第5話迷惑系DLiver

 二日後、俺は三日ぶりとなる「登校」をした。


 眠い目をこすり、全く愛着を感じていない教室のドアを開けると、名前も覚えていない担任の国語教師の目が白く冷たくギラリと光った。




上米内かみよない、随分と重役出社だな? しかも登校も三日ぶり、とどめにあと十分で放課後だ。むしろなぜ登校した?」

「さーせん」

「全く、お前みたいなクズ、どうしてこの学校にいるんだ? そんなに登校が嫌ならさっさと転校するなり退学するなりすればいい。それとも、お前ぐらいのものぐさになるとそれも面倒か?」

「さーせん」

「ったく、どうせ登校しても寝てるだけなのに。出席日数確保のためだけの登校もいい加減にしろ。あんまり今の状況に甘えてると人生が破滅するぞ。まぁ私はお前のようなクズの人生なんて心配する義理はないけどな」

「……さーせん」




 全く、人は前世で一体どんな悪行をしでかしたら教師などに生まれ変わるのだろう。


 登校して三十秒ぐらいで俺が如何に人間のクズであるのか散々並べ立てた国語教師は、チッ、と聞こえるように舌打ちをして黒板に向き直った。




 窓際の俺の席には――何者かの手によって、花をいけた花瓶が置いてあった。


 今度は俺がチッと舌打ちをして、その花瓶を窓枠に置いて、椅子の埃を払い、椅子に座った。


 それを見た生徒のうち、何人かがクスクスと笑うのがわかったが、俺が名前さえ覚えていない連中だった。


 一応、教室を見渡してみたが、国語教師はこちらを見ようともしない。意図的に俺を視界に入れないようにしているらしいのだ。




 全く――教師に生まれ変わるような奴は、前世で一体何をやらかしたのだろう。


 今現在進行系で洒落にならないイジメが進行しているのに、被害者が俺なら天下御免なのか。


 まぁ、教師も大人である。子どものまま教師になる奴はいない。


 だから――大人である限りは信用できない。




 十二年前ので両親と死に別れた俺に保護者はいない。


 二年前に義父であった親父殿も死んだ。


 保護者がいないなら、学費も食費も働いて稼ぐしかない。


 だから働く時間が増えれば増えるほど学業に割く時間はなくなってゆく。


 俺はこの二日間、別にサボっていたわけではない、ダンジョンでバイトしていたのだ。




 だが、こいつらはそんな俺の事情など酌んではくれない。


 俺が三日ぶりの登校となってしまったのは俺が「甘えているから」であるらしい。 




 誰が? 誰に? どうやって「甘える」というのか。


 甘えられる対象など既に死んでしまった俺が、一体何に「甘え」られるのか。


 こいつらに聞いたってきっと答えられまい。


 答えられない、よく考えてもいない癖に――俺に「甘えている」という。




 やはり、どいつもこいつも信用できはしない。


 人間は三人集まれば二対一になってアイツをいじめようと言い出す奴が出てくる。


 だからといって一人でいてもあっちから関わり合いになってくる。


 本当に厄介としか言いようがない。




 俺が席について明らかに嘘のふて寝を決め込み、三十分ぐらいで終業を告げるチャイムが鳴った。


 それと同時に一斉に生徒たちが立ち上がり、放課後の僅かな時間を目一杯楽しもうと騒ぎ始めた時――俺の目の前に人影が立った。




「よう、上米内かみよない願寿がんじゅ君、久しぶり。三日間も会えなくて寂しかったぜ?」




 その声とともに、その大柄の取り巻きである複数名の生徒の下品な笑い声が発した。


 この声は――俺が唯一、この教室で曲がりなりにも親しく会話できるクラスメイトの声。


 俺は内心ため息をつきそうになりながら、視線を上げた。




「あんだよ、堂島。またなんか用か?」

「そう邪険にすんなって。今日もアレだよ、バイト。俺の配信に付き合ってほしいんだよ」




 このガラの悪い集団のリーダーである堂島がそう言うと、後ろに控えた取り巻きの男女がギャハハと笑った。

 

 バイト。俺たちの奇妙で一方的な関係を象徴する言葉。


 俺は今度こそため息を吐いた。




「わかってるよな? 一回三千円。お前、前回はツケだったから、今回は六千円だ。悪いけどちゃんとカネがあることは確認させてくれ」

「わかってるって。ほら、前払いしとくからさ」




 そう言って堂島は五千円札を一枚取り出して、俺の眼前に突きつけた。


 あと千円は? 俺の視線にも、堂島は半笑いで首を傾げただけだ。


 俺は猛烈に舌打ちしたい気分で五千円札をひったくり、ポケットに入れた。




「場所は?」

「いつものダンジョンだよ。俺、ちょっと新技を開発したんだよ。それの実験台になってくれりゃそれでいい」




 堂島が目の高さまで右手を掲げた。


 それと同時に、堂島の掌がオレンジ色の光に淡く発光する。




「えっ、堂島君、また新技発明したの!? スゴくない!?」

「さっすがレベル2だな! 最近チャンネル登録者も1万超えたんだろ!? マジでインフルエンサーじゃん!」

「これでまたスパチャでたんまりかよ! 羨ましいってマジで!」




 ほら、やっぱり【配信者ストリーマー】はクズばかりだ。


 このガラの悪い男の名前は堂島健吾。所謂迷惑系DLiverというヤツで、近隣のダンジョンに潜っては、他の潜入者が戦闘中に反転魔法を唱えて戦闘を妨害したり、ダンジョン内にトラップ魔法をかけて他者が引っかかるさまを配信したりと、かなり洒落にならないことをして荒稼ぎしているクズ中のクズである。


 流石に被り物で配信中は顔を隠しているが、もしコイツの正体がバレたら、血の気の多い連中も多いDLiverたちはきっとコイツを生かしてはおかないだろう。


 そしてこの取り巻き連中は、堂島が配信で稼ぐ分のカネをアテにし、堂島の取り巻きをして日夜遊び歩いているというクズどもなのだ。


 俺は立ち上がり、堂島を睨みつけた。




「さっさと済ませようぜ。この時間にも時給発生してんだからな」

「おお、悪い悪い。あと最初に言っとくが、今回のはちょっと普段より痛いかもしんないぜ。小便チビんなよ、上米内クン?」




 誰がレベル2でしかないお前の攻撃で漏らすか。


 俺は反論したい気持ちをぐっと飲み込んで、拷問場所に行く一歩を踏み出した。







この作品の連載のモチベーションとなりますので、

もしよろしければ下の方の★から評価をお願いいたします。


よろしくお願いいたします。



【VS】

この作品も面白いよ!!


魔剣士学園のサムライソード ~史上最強の剣聖、転生して魔剣士たちの学園で無双する~

https://kakuyomu.jp/works/16818093075506042901

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る