第47話 ここが山の反対側の景色か
ある意味、あまりにも都合よく姫様用の武器が手に入った。
作為的な物も感じるが、今は良いだろう。
必ずペアを組んでいるもう一人も気になるが、さっきの奴はあえて装備を外してきた。
そう考えれば、組んでいるとは考え難いな。
むしろけしかけたか? いやいや、それは考え過ぎか。
ペアを組んでいる以上、片方が倒されたりしたら責任問題だしな。
抜け駆けしての独断専行。それが一番しっくりくるか。
そして迷宮に入って3日。姫様が使える武器を手に入れた事で、存分にレベルを発揮してくれた。
ただレベルが生きたかという話は別。
なにせ、結局抜けるまでに出てきたのは古代ゴーレムのレベル22が最高値。
本気で身構えていれば殴られたってびくともしないし、素手でも倒せる。
しかもでかい。うん、いらん。
というか姫様が武器を振ると、衝撃波で壁に見事な裂け目が出来る。
いやあ、さすがのレベルだね。
ただスキルが上がらないと、むしろ危険なのは俺たちの方だ。
持たせたのは逆に失敗だったか?
なんて考えていると、遂に外に出てしまったのだが――、
「これが魔物の世界ですか」
「何と言いますか……もう別の世界ですね」
夕日に照らされた山の斜面は、登って来た時と変わらない。
ギザギザの刃物のような岩とわずかな植物があるだけの急斜面。
その山を下りれば、うっそうとした森が茂っている。
かつてはきちんと整備された道があったそうだが、今となってはその必要も無しという事か。
ただ違うのは、眼下に広がる広大な森。
まるで人が入った事など無いかのように遥か彼方まで見事な広がりを見せている。
ただ、ここから見ればただの漆黒。世界が黒い。冥府への穴。そう表現した方が良いだろう。
「あれは何なのですか?」
「森だよ。ここからだと光も届かない穴に見えるけどな。今更だが、あれも魔物だ。あまり警戒する必要の無い相手でもあるが、まあ油断はしないように。それより感じるか?」
「視線を感じます。それに、何か嫌な気配のようなものも。クラム様は何か感じますか?」
「ドラゴンがいるな。それに、それより上位の威圧も感じる。本来なら人間など気にもしないだろうが、おそらく姫様のレベルを警戒しているんだろう」
「このような距離からですか?」
「人間が鈍いんだよ」
レベルの差がどれほどのものかを分かっていても、人間はレベル差の探知に疎い。道具や魔法を使わなければ正確には測れないほどに。
その鈍さが絶対に勝てない様な相手にすら挑む事につながり、無数の失敗の上で掴んだ奇跡が今の社会を作ったともいえる。
しかしモンスター達は敏感だ。
200クラスが来たとなれば、すぐさま感じ取る。
ただ、すぐに襲って来る事はないだろう。
もちろん身の危険があればすぐに挑んでくるが、そこまで馬鹿ならなんと楽な事か。
いつかは仕掛けて来る。だがいきなり大物がこのレベルに挑むことはないだろう。
「ここから先は連中のテリトリーだ。戦闘が続くと思った方が良いな」
「ダンジョンのマンティコアや大蜂のようにですか?」
「ゴーレムもそうだが、アレは連中の狭いテリトリーに立ち入ったからだな。だがここからは少し様子が変わる。魔物と動物の違いをどこまで知っている?」
「おそらく基本的な知識は全て」
「私もです。ただあくまで基本的な事だけですので、一応説明して頂けますか?」
身分に差が出来てから少し控え目だったが、ダンジョンを抜けてからのフェンケは更にしおらしくなったな。
まあこれは身分がどうこうではなく、実戦経験の差を実感したからだろう。
少しは認めてくれたって事かな? トゲトゲ感が無くなって、少しいい感じだ。
ここから先は、口論なんてするようなら素直に見捨てるしか無いからな。
それにまあ、今更だが動物や俺達人間、それに魔物との差もおさらいしておいた方が良いか。
庶民でも貴族でも、そこまで複雑に考えない人間はいるしな。
まあ、学者じゃないんだからそれで良いのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます