第40話強制フロアスキップ

 オークロードの群れに突っ込んだ俺は、まず最も近くにいたオークロードを殴り倒し、返す刀で、飛びかかってこようとするオークロードを回し蹴りで蹴り飛ばした。


 蹴りが直撃した瞬間、メリッ……と音がして、オークロードの首が引きちぎれて吹き飛び、豪快に血飛沫が上がった。




「うがああああああああああ!!」




 猛然と咆哮しながら、俺は次々と殺到してくるオークロードを殴り、突き、打ち、穿ち、刎ね飛ばして――徒手空拳でなぎ倒し続ける。




:ファーwwwwwwwwwww


:やべぇよやべぇよ


:オークロードと素手で戦ってる……


:オークロードってフロアボスクラスの魔物だぞ!!


:蹴り喰らった奴首が吹き飛んだぞwwwwwwww


:どうなってんだ! 一撃でオークロード倒してる!!


:人間やめてて草


:ダンジョンイーツじゃなきゃフェイクを疑う光景




 あっという間に十体近くをノした俺が、顔についた血飛沫を服の袖で拭った、その瞬間。


 俺の背後にオークロードの一体が這い寄り、金棒を振り上げたのを横目で見た俺は、それに向かって右手を掲げた。


 途端、まさしく人外の剛力とともに振り下ろされた金棒が俺の右腕と激突し――俺の腕ではなく、オークロードの金棒が根本からひん曲がった。


 オークロードが、人間から見てもぎょっとしたのがわかった。




:うわ


:!?


:金棒が曲がった……!?


:いや普通折れるのは腕の方だろうが!!


:ええ……!? えええええええええええええ!?




「オ、オオ……!?」

「……不意打ちでなんとかなる相手だと思ってんじゃねぇぞ、ザコが。強化中の俺はたとえ戦車砲喰らわせても殺せねぇぞ……!」




 言うなり、俺はオークロードの土手っ腹を思いっきり蹴りつけた。


 信じられない勢いで吹き飛んだオークロードの巨体が壁に激突し、壁が凹み、鮮血の花が醜くダンジョンの壁を汚した。




「オラァどうした! 多少仲間がやられたからってビビってんじゃねぇぞ! めんどくせぇ、纏めてかかってこいやぁ!!」




 俺の言葉に、残り半分ほどとなったオークロードの群れが咆哮した。

 

 手に手に握った得物を振り上げ、俺に文字通り殺到する。


 俺は手近の一体の首を手刀で刎ね飛ばし、返す刀でもう一体の首も鋭く刎ね飛ばした。




:手刀で首ぶっ飛ばした!!!!


:えええええええええええ


:うわぁグロっ


:どういう戦い方だよ! こんなん肉体強化ってレベルじゃねぇぞ!!


:オークロードを素手でかwwwwwwww


:なんか俺ら今凄いもの見せられてね?


:どっちが化け物だ


:ダンジョンイーツの方がよっぽど魔物な件




 次々と手刀で首を刎ね続け、数十体のオークロードの首と身体がダンジョンの床に転がり、周囲が血の海に変わってゆく。


 頭から鮮血を被りながら、俺は久しぶりに、ダンジョンで暮らしていた時の、あの感覚が目覚めるのを感じていた。


 そう、それは自分が人間ではなく、人間という動物に回帰してゆく感覚――社会という殻に包まれ、牙を失った人間が、生きるためにその牙を剥き出しにする感覚。


 吹き飛んだ首から血飛沫を浴びる度に、まるで魔物の獣性が感染するかのように、俺に数年ぶりに感じる感覚を取り戻させてゆく。




 飽きるまで暴れまわって――気がつけば、オークロードは残り一体となっていた。


 ゼェゼェ……と息を切らして汗と血とを拭った俺は、半分錆びた斧を手にし、明らかに圧倒されている様子のオークロードを睨みつけた。




「……あん? なんだなんだ、ビビっちまってんのか? 早くかかってこいよ」




 言葉などではない、ダンジョン内の魔物同士なら確実に通じ合う、強いものと弱いものの圧倒的な存在の差が、ますますオークロードを怯えさせた。


 戦慄し、震え上がっている様子のオークロードに、俺はノシノシと歩み寄った。




「あーあ、メルトダウンで多少魔素が濃くなったぐらいで調子に乗っちまったなぁ。オークロードは魔物の中でも強い魔物だ。強いから弱いものにいちいち手出ししたりはしない。だから普段はそっと側を通り過ぎてんだが……手出しされるってんなら、俺もその限りじゃない」




