ？ 普通ここは流石にお前らの藤堂アイリを救い出した俺に感謝するところだろうが」
：◯ね。本当に◯ね
：ダンジョンイーツ◯ね
：天然かよ◯ね
：ああああああああああああああ◯ねえええええええあああああああああ
：ダンジョンイーツ◯す
： 難 聴 系 主 人 公
：「えっ？ 今なにか言った？」
：ラブコメ主人公気取りかよ◯ね
：俺のアイリがダンジョンイーツにNTRた……◯のう
：バカップルふたりともくたばれ
：こりゃ明日のフライデーが楽しみだ
：お気に入り登録いっぺん爆増したのに今鬼のように減ってて草
「あん？ なんでお気に入り登録が減るんだ？ あっ、ここまでの絵面が地味だったか？ それにカメラの前で俺がゲロったりしちゃったから……！」
「もっ、もう口閉じてください！ みんなみんなカメラの前でガンジュ君が私をハグしたり頭撫でたりするから怒ってるんですよ！ もういいから黙ってください！」
「え……な、なんで？ なんで俺怒られてんの？ しかもなんで藤堂まで怒ってんの？」
「怒りますよッ！ あのねガンジュ君、【
藤堂アイリは真っ赤っ赤の顔で俺を叱った。
「いいですか！ 【
「ゆ、ユニコーン……？ なんじゃそりゃ魔物じゃねぇか。魔物が配信観てるの？」
「今更どんな天然ボケなんですか！ このタイミングだと全ッ然可愛くない！ いいですかガンジュ君、ユニコーンっていうのは、私がしょッ……！」
そこまで言いかけた藤堂アイリの顔が、ぐわーっと真っ赤になった。
今すぐ卒倒しそうな表情で、はっと口を開けたまま震える藤堂アイリを、俺は不思議そうに見つめた。
：うっ！ ふぅ……
：お嬢様可愛い
：ヌケる
：使わせてもらいました
：ユニコーンとは…ストリーマーに処女性を求めるガチ恋勢のこと
：お嬢様、今なんて言おうとしたのかもう一度言ってごらん？
：お嬢様チョロっｗｗｗｗｗｗ
：顔真っ赤ｗｗｗｗｗｗｗ
：淫語プレイかよ
：ホントこいつ可愛いな
：許した
：やべぇ今の切り抜き作って拡散しよ
「え……？ 何？ 塩？」
「……も、もういいです、もういいですから！ とにかく今後は配信中にそういう軽挙妄動は謹んで……！」
そこまで言った時、グウウ、という物凄く気の抜けるような音が藤堂アイリを中心にして発し、俺ははっとした。
藤堂アイリもはっとして、破れ放題のダイバースーツの腹のあたりを触った。
「あ、悪い悪い。まる一日絶食したんだ、腹減ってるよな」
「え、ええ、だいぶ……」
「それじゃ、ご注文の品を配達と行くか。待ってろ……」
俺が背中のデリバリーボックスを下ろして地面に置き、蓋を開けて中身を取り出そうとした。
けれど蓋を開けた瞬間、茶色い液体がバッグの中から溢れ出してきて、俺はうわっと声を上げた。
「あ、ああ～……やっぱり、重力魔法分の魔力も使っちまったから……」
ケンコバのおっさんがパックとラップで厳重に梱包してくれたのに、二つあるスープ皿のうちの一皿が液漏れを起こし、ほとんど汁が溢れてしまっていた。
救助は成功したが、配達の方は失敗。俺もまだまだだな、親父殿……と落胆していると、藤堂アイリが俺を励ますかのように背中を叩いた。
「あはは、ひとつはこぼれちゃいましたね。でも、もう一皿は無事なようですから、シェアして食べますか」
「え……？ あ、いいよ。お前腹減ってるだろ？ 二食分食べろよ」
「女の子は少食でも動けるものなんですよ。さぁさ、まだ温かいうちに食べちゃいましょう！」
そう言うなり、藤堂アイリは汁皿に二食分の麺を入れて箸でかき混ぜ、別皿の煮卵やチャーシューを乗せて、ラーメンが完成した。
ほわぁ、と、藤堂アイリは一日ぶりの食事に目を輝かせた。
「お、おおお……！ 夢にまで見ました！ このラーメンがこんな地の底で食べられるなんて夢みたいです！ ……いただきます！」
藤堂アイリが麺を啜ろうとした、その途端だった。
まる一日ぶりの食事に身体が驚いたのか、藤堂アイリは急に手で口を押さえ、俯いて咳き込み始めた。
俺は慌てて藤堂アイリの背中を擦った。
「大丈夫か？ いきなり固形物食べると胃が受け付けないぞ」
「い、いや、もう大丈夫です。それでは改めて……」
藤堂アイリはズルズルと麺を啜り、美味そうに咀嚼すると……その顔に満面の笑顔が浮かんだ。
「ああ、美味しい……！ 美味しい、美味しいとしか言えない！ こんな美味しいもの、生まれて初めて食べた……！ 上手く言えませんけど、私は生きてる、生きてるんだって、そんな味がします！ あぁ、本当に、美味しいです……！」
藤堂アイリが生きてこのラーメンを再び食べることが出来た喜びを爆発させているのを見て、俺も思わず、頬が緩んでしまった。
明日、またこの料理を食べるために、今日を生き残ろうと頑張る……親父殿が見ていたらさぞかし喜んだだろう光景を見て、俺もなんだか気恥ずかしいような気持ちになった。
