第59話 あまり俺には関係のない話だが

 俺もついでの食事をしながら酒も飲む。付き合いだからな。

 まだ体力に余裕があるとはいえ、それはレベルによる上澄み分だ。体の芯から来る疲労はやはり感じる。

 もはや何があるか分からなくなった。少しでも体調は整えておきたいのだがなあ。


 というかさ、一応成人したとはいえ姫様もかなり酒を飲んでいるが大丈夫なのかアレは。

 それに予定より俺達が食べるので、メイドのカイナは大忙しだ。

 もっとも温度変化の呪文は料理にも応用できる。いやむしろこちらが主流と言って良い。

 作るペースも普通に火を使うのとは段違いだ。


「それでまだ聞きたい事が山盛りなんだが、姫様の使っている魔剣は何なんだ?」


「これですか?」


「そう、それ」


 というかしっかりと足元に置いてある辺り、警戒を怠っていない証拠だ。良い傾向と言えるだろう。


「ウィッツベルが持っていた魔剣だろう? まあギリギリ及第点といった程度の物だ。丈夫ではあるが、特別な効能は無いよ」


 その程度の物を主兵装にする連中ではない。

 鎧を置いてきたように、武器も予備の一つといった程度か。


「だがあって良かっただろう?」


 面白そうにというか、器用に骨付き肉をくるくると回しているが、やはりあの襲撃は分かていて見逃したか。

 それも、こちらが勝つことが前提になっていた。

 ババアが俺のスキルに関して詳細を話さなかった事はありがたいが、それとは別に自分でも調べるのだろう。

 単純に書面通り失敗作と見たか、それとも資料――とはいえスカーラリア商家そのものが証拠を全て処分したか……どちらにせよ、真実には辿り着けなかったという事だな。


「襲撃者の――ウィッツベルとかいう奴の件に関してはここまででいいだろう。どうせこれ以上は話せないのだろう?」


「これでも立場というものがあるのでね」


「では“神知”と”魔略”に関してだ。ちゃんと教えてくれるのだろう?」


「ああ、構わんさ。だがそちらも知っているだろう?」


「俺の知識なんて噂程度の物だよ。詳しく教えてくれ」


 どうせ弱点の手合いは話さないだろうけどな。


「あの2人は第4王子であるヘイベス・ライラスト・クラックシェイム殿下に配属された特務隊員だ。元々我らは状況や任務に応じて組む相手が変わるが、あの2人は変わった事が無いな。特に今は先ほど言ったようにヘイベス殿下の補佐が任務だ。解任されるまでは現状のまま変わらぬだろう」


「まあいかにもセットという感じだったしな。その辺りは驚きなどしないね」


「だろうな。我等王室特務隊は全員ユニークスキルを持っているのは知っているのだろう?」


「まあね」


「当然あの2人も持っている。条件などは言えぬが、異名通りと言って問題は無いだろう。“神知”は人では知り得ない事柄を知り、“魔略”は対象者が決して考え付かない事を知る。それだけなら知略が専門に聞こえるかもしれぬが、近接戦も得意とするし魔法は言わずもがなだ。ただまだ若いからな。これからの成長が楽しみだ」


「へえ、見た目通りとは思っていなかったが、意外と若いのか」


「“神知”が212歳。“魔略”が161歳だ。出会った頃は本当にまだひよっこでな――」


「年寄りの話は長くなるからその辺で良いわ」


 というか、こいつの感覚で年齢を聞いた俺が馬鹿だった。


「一度聞いておこうと思ったんだが、あんたらはなぜそんなに長生きなんだ? というかアンタは分かる。しかしあちらの2人は人間だろう?」


「羨ましいか?」


「全然」


「それが正しい考えだ。長く生きたとて、それが幸福につながるわけでもない。むしろ辛い事の方が多くなるものだ。いや、これは余計な考えだったな。もし望むのであれば、神の試練を受けるが良かろう。達成できた試練に応じて寿命は延びるよ」


「その時点でパスだ。現国王や王子王女がそんな物を達成したという話は聞かない。元は国1番のレベル屋にいたからな、王族はある意味全員知っている」


「レベル屋の前から知っているだろう? だがお前の言う通りだよ。王室特務隊だけではない。この国で神の試練に挑む資格を得たのはあの2人だけだ。当然、クリアしたのもな」


「建国前はどうなんだ?」


「意外だな。興味は尽きぬか?」


「人間かと思って対峙したら、300年生きた怪物でしたとかは嫌だからな」


 ちょっと反応を見たかったのだが、“絶懐不滅”のケニーはむしろ面白そうだ。

 酒が入ったからという訳でもないな。自覚があるって事だろう。


「“神知”、”魔略”を含め、私の知る限り神の試練に挑んだのは1026人。達成者は2人だけだ」


「では誘われたら丁重に断ろう」


「そうなんですか?」


 姫様は当然の様に興味津々の様だが、


「今の話を聞いた通りだよ。普通の人間にはクリア不能って事だ」


 というか、ケニーは俺の5倍は飲んでいるし、姫様はその3倍は飲んでいる。

 なのに全く酔ったそぶりが無いのはどうなってんだ。

 こっちはワインを3本も空ければもう限界だよ。


 しかし神の試練とやらを俺は知らなかった。

 ケニーも全てを把握しているとは思えないし、“神知”や”魔略”にも“条件”とやらがあるらしい。

 王室特務隊が全能であると思った事はないし、それは事実だろう。

 ただ世の中には面倒くさい奴らがまだまだ潜んでいる。それだけは忘れないようにしよう。


「では皆さん食事も終わったようですし、今夜はもう休みましょう。あたしも少し疲れました」


「そうだな。明日は朝から忙しくなる。特にレベル屋の構造は、実際に何を捕まえてきてどう倒させるかが決まらないと図面も引けないのでな。ルーベスノア卿には全てを決めてもらわねばならぬ。遅れるなよ」


「分かっているさ。ああ、ただ1つ頼みがあるのだが」


「ほほう、珍しいな。資金か? 資材か?」


「いや、そっちの問題は多分大丈夫だが――ちょっと気になってな……」


「……ふむ、ギリギリと言ったところではあるが――良いだろう。まあ文句は出まい」


 こうして、見惚れるほどに颯爽とコートを羽織ると、ケニーは帰って行った。

 何と言うか、美人ではあるがそれ以上にイケメンだな。

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