第34話 出発は明日の朝すぐにだな
俺が受けた指示は、ここにレベル屋を作れというものだ。
当たり前だかそんな簡単に作れるものじゃない。
一番大切なのは
単純に強敵と戦わせるのであればレベル屋の意味がない。闘技場でも用意すればいいだけだ。
しかしそんなモノを生け捕りにするだけでも大変だし、こちらに経験値が入らないように倒させるのはなお大変だ。とても現実的ではない。
必要な条件自体は簡単ではある。
経験値が大量に手に入る強敵。
レベルは高いほどいいが、当然それだけ強くなる。欲しいのは基礎レベルがある程度高いが明確な弱点がある。更に超強力かつ対処可能な特殊能力による経験値ボーナスが高い奴だな。
そんな魔物を管理する体制。
魔物の性質上、繁殖とかは考えなくていい。ただ大型だと管理しきれないし、やはり同時に複数倒さなないと効率が悪い。サイズは小さいほどいいな。
最後はそれを簡単に倒す手段。
少しでもこちらの協力が必要ならだめだ。毒でも圧死でも水没でも、とにかくボタン1つで始末できないと困る。
……羅列するだけでも頭が痛くなるな。
「やっぱり分かっていますよね。そうです、明日出発します。とにかく1匹捕まえないとレベル屋になりませんし。具体的には最低でも60レベルまで引き上げられる奴ですね。それ以上低いのでは、自分がここに呼ばれた意味がありません。わざわざ爵位まで与えてね」
「どうしてです?」
「数字はあくまで目安ではあると考えてください。自分が所属していたところが別格だっただけで、普通のレベル屋なら最高級店でも50が限界。一般人が利用するのは30まででしょう。だがここに姫様がいて、指定されたのは辺境。それも魔物の世界との最前線。交通の便が悪すぎて、魔物の群れでも来ようものなら早期の援軍は見込めないでしょう。当然、この小さな村でいつ来るかもわからない援軍を待つだけの力が必要となります。普通の店レベルでは期待には応えられなのは明白。そこから出した、自分なりの答えですね」
「確かにそうですね。レベル屋の事は専門外ですが、何となく理解しました。つまり限界を目指すという事ですね」
力強く拳を握るが……違う! だがまあ良いか。ある意味似たようなものだ。覚悟無しで行けるような場所ではない。
フェンケは頭にクエスチョンマークを浮かべているが、姫様はどうして明日の朝なのかを理解している様子か。
ここにはいつ刺客が送られてきてもおかしくない。
さほど遠くない日に、セネニア姫がここにいる事は白日に晒されるだろう。
しかし、そんな事は些細な事だ。ただ単に、潰される虫が湧くかもしれないというだけの話でしかない。
何せ今は王室特務隊が動いている。こいつらは、もう村に入った時点で知っているわけだよ。今後の方針を指示して爵位まで押し付けやがったからな。
しかし、だから安全かといえば全く別。
特に一枚岩じゃない所が問題だ。
ここまでの流れで、姫様襲撃が王命ではない事は明白だ。そうだったらなら王室特務隊の全員が動く。
はい終了。俺の人生は22年で終局を迎え、こんな暢気な状態にはなっていない。
しかし第1王子なら? 第2王子なら?
まあ誰が犯人かは分からないが、それぞれに配属された王室特務隊を送ってくる可能性がある。
一方で、それを防ぐ為に王から派遣された王室特務隊も何人かいるだろう。
一枚岩ではないというのはそういう事だ。
だがそんなにストレートに動くかといえばそれも分からん。
ここは辺境。幾らでも偽装できる。
国王直属の王室特務隊が、特定の王子や王女に肩入れする可能性は捨てられない。
じゃあ何かできるかといわれれば――無理。どうにもならない。
今は互いにバチバチと火花を散らしてくれる事に期待だ。
自分の命と引き換えにしてまで姫様を狙うのは割が合わないしね。
連中は狂信者でもなければ捨て駒でもない。一騎当千。王国が持つ影の切り札だ。
だからすぐには動かないが、いつかは動く。それまでに向こうが満足する結果を出して、基盤を固めなければならん。
今の状態は、王国内の権力闘争が危ういバランスで成り立っている結果だといえる。
そのバランスを変えなければいけないわけだ。
つまりは連中の要求に応え、忠実かつ有能な人間だと王自身に認めさせなければいけない。
そして明確な味方として常駐する王室特務隊を派遣させるのが最大の目標となる。
結局のところ、爵位だの領地だのは全部おまけだな。
それに、当然別口の札を何枚も抱えているだろう。王家とはそういう所だ。
しかし家族なんだから仲良く出来ないものかねえ……面倒ごとはこりごりだよ。
悪いが、殺し合いってのは嫌いでね。
「まあそういった魔物を捕まえないといけないのですが、いつまで掛かるかわかりません。あちらもいつまでも待ってはくれないでしょう。さすがに今夜とは言いませんが、明日の出発は妥当と考えます」
「それでは今夜の内に仕度ですね?」
「えー」
フェンケがいかにも嫌そうな声を上げるが、本音を言えば俺もそうだぞ。
もう少しくらいは文明を
「動くのは早ければ早い方が良い。単純に魔物を倒すだけでも大変なのに、条件が厳しい。何日かかるか分からんし、どんな強敵と出会うかも不明。そんな訳で、お前も来るの」
フェンケは物凄く嫌な顔をしているが、政治の問題を今更話す必要もあるまい。
単純に、こいつの危機感が足りないだけだ。
そもそも、俺と姫様の二人旅を王室特務隊が見逃すかよ。
でもどうかな?
「フェンケ、お前は留守番するか?」
「姫様を野獣と二人っきりにすることは出来ません! 姫様も、もう少しここで休みましょう」
「だーめ」
「決まりだな。なら今まで通りだ。3人で行こう」
フェンケはいかにも嫌な顔しているが、姫様は目をキラキラと輝かしている。
「ただ一つ、姫様にも確認しておきますが、以後の行動は全て自分の指示に従って頂きたい」
「それは今までと一緒ですね」
「それと、ある程度は自分の身は自分で守らなければなりません。少しきつい事を言いますが、最初に襲われていた時の様に震えているだけではいけません」
フェンケは文句を言いそうになったが、思いつかなかったのだろう。少し口をパクパクさせた後、シュンとなって大人しくなった。
逆に姫様はというと――、
「それに関しては大丈夫です。あの時は、初めて向けられた明確な敵意を恐れてしまいました。本当に何をしたらいいのか分からなかったのですよ。でも……」
「でも?」
「もう対処方法は分かりましたから」
パァと明るい笑顔を見せるが、あの時気絶したじゃないか。
でも信頼していた大司教の裏切り。それにここまでの旅で心の整理は付けたのだろう。
しかし対処方法か。確かにこれといった武器のスキルが無ければ、レベルを生かして物理で殴るのが最強だ。
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