さぁ、俺も食べるか……と俺が割り箸を割ろうとすると、手に痛みが走り、俺は割り箸を取り落としてしまった。
「いてて……！ 参ったなぁ、この手じゃ箸が使えねぇか……」
「それなら……はい、ガンジュ君！」
俺が困っていると、藤堂アイリが箸で麺を持ち上げて俺に差し出したので、俺は驚いた。
「え……ちょ、お前、何やってんだ。い、いくらなんでもそれは……」
「こういうときは黙ってあーんされるもんです！ ほら、早く！」
「い、いや、だってお前、カメラも回ってるし……。第一ホラ、これって、か、間接キッス……！」
「それ以上無粋なこと言ったら怒りますよ！ それに炎上ならもう手が付けられないぐらいしてます！ 今更ですから観念してください！ あーんったらあーん！」
藤堂アイリがうっすら赤面した表情のまま、なんだか憮然とした表情で押しかぶせた。
このおしとやかで穏やかなお嬢様に本気で怒られるのは嫌だったので、俺は二、三度迷う素振りを見せてから、覚悟を決めて箸に口を寄せ、麺を啜った。
配膳されてから数時間経っているというのに、まだ温かいスープがひんやりとした地底世界に嬉しかった。
ガツンとパンチのある煮干し出汁を太めの縮れ麺がよく絡め取っていて、口に入れた後は抜群の麺のコシが楽しかった。
いや、料理の味以上に――。
無事に藤堂アイリを助けられた安堵感、他でもないこの人が手ずから俺に食べさせてくれたことの幸福感が、料理の味を数段、いや数倍以上に美味しく感じさせてくれる。
美味い。こんな美味いラーメン、俺も初めて食べた。
：あああああああああああﾌﾞﾘﾌﾞﾘﾌﾞﾘﾌﾞﾘﾋﾞﾁﾁﾁｨｨｲｲｯ！！！！！！！！！
：ああああああああああああアイリやめてくれえええええええええ
：ぎゃあああああああああああああああああああああ
：公開あーんとは
：まだ助かってないのにイチャイチャしすぎだろこいつら
：アイリ病患者撫で斬りにしてきてて草
：ダンジョンイーツ◯す。本気で◯す。今から住所特定してやる
：ちょっと横になるわ
：公開イチャイチャとは大炎上案件だなｗｗｗｗｗｗｗ
：ぎゃあああああああああああああ
：ああああああああああああああああああああ
：でも相手がダンジョンイーツなら仕方ないというかなんというか
：まぁあれだけ血みどろになって助けてくれた相手にご褒美ぐらいは……
：もう付き合っちゃえよ！！
：ご入用ですか？（婚姻届を手に持ちながら）
：同時接続数１００万近い中でこいつらは……
：（百万人に）見せつけてやろうぜ（イケボ）
「へへっ、藤堂、コメント欄がますます大荒れだぜ」
「あ、やっぱりですか？ すみませんね視聴者の皆さん。何分、緊急事態なものでして……」
「『どんな味がしますか？』だってよ。……正直、めちゃくちゃ最高に美味いよ、大人気インフルエンサーに『あーん』してもらったラーメンはよ。へへへ」
「ちょ、ガンジュ君！ なんか今のコメント、ちょっと変態っぽくないですか！？」
：もうアイリ完全にメスの顔してんな
：涙にくれるファンを煽っていくスタイル
：煽りまくりｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ
：アイリ病患者虐殺しに来てて草
：脳が破壊された
：もうこれ一種の放送事故だろ
：あああああああああああああああﾌﾞﾘﾌﾞﾘﾌﾞﾘﾋﾞﾁﾁﾁｲｲｲｨｨｯﾂ
：アイリ病患者のせいでここ臭すぎ
：アイリ病患者脱糞しすぎだろ
：ダンジョンイーツ何度も◯ね
：ダンジョンイーツ来世分まで◯す。
：アイリやめてくれえええええええええええ
：ダンジョンイーツ◯すって言ってるやつは今まで何見てきたんだ
：ダンジョンイーツ◯せる奴なんて地上にいねぇだろ
：ダンジョンイーツ俺には◯せないから自発的に◯ね
：もう脱糞する糞も枯れ果てる
俺はそのコメントを笑って眺めながら、再び藤堂アイリにラーメンを食べさせてもらう。
どうだ羨ましいか、お前ら。
今俺が感じている幸せを、全世界の人間に分けてあげたいよ。
そして全世界の人間が俺を羨めばいい。
どうだ悔しいだろ、俺は世界で一番素敵な女に料理を「あーん」してもらってるぞ――。
俺はこれ以上ない幸福感に酔いしれながら、その後も藤堂アイリと仲睦まじくラーメンをシェアし合った。
◆
この作品が私史上、初めて読まれたラブコメ作品になるかもしれませんねぇ。
「面白い」
「続きが気になる」
「もっとイチャイチャせぇよオイ」
そう思っていただけましたなら
「( ﾟ∀ﾟ)o彡°」
そのようにコメント、もしくは★で評価願います。
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