 ぶるぶると震える手で、オークロードが振り上げようとした斧を、俺は左手で掴んだ。


 咄嗟に斧を持ち上げようとして……その斧が既に俺の左手によってびくともしないのを理解して、オークロードが人間のように青褪めた。




「お前に、来世用の忠告だ。ダンジョン内では調子に乗るな。強い奴に無闇に襲いかかったら、喰われんのはお前の方だぞ、ってな――!」




 その言葉を最後に、俺はオークロードの顔面に、渾身の右拳を叩き込んだ。


 ボン! と、その一撃でオークロードの顔が爆裂し、赤い煙となって消失した。




「……ちっ、汚ねぇな。帰ったらシャワー浴びねぇと……」




:マジであの頭数全滅させちゃったよ


:凄い。凄い通り越してもはや怖い……


:パンチでオークロードの頭が吹き飛んだ……


:ダンジョンイーツのパンチはバルカン砲かなんかかよ


:やべぇ、これはやべぇ。どうなってんだ


:そりゃドラゴンも叩き殺せるわけだわ……


:オークロードってむっちゃ頑丈だから剣も通らないはずなんですがそれは


:ダンジョンイーツの顔怖っ……化け物の顔だ……


:今更だけど同接アッサリ10万突破してんぞ


:まだまだ伸びるなこりゃ


:色んなところで鳩されまくってて草


:Twitterトレンド汚染しまくってるなぁ




 と……その時だ。


 奥の暗がりから何らかの気配が生じ、俺は顔を上げた。


 


 ゾゾゾ……という、生理的に受け付けない音と共に現れた、それはそれは巨大なサソリ。


 それが暗がりから現れると、一斉にコメント欄が騒ぎ始めた。




:うわああああああああああああ


:ジェネラルスコーピオン!?


:デカッ! キモッ!


:Aランクモンスターじゃん!!


:これはムリ。いくらなんでもムリ。


:普通こんな低層階に出ないだろ!!


:ダンジョンイーツ逃げてー! サソリさんも逃げてー!!




 そう、ジェネラルスコーピオン――普段はダンジョンの奥の院に閉じこもり、低層階になど現れないレアな魔物の登場に、俺は口の端をもたげた。




「……へっ、メルトダウンってのは予想以上にお祭り騒ぎだな。こんなの50階層より上には出ねぇ魔物だろ。10階層にも降りてねぇのにコレか? 上等だ。みんなみんな、俺の邪魔するならぶっ散らばしてやるよ――!」




 瞬間、俺は強化された肉体とともに地面を蹴り、巨大なサソリの外殻に向かって渾身の一撃を見舞った――。


 





「ハァハァ……! くそっ、この体液、ネバネバしてて取れねぇ! これだから虫系の魔物は相手するの嫌なんだよ……!!」




 毒針を引きちぎり、ハサミをへし折り、脚を全部もぎ取って、ようやくジェネラルスコーピオンは絶命した。


 再び頭から被ることになった緑色の体液を手で拭いながら、俺はぺっぺっと口の中の唾を吐き散らした。




:ああ……


:もうなんか、慣れたな


:ジェネラルスコーピオンを素手でバラバラに……


:こんなこと出来るやつ地上にいたのかよ


:素手で脚も針もむしっちゃったよオイ


:それAランクのモンスターで地上なら駆除は自衛隊とかの仕事なんですがそれは


:期待を裏切らない


:流石はダンジョンイーツ


:同接20万突破おめ




「くそっ、こんな情けないところを20万人以上に見られてんのかよ俺は……! お前ら絶対このシーン切り抜き拡散とかするなよ。やったら怒るからな、マジで」




:押すなよ、絶対押すなよ


:押すなよ、絶対押すなよ


:押せよ!!(恫喝)


