第65話 やはり軽い気持ちで流しちゃだめだ
さすがにここまでは徒歩だったが気を利かせたのだろう。外には馬車が用意してあった。
これからはこれを利用しろって事だろうな。
顔を知っているのはごく少数とはいえ、姫様がいつまでも堂々と歩き回るわけにもいくまい。
こうして指定されたレベル屋の予定地に行く途中――、
「それで姫様、さっきの誓約ってのはどの位の効果があるんだ? それに解除なんかも知りたいな。あちらはさっさと解除して、こちらにだけ残っているという事も有り得る」
すると右手をにぎにぎとして――、
「間違いなくかかっていますね。それと、これの解除は相当に難しいです」
「なぜ?」
俺にはまだ良く分からないな。魔法の才能がないからか? そもそもさっき言われた呪詛の鎖ってのも、俺は自覚していなかった。今でも無理だと思われる。
ある意味、俺の大きな弱点だな。本当に魔女ってやつはどうしようもないが、これに関しては八つ当たりか。
魔法がさっぱりなのは、ほぼ俺自身の才能の話だ。
「誓約を結んだのは”魔略”の エナ・ファンケス・ミネストダイエです。しかも互いに、それも自然に受け入れてしまったわけです。この時点で、相当に彼女の力を凌駕しない限り解除は不可能でしょう。おそらくですが、お父様のレベルでも無理かと」
本当に魔女ってやつは……。
「しかも条件が曖昧でした。明確な誓約ほど分かりやすいですが、それは脆さにもつながります。ですが、先ほどは非常に定義が曖昧でしたし、破った時の罰則も具体性がありませんでした。これはまるで空気の様な誓約で、おそらく”魔略”本人にも解除できないでしょう」
あの糞メスガキ!
ババアも追加したいところだが、真のババアがいるから今はやめておこう。
「ただ効果は間違いありませんし、誓約された事も守られるでしょう。今後ヘイベス兄様は、あたしやフェンケに対していかなる干渉もすることは出来ません。それがたとえ良い事であってもです。これはたとえ人を仲介しても、本人にその気があった時点で誓約に掛かります。ただ本当に空気の様な誓約ですので、今までのように挨拶をしたり共に食事をするなど、日常的な事は何も縛られていませんね」
「確かに帰りの挨拶は出来たしな。しかし、わざわざ完全な傍観者になったって訳か」
人間の行動には必ず理由がある。この誓約にも、今の段階でやらなければいけないという意味があったはずだ……と考えるのは、俺があいつより謀略という分野で劣っているからだよな。
あの手の人間は平然と”取り敢えずやっておく”をする。意味も理由もない。とにかくできるから何かの布石になるだろう程度だ。
深く考えすぎると、逆に沼に嵌って沈んでしまうね。
「ただ兄様の指定した縁者が曖昧すぎて少し困りますね。家族は当然として、”神知”と”魔略”も含まれていると考えて良いでしょう」
「理由は?」
「あたしたち王族は、王室特務隊を異名で呼ぶように言われています。これは人ではなく、あくまで王家のための道具であるという意味からです」
「なるほどね」
部下はあくまで道具。それは悪くはないし当たり前だという世界で生きてきた。俺は人ではなく、一本のナイフだ。だから姫様は正しい。
だがヘイベス王子は名前で呼ぶか……まあ特殊な武具などには固有の銘があるし、中には異名で呼ばれるものすらある。ただアイツらは本名だろう。根本的に違う。道具ではなく身内か……。
まあこの件は保留だな。世間一般にはお人よしがする事のように思えるが、なにせアレだからな。
裏をめくったらまた裏が出てくるような男だ。信じてはいけない。
「そうすると、“歪みの繭”ってのは?」
「はい、異名は知っています。ですがそれだけです。おそらく公式な成人の儀式を終えればそれなりに教えてもらえたと思うのですが」
それまではあくまで子供って事か。
こればっかりは仕方ないな。
「それで最初の話の補足だが、誓約を片方がこっそり解除する事は?」
不可能と言われても、抜け道は必ずどんなところにもあるものだ。
「それは根本的に無理ですよ。それが可能であれば、一方的な誓約を課すことができてしまいます。もちろん最初からそうであれば不可能ではありませんが、難易度が跳ね上がります。特に今回はレベルが近いあたしがいましたので、それだけに事前の準備となれば別次元の質が要求されるでしょう。ましてや誓約とは繋がった術です。切れるように構築するなら、難易度はさらに上がります。当然ですが、そんなものが付随していたらあたしでも理解できますのでご安心を。今回のような場合は、解除された瞬間に分かると思いますよ」
「なるほど、了解した」
姫様がいて助かったな。完全に貸しを作ったが、悪い気はしない。
多分だが、俺はその”解除された瞬間に”に気が付かない。それほどまでに魔法だの呪術だのは分からないんだよ。
「あ、そろそろ見えてくるようですよ」
「そうだな」
事前ここだと、落書きの様な地図を渡されたからな。
正直これだけだと判らんが、御者の動きと建築音が遠ざかっていく事を合わせれば大体予想がつくものだ。
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