第41話 伝説級のモンスターとかは無理だよ

 そろそろ坑道が見えてくる。崩れていなければだが。


「ここで少し休憩だ。ブーツを修理して坑道に入るとしよう」


「あ、そうですね。あまり気にしていませんでした」


 そりゃ姫様はそうだろう。


「確かかなり傷付いていますが……修理なんて出来るのですか?」


「むしろお前は出来ないのか? メイドなのに」


「金属板入りのブーツなんて、どうやって修理するんですか。ちょっとした繕い物とは違います」


 そりゃそうか。まあ俺だって、ここで鍛冶をする気はない。

 道具も無ければスキルも無いしな。


「取り敢えずここまでに仕留めた魔物の皮があるからな。こいつで応急措置をしておこう。何枚か予備の鉄板も持って来てある。交換は無理でも、重ねる分には何とかなるだろう」


「なめしていない皮ですが」


「使えりゃ何でもいいよ。それに家畜の革よりこっちの方が丈夫だ」


「確かにそうですね。レベル屋さんを開いたら、そういった物も手に入るのですね」


「姫様のご期待に応えられるかは分からんよ。なにせごく普通の新米をレベル60まで引き上げる奴だ。出来ればレベルは160。それも簡単に倒せる奴でなければ困るがそれはそれで経験値が足りないか」


「160ですか……考えてみればそんなモンスターを捕まえて飼育するんですよね」


「まあ飼育という表現は少し違うけどな、大体似たようなものだ。そんなのを何体も管理しなきゃならん」


「もはや複数の国家が一丸となって当たらないと倒せない相手ですね。神話級のドラゴン、ベヒモス、伝説にある世界を半壊させたハイデーモンロード……大災害クラスばかりですね。飼育に失敗したらあの村どころか世界の一角が崩れますよ。あ、でも姫様なら或いは……」


「いや、まだまだだな。そもそもなんだが、そんなのを初心者に簡単に倒させるとかさすがに無理だろ」


 というか、遭遇したら俺が死ぬ。


「ああ、そうだ。姫様に頼みがあったんだ」


「セネニアで良いですよ」


「それは止めておこう。それよりも、ここから先のことなんだが……」





 ■  ■  ■





 傷だらけになって使い物にならなくなったブーツを修理して、ようやく坑道に入ったのはもう夕暮れ時だった。

 時間的にはまだ少し早いが、ここまで暗くなるのは季節と山の関係だな。


「それにしても、本当にこのブーツは凄いですね。修理前より歩きやすいです」


「あたしもそう思った。靴職人のスキルも持っているの?」


「いや、無いな。応急処置って万能のスキルをかなり低ランクで持っている。その程度だよ」


「それでこんなに?」


「素材の良さだな。この辺りの魔物はこの環境に適応している。転んだだけで死んでいたら話にならんという事さ。そんな訳でほれ」


 二人に剝いだ生皮を渡す。というか放り投げる。


「うええ」


「ちょっと臭いですね」


「剝ぎ取ったばかりだからな。まあ文句は言うな。俺の想定より寒かったから使うといいい」


「クリフベアーの毛皮ですよね。この辺りで一番強いのでしたっけ?」


「ええと、ここまでに倒したのは3つ目山ヤギと」


「あれは美味しかったですねー」


「クリフベアー」


「あれは臭みが強かったです」


「それにスパイクマジロ」


「食べるどころではなかったですね」


「フェンケは少し食べる事から離れなさい」


「は、はい……」


 解体は俺がやっていたが、基本的に料理当番はフェンケだからな。ああいった感想になるのは仕方ない。

 ちなみにスパイクマジロってのは全身に棘の生えた2メートルくらいのアルマジロだ。

 外敵を見つけると転がって逃げるが、真上にいやがると最悪だ。生けるトラップという感じだな。


「後はメガインコ、ギガインコにテラインコ」


 この辺りの鳥類は大抵そいつらだ。

 崖を根城にするクリフベアーと生態系の頂点を競っている。


「ギガインコはちょっと味に癖が……いえ、何でもありません」


「まあインコ連中は坑道には来ないだろうが、いきなり奥に入るのも危険だ。今日はここで野営しよう」


「ですね」


「それでは食事の支度をしましょう。久々に平らな地面です。ここなら存分に腕を振るえますよ」


「任せた」


 今夜は入り口で野営だが、明日からはいよいよ坑道を通ってロストベン王国に入る。

 ただ正直に言えば入りたくはない。

 そりゃいきなり坑道を抜けたら王宮ですよなんて訳ではないが、それでも魔物はもちろん、人間とも出会うかもしれない。

 さてはて、友好的であればいいがね。


 ただここまでで出会った魔物の内、最高レベルはクリフベアーのレベル12か13って辺りだった。

 やはり奥に行かなければ何も得られないという事か。


「考え事ですか?」


「姫様か、まあね」


「実際どうするのです?」


「ああ、さっきの話か。さすがに伝説級の魔物を捕まえたって意味はないというか、そもそも姫様も俺がいたレベル屋でレベル上げをした口だろ」


「あ、なるほど。確かにそうですね」


「何のことです?」


 お前もレベル屋を利用した口だろうが。


「要は60まで上げられるだけの魔物がいればいいんだ。1回で倒せば1体である必要はない。10体でも20体でも同じ事だ。ただそれにしたって大変だけどな。ただ増えすぎるとタイミングがずれるから適度な数に抑えなきゃいけないが」


「私はプロではないのでお任せするしかありません。今更ですが、巻き込んでしまって申し訳なく思います」


「らしくないな。そういった事は気にしなくて良いんだ。それに、巻き込まれたんじゃなくて俺が首を突っ込んだよ。ただそれだけだ。まあ、出された課題は論外だがね」


「微力ながら、お手伝いいたします」


「レベル207の協力は心強いよ」


「お二人とも、食事が出来ましたよ」


「では頂くとしよう」

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