第43話 俺でも仕掛けるならここだよ
まあ魔物にも武器を使うものはいる。
雑魚の武器は骨や木槍程度って事もあるが、マンティコアがうろつく坑道――いや、迷宮か。
ここなら魔剣を持った魔物くらいいるだろうと思ったが、なんか普通の動物型ばかりだ。
最初のマンティコアが一番強かったまである。
一応キラービーの巣と出くわした時はヒヤリとしたが、
「フェンケ、やってみろ」
「上手くいかなくても恨まないように」
こちらの気配を察して一斉に巣から出てくる蜂ども。
大きさは1メートルほど。今まで出会った魔物なら軽々と食いちぎる顎と、強力な毒が特徴だ。
ただ攻撃が単調だけに時間さえかければ俺一人で対処も可能だが――フェンケが両手に4つのガラス球をもって、四方の壁に投げつける。
当たりはしないが、こいつもこいつでレベル64。
魔法で強化してあったとはいえ、ガラス玉は見事な程に粉々に砕け散った。
だが投げると同時に詠唱していた短縮呪文。
それは砕けると同時に発動し、欠片は蜂どもの体を切り裂きながらフェンケの手元へと戻って行った。
「やっぱり体に当たった分は難しいと思います」
「まあ見た目より硬いからな」
翅を貫いたガラスはしっかり戻ってきたが、甲殻に弾かれたり貫通しなかった分は戻ってこなかった。だいたい3割くらいは無くなってしまったな。
「だけど悪くはない。相手を選べば十分に有効だろう。使える武器が一つ増えて良かったな」
「荷物は重くなりましたが――って、何処へ?」
「そりゃ、始末をつけんと先に進めないだろう」
群がる蜂を回避しては斬り倒す。
傍から見るとすごい事をしている様だが、俺自身はさほどたいしたことをしているつもりはない。
この程度ならユニークスキルも必要ない。修練に修練を重ねた……といえば聞こえはいいが、とにかく十分に高い短剣と軽業のスキルのおかげだ。
そして巣に行って、バキバキと壊しながら中にいる女王を仕留める。
これで完了だ。残った連中は戦わない。霧散して終わり。
所詮は女王の駒。頭さえ潰せばこんなものだよな。
やがて何処かで干からびて死ぬだろう。
「この蜂の子とかは使えませんか?」
「悪くはないが、幼虫を仕留めた所で大した経験値にはならないしな。成虫にしてしまうと、今度は普通の奴では倒せなくなってしまう」
「殺虫剤では?」
「こいつらを仕留めるとなると、コスト面がな。まあそれを言ってしまうと、この幼虫を成虫にする事自体が大変なんだが」
「確かにそうですね」
「上手くいきませんね」
「そう簡単に上手くいったら、100年や200年前から今ほどのレベル屋があっただろうけどな」
人間の発想なんてものはそうは変わらない。
少し上げる位なら昔からあったし、適切な魔物さえあればどんどん新しいものを作るだろう。
そして、今の時代にたまたまプリズムポイズンワームの幼体が手に入った。
その小さな出来事が、現在の社会を作ったわけだ。まさに時代の転機だな。
世の中、何がきっかけでどう変わるかは分からないものだ。
なんて気楽に構えてもいられない。そんな歴史の話を、すぐさま再現しろというのだ。
出来る限り早いところ何とかしないと、あのババアに首と胴をさよならさせられてしまう。
しかも――、
「出てきたらどうだ?」
「おおっと、これはこれは、噂に違わぬご慧眼、尊敬に値する」
暗がりから墨のように現れる影。
いる事は分かっていたが、何も無ければこちらも無視するつもりではあった。
ただ一瞬だが殺気を感じてしまった。こうなると無視は出来ない。
少し若く、芝居がかったしゃべり方。どことなく親近感を感じるね。
見た所、身長は俺とそうは変わらないだろう。
ただ鍛え方が俺とは段違いに強い。レベルも相当に上――おそらく157か。それに何よりスキルも相当なものだという事がひりひりと伝わって来る。
単なる養殖ではない。実戦を積みまくった本当の英雄クラス。普通の人間では万に一つの勝ち目も無い事くらい、町の酔っぱらいでも分かる。
見た所、俺たちが村から出た時と同じような防寒コートにブーツ。腰に下げた武器は、シミターを両手持ちにしたような巨大な曲刀。
それ以外はこれといった特徴は無い。
あえて言うのなら、余裕ぶった不快な顔立ちだ。歳は20代後半といったところか。
ここまでならそういう敵だとしか認識しない。味方であることはもちろん、中立ももはやない。
普段であれば、戦いに100パーセントの神経を集中するところだ。
しかし今回はそれだけでは済まなそうだ。
「おやおや、こんな所に王室特務隊ですかい。また随分と手広く活動していますねえ」
「ご名答だ。しかし鋭いね。いきなりそのような結論は出ないと思っていたが、なぜ普通の刺客や人型の魔物とは考えなかったのかな?」
お前の様な”普通”は普通いないんだよ。
ただ人間である事は気配で分かっていたし、確率としては半々より上といったところだと思っていたよ。
こんな所でこんなレベルに出くわして、しかも敵意を隠そうともしない。
しかもこちらを見ても当然という顔をしているときたものだ。偶発的な遭遇ではないよな、これは。
だから当たってもさほど驚きはしないわけだよ。
まあ、仕掛けるならこの迷宮だと思ってはいたしな。
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