:押します


:拡散しろってことか


:りょ。切り抜き拡散します


:そう頼まれちゃあ断れないわな




「……アッ、だっ、だから今のはそういう意味じゃねぇ! 切り抜きするなったらするなってことだ! 別にフリとかじゃねぇから! いいか、絶対俺の情けないところは拡散するなよ!!」




 虚空に向かって叫びながら、俺は少し、ほんの少しだけ、楽しんでいる自分を発見していた。


 こんな地底に潜り、頭からサソリの体液まみれになっている俺を、面白がって見てくれる奴が20万人もいる。


 前まではあんなに嫌っていたダンジョン配信が、楽しい――それが俺にとっては物凄く画期的なことだったし、なんだか新鮮な気持ちだった。




 俺が次々と流れてくるコメントにアレコレ応答していた、その時だった。


 ゴゴゴゴ……と地鳴りの音がし、はっ、と俺は虚空を仰ぎ見た。


 また、地殻変動が始まっているのだ。


 


 俺は咄嗟に、スマホを取り出して、D Eatsの受発注アプリを起動し、藤堂アイリの位置情報を見た。


 D Live社の最新技術であるというダンジョン内GPSの位置情報、その階層表示が……87階、88階、89階……と、見る間に変化してゆく。


 ダンジョンが地殻変動を起こし、藤堂アイリのいる階層そのものが下に下がっていっているのだ。




「くそっ、これじゃあいくら急いで攻略したって追いつけねぇぞ……! お前ら、ダンジョンが地殻変動を起こして、藤堂アイリがいる階層が下がっていってる! 今、90階に変動した!」




:うわわわわわ


:まさにメルトダウン


:マジで!? 


:ダンジョンイーツはどうやってアイリのいる階層を特定してんの!?


:90階て……


:超深層階だな


:単独踏破なんてムリすぎるだろ




 俺の言葉に、コメントにも絶望のムードが漂い始めた。


 ちっ、と舌打ちをして、俺は覚悟を固めた。




「わかってはいたが……こりゃあやっぱり、奥の手を使うしかねぇな……」




 俺は呻くようにそう言い、両足を開いて立った。


 慎重に、全身の魔力を両方の拳に集めると――バチバチッ! と、青白い魔力が迸った。




「お前ら、今からやる方法は、言っとくが禁じ手だ。よっぽどの緊急事態でない限り使うなって、俺の師匠……みたいな人からも言われてる。だが、藤堂アイリの命には代えられねぇ。だから……いい子も悪い子も真似すんじゃねぇぞ」




:え、何?


:必殺技!!


:波動拳?


:かめはめ波?


:禁じ手って何!? そんなんあるの!?


:え、何をする気だ




「《肉体強化》、70%――!!」




 衝撃に耐えられるよう、骨も筋肉も魔力で強化し、来る衝撃に備える――。


 俺は自分の肉体が無事でいられるギリギリまで肉体を強化した。


 この徳丹城ダンジョンはかなり大型だから、それ相応の力ではないと――この床はブチ破れない。


 だから――俺も死力を尽くさねばならない。




 瞬時、意識を集中させ、俺はかつ、と目を見開いた。




「必殺――!! 強制フロアスキップ!!」




 うおおおおおお!! という唸り声とともに、俺は渾身の力で足元の岩盤を殴りつけた。


 途端、ミシミシ――! と岩盤が揺れ、俺の足元が消失し……俺は砕け散った数多の岩石とともに、一個下の層に墜落した。




:えええええええええええええええええええ!?


:はあああああああああああああああああ!?


:なにやってんだ!?


:拳でダンジョンの底を抜いた!?


:こんなん反則だろ!! 反則だろ!!


:ええええええええええええ


:えええええええええええええええ


:うわああああああああああああ


:床をぶち抜いた!?


:こんな裏技あるかよ!!


:ええええええええええ








ここが踏ん張りどころと弁えてなんとか毎日更新したいと思います。

皆さん頑張りますのでなんとか下の方の評価欄から★、

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