第46話 切り札は教えたくなかったが

 ただその辺りを説明しても仕方ない。


「王室の秘密も、絶対ではないという事さ」


 今はこんなもんで良いだろう。


「それでなのですが、どうやって勝ったのですか? あたしとしては、そこが一番知りたいところです」


「いやまあ、勝ったのだから良しでいいんじゃないか? それとも――」


「勝てるとは思いませんでした。あなた方が対峙した時、あたしなりに覚悟も決めました。ですがあれほど一瞬で勝ててしまうと、逆に気になってしまいます。貴方は……本当は何者なのですか?」


 おそらく姫様の中では、俺との出会いの段階から偶然ではなく仕組まれた事だという疑念が湧いているな。

 しかも向かう先は魔国、人類の敵だ。

 見方を変えれば実は俺が人類の敵で、姫様は知らないうちに加担させられている。

 だが本人の意志なのかどうかは分からないから、王室特務隊が事態の鎮静に来た……まあそういうシナリオもあるだろう。


 ただ目を見る限りはそこまでの疑いは向けていないが、不安が渦巻いているな。

 メイドの警戒心もかなり上がっているが、同時に勝てないという事もハッキリと見せられてしまったという所か。

 絶望と忠誠心の間で揺れているな……仕方がない。今後の為だ。


「いずれ話す事もあるが、要はこいつのスキルが達人止まりだったからさ」


「達人止まりって……10ですよね? 人間の限界ですよね?」


「そう言えばあの時は深く聞ける雰囲気ではありませんでしたが、実際のスキルは幾つなのですか?」


「それはまだ秘密だと思ってくれ」


「そうはいきません。お互い命を懸けている身。それに相手は……それを考えれば、秘密は出来る限り共有した方が良いと思います」


「知る事で危険になる情報ってのもあるんだぞ」


「それで何か変わるのですか?」


 参ったね、降参だ。

 こうなると意外と姫様は頑固だ。


「俺の短剣スキルは14。体術も12だ」


「冗談――ではないのですよね?」


「簡単には信じられません。人が生涯をかけても10行くかどうか。無限の寿命を持つ魔物の――それも人型なら有り得ると聞きますが、それでも神や魔の領域です。何故あなたが? しかもその若さで」


 普通は確かに無理だろうが、“絶懐不滅”のババアだって10を超えていたな。

 不可能ではないというか戦歴を考えれば当然かもしれないが、一体どれだけの修羅道を歩んできたのやら。

 本当に人間として考えて良いのかどうかも疑わしいね。


 それはされておき、10なら達成できた人間はいる。これは世界の法則の到達点――誰でも知る常識の範囲内だ。

 だからこそ、大きすぎるレベル差を覆す事は出来ない。それを超えると世界の法則から外れてしまうからね。

 だが、11……12……こうして10という限界を超えたスキルは、レベルの差という絶対をも破壊する。

 俺が奴の体を貫けたのもそれが理由だし、奴の余裕がなくなったのも、人の限界を超えた体術を見せたからだ。


 危機回避のユニークスキル。10を超えたスキル。それが俺の最高の武器って訳だよ。

 防御という事ならもう一つあるが、これはさすがに話したくはないな。

 何というか、多分だが気持ち悪いだろう。


「まともな手段じゃないが、話せば長くなる。これも落ち着いてからにしよう」


「そう……ですね。いつか話してくれることに期待しますが、今はどうします?」


「放っておいていいだろ。すぐに魔物の餌になる」


「シビアですね」


「この石畳に穴掘って埋めるわけにもいかないだろ」


「確かに」


 姫様は手を合わせ、指で祈りの印を作る。

 気持ちは分かる。顔見知りではなくとも、本来なら王室特務隊は王家の為に動く特務隊だしな。

 本当なら、全員が味方だったんだ。


「さて、ペアの奴が来る前に動くか。こいつが一人で来た思惑はともかく、分からない以上は会わないのが一番だ」


「確かにその通りだと思います」


「あ、そうだ」


 ひょいと大型のシミターを拾う。


「これは姫様が持って行くと良い」


「そう……ですね」


 複雑な気持ちはあるだろうが、素手じゃ戦えない相手も多い。

 さりとて普通の武器じゃ強すぎて扱えないし、そもそも今の姫様は素手で生き物を叩けない。

 そんな訳で、力任せに振り回しても大丈夫な武器が欲しかったんだよ。

 アイツの武器だ。それになりに使える品だろうさ。


「ですが、亡くなった方の武器を……セネニア様、よろしいのですか?」


「ここに放置したら、武器を使う魔物が拾って使うかもしれない。そうなったら、人間に犠牲が出る可能性だってある。使うか使わないかの最終的な判断はともかく、これは姫様が持って行くべきだ。それに……一応形見だしな」


 まだ迷いがあった様だが、形見の一言で決心がついたようだ。

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