第48話 マジで行きたくないんだけどな

 それじゃあ、今更だが説明をしておこう。


「動物は俺たち人間と同じだな。増え方はまあそれぞれ違うが、基本的には似たようなものだろう。村にいた変な家畜も、珍しいってだけで単なる動物だ。肉はあまり良くないし毛皮も低級。あまり産業価値は無いが、図太いからこんな辺境でも飼われている。そして、食べて、寝て、増える。縄張りを持つ者もいれば、旅をする者もいる。攻撃すれば襲ってくるか逃げるかだが、中には人間を食べるために襲ってくる奴もいる。まあ一番の被害者は畑を荒らされる農民だろうけどな」


「その辺りは魔物と同じですね」


「そう。外見が近い奴もいるな。ただ大きな違いは3点。魔物は湧いて出る。その中心は幾つも見つかっているが、真の中心に人類が到達したことはない。噂では魔物の王がいるとかも聞くが、これは人に近い魔物がいるから出た伝説だろう。とにかく、その中心から近いほど強い魔物が多く、遠いほど弱い魔物が少し沸く。卵や幼体で沸く事もあれば、成獣で沸く事もある。だが成長はしても、動物の様に繁殖はしない」


「人間の生活圏はその縁の外が基本ですね。それでも境目は人と魔物の争いが常に行われているとか」


「魔物は異界にもいると聞きますが、そのふちはどこまで広がっているのでしょうね」


「さてね。ただその異界自体が魔物の真の世界で、湧き出す中心はこちらに開いた穴とも言われてはいるな。いくつかはかつての英雄様達が潰してくださったわけだが、今でもこうして前人未到の穴は世界中にある。さてもう1つの違いだが、動物は種類ごとに別れている。更に群れごと、そして個とどんどん単位が狭くなってくる」


「魔物は違うのですよね」


「ああ。奴らは姿形や力が違っても、等しく魔物という一つの存在だ。魔物同士で争う事はないし、外敵と戦う時は全ての魔物が一丸となる。基本的に指揮官みたいなのはいないが、かなり強いやつがいるとそいつが率いる事もあるな。大抵は人型やドラゴンなんかの知恵がある奴の役割だ」


「そこが厄介な所ですね」


「そして3つ目が一番厄介なのだが、連中は命をくらう。まあ本能かは知らんが肉なんかも食うが、基本的にはただ殺す事が一番のごちそうだ。人に限らず、生きとし生けるもの全てだな。本来なら何も食べないのに成長するし、寿命すらないのに迷惑な話だ。おそらくあの森も、元々は普通の森だったのだろう」


「え?」


「いや、今更だろう。こっちの世界にこんな木はないぞ。これは本来の木の生命をこいつらが駆逐した結果だ」


「植物もそうだとは初耳でした」


「動物型は動物、植物型は植物を好むしな。ただあの種類は枝を普通の木に突き刺して命を吸うが、レベル3位の人間程度は倒すくらいの力はある。危険な事に変わりはないよ。ただ植物型は駆逐しやすいからな。普通は問題になる前に処理される。だが放置すればこうなるって訳だ。ただただ生き物を殺す為だけの統一された存在。それが魔物なんだよ」


「やっぱり聞いてみるものですね。でも繁殖はしないのですよね? どうしてこんなに?」


「魔物の厄介さとレベル屋が両立する所以だな。マンティコアも集まっていただろう。山を登るときに出くわした奴らもそうだ。魔物は、ある程度の地域に同じ種類が大量にいる。だが他の地方では全く見なくなる。疑問に思った事はないか?」


「見た事が無いですので」


「同じくでございます」


 だよなあ。


「さっき円の外周ほど弱い魔物が沸くと言ったが、その沸き方が問題でね。奴らは一度沸くと、以後は同じ種類がその近くに沸き始める。数の上限は種類と広さによるが、全滅させない限り永久に同じ数まで戻り続けるって訳さ」


「安全なはずなのにドラゴンの群れに滅ぼされた国があると聞いたことがありますが……」


「昔は今ほど警戒網が敷かれていなかったし、人間同士の争いも多かったそうだしな。おおかた入り込んできた事に気が付かない間に、周辺に次々沸いたんだろうさ。だから同じ地域では、大抵同じ魔物と出会う。そして全く種類が違う魔物が、協力して襲ってきたりもするわけだ」


「そういう事ですか……それでさっきの話ですが、もうこちらの事は知られています。なら、そこのまま進めばやはり」


「素直に通してくれるなら楽だが、そうもいかないだろうな。ただ姫様のレベルは脅威だ。まだまだ襲っては来ないな。ここはもう奴らの勢力圏。なら知恵がある奴が必ずいる。下等な連中はともかく、知恵のあるやつはむやみやたらと戦いはしない。たとえいくらでも沸くにしても、ここはまだまだ外周。強い奴が沸くには相当に時間がかかるからな。連中も自分の価値は十分に理解しているわけだ」


「昼夜休みなく襲って来られたら嫌なのですけど」


 フェンケは身震いするが、少し位なら問題ない。

 俺のレベルが一番低いとはいえ、こちらにはスキルがある。

 フェンケはレベル64。レベル20や30の奴が絶え間なく襲って来ても、1週間は休みなく戦える。

 姫様に至っては、飲まず食わずでも数か月は戦い続けるだろう。レベル200超えっていうのはそういった次元の存在だ。


 初めて会った時はまだ自分のレベルに振り回されて扱いきれていない感じだったが、ここまで過酷だったしな。そろそろ自分の力として馴染んでいる様だ。

 それでも無理は禁物ではあるが、先に行かなければ来た意味がない。


 そんな事を考えながら色々話し合っている内に、俺たちは無事に山を下りる事が出来た。

 さすがにあそこで戦うのは嫌だったからな。

 とはいえ……目の前に広がるのはうっそうとした黒い森。

 単なる比喩ではない。木も葉も黒いのだ。そして陽の光も完全に遮っている。


「行きたくねえ」


「弱音は禁物ですよ」


 おっと、口に出てしまっていたか。

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