第42話 姫様の武器か

 翌日からは、ロストベン王国行きの坑道攻略。

 本来は人間同士の国同士が行き来するために作られたのだが、あちこち壊されている上に魔改造されている。しかもそうした魔物たちを討伐しながらなのだから、これはもうダンジョン攻略だ。


「うぜえ」


「ふふ、珍しいですね」


「文句を言わないで働いてください」


「いやちゃんとやっているだろ。しかしマジでうぜえ。逃げてくれないもんかね」


 今は階段を下りたところで、マンティコアの群れに遭遇した所だ。数は10って所だな。

 獅子の体に蝙蝠の翼、それに猛毒のあるサソリの尾。体毛は赤く、強くなるほどに鮮やかになる。

 知能も高く、魔法を使ってくる奴もいるから普通は侮れない。

 ベテラン冒険者のパーティでも単体相手に苦戦するし、群れとなれば全滅してもおかしくはない。


 ただなー、こいつら一番高い奴でもレベル27くらいなんだよな。

 魔法も使いこなすマンティコアロードになれば30も超えるが、正直いらねえ。

 というか、大切なのは総合力と致命的な弱点なんだよ。

 物凄く賢い人間でもレベル1は所詮レベル1の経験値であるように、知能や高度な魔法が付いてもレベル30は結局レベル30の経験値でしかないわけだ。

 実際には魔法を含めた特殊能力には経験値にボーナスが加わるが、こいつは付加価値に見合わない。


 逆だよ逆。出来る限りレベルは高く、増えやすく、ボーナスになる様な強力な特性はあるけど対処法さえ確立すれば始末は簡単。そして愚か。

 ついでに言えば、プリズムポイズンワームのように特殊なユニークボーナスがあるのが望ましい。


 なんて憂鬱な気分で戦っている内に、俺とフェンケであっさりと壊滅させていた。

 唯一の利点は食える点だな。

 毛皮もこちらの方が上質だが、ここじゃ乾かせないからパス。

 それにマンティコアの皮膚を貫くほどの大ダニがマジでうざい。

 ここは表皮をあぶってから肉だけ貰っていこう。


 戦闘中、姫様は見物。

 今はマンティコアの解体準備に興味津々という所だ。

 こちらは火から逃げて来た親指大のダニを潰しているわけだが、それが面白いらしい。


「姫様は戦わないのか?」


 本当はこういう事は言いたくないが、ここからの事を考えると、一応覚悟だけは聞いておいた方が良さそうな気はする。


 姫様のレベルは207。彼女が戦えば大抵の魔物は対処できる。

 というか、今後はより強大で、狡猾で、多彩な魔法や戦術を使う連中が出てくるだろう。

 特に人型の魔物は厄介だ。俺も会った事はないが、話くらいは聞いている。それ以前に、俺は相手が人型であっても躊躇は無い。そもそも人間にも躊躇は無いし。

 ただ姫様はどうだろうか?

 覚悟自体を聞いたって、現実はその時にならないと分からない。ただ今はそれ以前の問題だな。根本的に戦っていないし。


「うーん、あたしも力になりたいとは思っているのですが」


 そういうと、マンティコアの死骸から尻尾をブチッと引き千切る。トカゲのしっぽじゃないんだぞ。

 そして壁に叩きつけると、まるで空気が弾ける様な音がして飛沫の様に飛び散った。


「村に使える武器があれば良かったのですが」


「これは仕方ないか」


 レベルが高すぎる弊害か。彼女が使えるだけの強度のある武器でなければ、逆に意味がなくなってしまう。

 俺はこんな細いナイフでマンティコアを倒せるが、それは十分なスキルがあっての話。

 姫様が使えば、肉に食い込んだとたんに刃は折れてしまうだろう。

 彼女が使うなら、相当な業物。出来れば聖剣なり魔剣なりに匹敵する得物が欲しいところだな。

 どうせなら、あのババアの魔剣に匹敵する得物くらいは用意しておいてほしかったわ。


 当初は素直にレベルパワーで殴り倒す予定だった……のだが、最初が最初だったからな。

 どうもちょっとしたトラウマになっているのか、いざとなると素手で戦う事を躊躇してしまう。

 予定としては良かったが、やはり所詮は予定だ。数値だけなら大災害クラス。戦えれば十分に強いのだけどね。

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