第70話 大体見えてきたな
どう考えても頭の端が強烈な危機感を訴えている。
確かに素早いし踏み込みも十分。図体もでかいしリーチも長い。だがそれでも届かない。
ならその時点で、手の内を半分明かしたようなものだ。ただ――、
一瞬、ナックルから4本の針が伸びる。しかも回避先を潰すように、それぞれの角度が少ずつ違う。
――成程、こっちか。
十分な危機感を持っていたから助かった。3本を回避して1本をババアから貰った短剣で弾く。
見た目は針が伸びただけに見えたが、打ち合った手が痺れる。
魔道具だってのは見れば分かるし、この短剣も向こうの2人の武器もそうだろう。
しかしこれだけのクラスを相手にするのは初めてだな。
切断するつもりで斬ったのに、傷すらついてねえ。
しかも脇で握りしめていた拳から更に4本伸びて来る。
――ちっ、ノーモーションで繰り出せるのかよ。
迂闊にも危機回避で勝手に回避してしまった。追撃が来たらマズかったな。
だが今ので射程から離れたか? 向こうは警戒をしつつも仕掛けては来ない。
まあその前に金属音が響いたがね。危機回避が切れると同時に、自前のナイフを投げたんだよ。
2枚重ねで、下の方が鋭く重い。上は剥き出しの顎に。下のナイフはほんの僅かに遅れつつ、鎧の薄そうな太腿へ。
モーションは1つ。普通は上に注意が行くし、そもそも2本投げているとは思わない。更にそのナイフが死角になって、本命である下のナイフは見えない。
いきなり使ったが、俺の必殺パターン。出し惜しみできる相手じゃないしな。
「なかなか面白い芸だな」
だがそのナイフは、両方共にナックルから伸びた針に貫かれていた。不規則な角度だが、しっかり狙えるのか。
普通の武器じゃどうにもならんな。まあババアに貰った方を投げていても弾かれただけだろうが。
「芸と思うのなら、もう少し楽しんで頂けると嬉しいのですけどねえ」
「芸ってのはこういうものを言うんだよ。じゃあな、終わりだ」
本能が告げる。これはユニークスキルの危機回避じゃない。もっと原始的な感覚だ。
全力で横に飛ぶと、轟音と共に今までいた位置と、その奥に穴が空いた。
太さ、深さは俺の腕ほどか? 土煙は上がっているが、あるのはポツンとした空洞だけか。
しかし危なかったな。後ろの奴は、俺が危機回避で動く距離にピッタリだよ。
位置と角度を考えると、危機回避が発動したらバックジャンプだな。そして終わりか。
今さら分かっちゃいたが、詳細まで知られているな。加えて、さっき距離まで測られたって訳だ。
「なるほど見事な手品ですな。種も仕掛けも分かりませんでした。是非称賛をお送りしたい」
「ならそのまま死んでな」
まあ行くしかないが、真っ直ぐはダメだ。
今までいた位置に、再び轟音と共に穴が空く。同時に危機回避で動くであろう距離にランダムで1か所。
ブラフでないとしたら、同時に2つ。だが本当に種も仕掛けも分からなねえ。
もう動いている以上、直撃するかは読み合いか。
危機回避読みの2発目はもっとランダムだ。最初がどんな角度で当たるか分からない以上、距離以外は完全に勘だろうしな。
当たったら運が無かったと諦めるしかないね。
とはいっても、常に即死級が2発来るのはしんどい。角度次第じゃ、危機回避したら相手の目の前って事もあるわけだし。
ナックルから伸びた針の一本を短剣で受け、その勢いで少し距離を取る。
こちらは今のところ、射程は3メートルか。
これ見よがしに殴るモーションで踏み込んでくる奴と、反対側からノーモーションで繰り出される方。両方共に厄介だな。しかも角度がずれている所が嫌らしい。
あんなもの、普通の人間なら出会って1秒で即死だ。
しかも上から降って来る謎のモノ。
ちらりとババアと戦っているサイネルとかいう女の方を見るが、こちらが何かしている様子はない。
というかそれどころでは無さそうだな。ババアが相手だし。
鎧が何ヵ所も裂け、地面には大量の血痕がある。
ただそれでも、女の動きに鈍っている様子はない。
有利ではありそうだが、ありゃ長期戦だな。すぐに決着がつきそうもなさそうだ。
というかあのババア、自分の分が終わったらのんびり見物しそうだしな。援軍としては期待できない。
だが確かにあの状態でこちらにちょっかいを出せるとは思えない。それもあれほど正確に。
やはりビスタ―とかいう男か。
なんて考えている間にも俺の周りは穴だらけ。しかし、これの射程はどの位なんだ?
いや、あまり関係はないか。
おそらく村――とはもう言えんな。町まで届く。そうでなければ”魔略”の危機とは言えんだろう。
それに正面や側面ではなく必ず上空から来る。もし針に交じって真正面から来たら回避は不可能だろうに。
長射程にこの角度。何より殺気のような物を上から感じない。
3人目がいるわけではない。魔道具の類か。
狙われている位置が分からない以上、ギャンブル性は高い。
それにしたって当たらない。掠りさえしない。魔道具自体は比較的遠く――そうか、”魔略”を狙っていたのだったな。
そうそう早くは戻せないという事だろう。
なら、攻撃が到着するにはかなりの時間差がある。
どうやら俺の動きを全く見切れていないようだし、行動を制限されない限り当たる可能性はないな。
「そろそろ観念したらどうだ? どうせ失敗作なんだろう?」
「いえいえ、そちらも早くその失敗作を処理しないと、お仲間が大変ですよ」
体は十分温まって来た。相手の手の内もだいぶ見えてきた。
さっきの反応からして、こいつのユニークスキルは遠くを見るものだ。
それを使って、遠方から対象を攻撃する訳か。
さてそうなると、遠近どちらを重視する?
考えるまでもないな。遠くを見て一方的に攻撃する。ユニークスキルまで加味すれば、こいつの強みはそちらだ。
それでも油断できる実力差ではないが、そろそろ仕掛けるべきか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます