第33話 この小さな屋敷からスタートか
旧村長宅。聞いた時には微妙な違和感があったが、行けばすぐに分かった。
村としてはそれなりに立派な屋敷。その入り口と屋根には王家の紋章が入った旗が飾られ、扉には俺の紋章が彫られている。
つまりは徴収したって事か。
明日は村長に挨拶にでも行くとしよう。
その様子次第で、この村の現状が大体分かるというものだ。
外門にいた門番から鍵を受け取ったが、扉は開いていた。
まあ炊煙が上がっていたから中に人がいたのは分かっていたけどね。
さっき食事と湯を希望した時に、準備が整っている事を確認していた。
つまりは、言わずとも出来ているって事だ。
案外、配慮の出来る男だったのかもしれん。
■ ■ ■
その頃レンガ作りの建物――名目上はルーベスノア村駐留軍最高司令部。実質的には現地司令官であるオハムの私宅では、当の本人が頭を抱えていた。
「お前なあ、相手は王女殿下様と、王家が直々に召し抱えたという子爵様だぞ。何で挨拶位しないんだ。妙な勘繰りをされたらどうする! この俺の立場を少しは考えろ!」
相手は先程、一切動かなかった緑のローブを着ていた女性だ。
体格で性別は分かるが、深く被ったローブで顔は分からない。
ただ身長は高くはない方だ。
オハムもギリギリ170センチに届かないほどだが、彼女は更に10数センチは低い。
「寝てました」
子供の様な声だが、同時にそうではないと分かる落ち着きを感じる。
「寝てたで済むか! 下手に機嫌を損ねてみろ。俺だけではなく家にまで迷惑がかかる。そうなったら処罰は個人の問題では済まないのだぞ」
どうせ寝ていなかった事など、あの男はとっくに気が付いていただろうに。
と言いたいが、余計な事はいわない。
「とは言いましても、挨拶なんてして良いんですか? あそこはあえてどっしりと構えていた方が護衛の魔法使いっぽくて雰囲気が出ると思いますよ。それとも、フードを外してこの姿を見せますか?」
「それは困る……」
「でしょう? それに命令書もなんか色々来ていて、どれが真実なのやらといいますか、どれに従ったらよいのやら。今は本人たちの様子を見るしかないのでは?」
「それに関しては決まっている。当面は王室特務隊の指示に従うしかあるまい」
「何故です?」
「こういう時はな、一番敵に回しちゃいけないのに従っときゃ良いんだよ」
「確かに一夜にして廃墟になりますね」
でも、それは無いだろうなー。
ここは滅多に人間が訪れない辺境だからこそ、魔物と距離を取って生活できる。
なのにここを廃墟にしたら、近隣の町は全部パニック。
そんな事はしないよねー……たとえ、魔物が入り込んでいたとしても。
■ ■ ■
「ふう、一服した」
「久しぶりにまともな食事でしたねー」
「私も、自分で作らないのは久々です。何年ぶりでしょうね」
「何だ? 王宮でも自分で作っていたのか?」
「これでも料理係り兼、毒見係ですし、他にも魔法や学問、一般教養や礼儀作法にその他もろもろ。一応、メイドではありますが家庭教師的な意味合いもあったのです」
なんかドヤァという声が聞こえてきそうだ。
まあその位は許しては良いだろう。
ここまで長かったし、お姫様はもちろんお貴族様にもきつかったろう。
それがやっと文明的な生活が出来たのだ。姫様の直属としてドヤってもいいや。
それにいざ入浴となった際には、平然と一緒に入ってきた姫様を止めた功績もある。
絶対の俺の首が飛ぶ所だったわ。危なかった。
因みにこの屋敷には3人のメイドがいるそうだ。
カイナ・エルブーケ・オッセン
ロッテ・ユニバス・アンブロンシア
ミニス・リンフェード・アイバンド
全員そのまま読んだら舌を噛みそうだが、3人共騎士の娘だ。
特に身分の自己紹介を受けていないが、フェンケより爵位が上の人間を集めはしまい。ここで上下関係だのの問題を起こしても仕方ないしな。
だがミドルネームはある。庶民ではない。
だがフェンケは男爵家。しかしそれより下位の貴族はいない。しかもアイツはその中でもかなり下。
となればその下かつ庶民ではないとすれば準男爵か騎士くらいだが、この国に準男爵の位は無い。
まあ簡単に分かる事だ。
「それではお下げいたします」
「ご苦労」
俺の態度に姫様はニヤニヤし、フェンケは驚いた感じでいる。少し顔が赤いのは疲れのせいか。
食べ終わった皿を片付けているのは最初に言ったカイナ・エルブーケ・オッセン。
茶色のウエーブのかかった長髪に少し丸顔。
年齢は18歳で、身長は165センチくらいかな。
歳相応かそれ以上に、柔らかでふくよかな体つきだ。傍から見れば相当に魅力的だろう。
これでまだ結婚していないのだから、本人か家に何か問題があるのだろうか。
それにしても一般的なメイド服だが、スカートが妙に短い。
俺の趣味だと思われたら何を言われるか分かったものではないな。
3人共に特別分担作業をしているわけではなく、それぞれが全ての仕事をこなせるそうだ。
2人目のロッテは給仕の際にちらりと見たが、この国には珍しい水色の長い髪の娘だった。
身長はカイナと同じくらいだが、かなり細いかったな。
それよりも、足捌きや普段の仕草が“普通のメイド”とは思えない所が少し気になった。
因みに最後のミニスは食料その他を買うために護衛を連れて町へ買い出しに行っているそうだ。
会うのは数日先になりそうだな。
つまりは当分会わないわけだ。下手すりゃ永久にだな。
入浴も食事も終わって後は寝るだけだ……ではあるが、
「それで、これからどうします?」
もちろん夜の事ではない。命は大事だ。
明日からの事だぞ。
「私はこれからも姫様第1のメイドとしてお傍にお仕えします」
やはりこう来たか。自分が一番と強調するところが彼女のプライドといったところか。
「あたしは付いていきますよ」
姫様は当然の様に、状況をきっちり察しているし様子だな。
のほほんとしているけど鋭いししっかりしている。
いや、平然と一緒の風呂に入ってこようとしたのだからどっか抜けているか。
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