【 初めての領地 】

第31話 案外すんなりと到着したな

 翌日には雨も上がり、俺たちは朝食を食べながら昨日の話を姫様にした。


「やっぱり来ましたか」


「予想済みか」


「このまま村に行っても収集は付きませんので、何か支度をして接触してくると思いました。ただそれでも子爵になったのは驚きましたよ」


「本当に名前だけだがな。領地は馬鹿みたいに小さなど田舎の村だとよ。しかも魔物の国との境目だ。到着までに消滅していてもおかしくないな」


「ふふ、それでは急ぎませとね」


「それはさっさと地獄へ行こうって事だぞ」


「それで、その荷物は何でございましょうか?」


 朝食を用意している時から感じていたが、フェンケは急に畏まったな。

 今までは嫌々やっていた感じだったが、今朝は姫様と同じように給仕している。


「お前は今まで通りに接してくれて良いのだが」


「男爵家の娘が子爵様に無礼な態度を取れば、アーヴィ男爵家の名に傷がつきますので」


 ここじゃ俺たちしかいないだろうが、まあ今の内から慣れていこうって所か。


「なら俺も、姫様に対する態度は変えないといけませんね」


「今から変える必要は無いでしょう? 上手くやれると信じていますよ」


 にっこり笑うが、これは暢気というより確信を感じるな。

 王室特務隊に目を付けられたわけだが、それが逆に姫様に信頼を与えた形になった訳だ。

 なにしろ、確かにあの連中は完璧だからな。


「それで話を戻しますが、そちらの荷物は?」


「昨日、王室特務隊の奴が置いて行った荷物ですよ。中身は分かりますが」


 大きな包みを開封すると、貴族の旅装が3着に大きなカバンが6つ。こちらの中身は正装だ。向こうで使えって事だろう。

 姫様のカバンの中身はしっかりとドレスだった。しかも王家の紋章付き。正体を隠すなとのお達しという訳だ。完全に此処までの予定をひっくり返されたな。

 あくまで前面に出るのは俺。姫様は客人という立場になるわけか。

 しかし良いのかね、姫様の位置がばれても。

 まあそれも踏まえての指示だろうし、ここは素直に従うしかあるまい。


 それと……これは結婚衣装か。サイズとしてはフェンケ用だな。

 それに指輪が2つ。

 こいつは見なかった事にしよう。


 後は肩の無い胸鎧ブレストプレートに剣が一本。いや俺は剣技のスキルは持っていないのだがな。

 まあ武器のスキルはそれぞれが0か100かみたいなわけではない。使い方が遠のけばそれだけスキルも減っていくが、短剣と長剣なら共通部分も多い。一応は使えるか。

 だがだったら短剣を使った方が良い。結局は飾りだな。

 鎧と剣には、赤い円の中にサソリを咥えた蛇の紋章が入っている。どうやらこれがルーベスノア子爵の紋章という訳か。マジで趣味が悪い。

 だが適当に作った訳でもあるまい。こういった物はおざなりに作るものではないからな。

 おそらく、実際に先祖が貴族だった頃に使っていた紋章だろう。

 取り敢えず恨んでおくか。


「早速身に着けてください」


 目をキラキラさせているし。本当に好奇心旺盛なお姫様だ。





 一応、正式な旅装に鎧と剣。ついでにあった外套を羽織ると、確かに貴族っぽい。

 姫様とフェンケの旅装もなかなか様になっている。

 というか、やはりこの外套が一番ありがたいな。

 この辺りはあまり雪が降らないとはいえ、騎乗での寒さはきつかったからな。

 かといって、普通に旅行中という設定でこんな高級品を買う訳にもいかなかった。さすがに何処に目があるか分からない状態だったし。

 ただその分、姫様たちはそれでかなりの体力を削られていただろう。ここまで病気にならなかったのはレベルのおかげだな。


「では出発しますか」


「ですね」


「畏まりました」


 ここからルーベスノア村までは予定だと8日。

 少しペースアップも出来たが、あえて今まで通りのペースで進んだ。

 早くきちんとした所で休ませたいという気持ちはあるし装備も良くはなった。だ今は無理をさせられないという気持ちが勝ったわけだ。





 ■   ■   ■





 そして予定通り8日目の夕方にはルーベスノア村に到着した。

 ただここが本当にそうか? というようなところだ。

 遠目から見えていたが、高さ10メートル近い石壁が村全体を覆っている。

 外に畑が見えない所を見ると、畑まで覆ったか。

 地図によると森に囲まれた小さな平地との事だったが、かなり広範囲に伐採されている。

 それだけに、石壁に囲まれた規模も大きい。これはもう要塞だろう。


 俺たちが近づくと、早速門番が素早く扉の前に移動する。

 ここからでは見えないが、上には弓兵もいるな。


「何者だ!」


「控えよ! 無礼であるぞ! 我はこの地を治める事となったクラム・サージェス・ルーベスノア子爵である。そしてこちらに控えしは、マーカシア・ラインブルゼン王国が第6王女、セネニア・ライラスト・クラックシェイム王女殿下であらせられる。この紋章を見ての態度であるのなら、王家を敵にする事と心得よ! 汝らは謀反を望むか!」


「こ、こ、これは失礼いたしました。お、お話は伺っております。さ、さあ此方へ。砦の指令の元へご案内いたします」


 本当に砦かよ。村って話は何処へ行った。

 しかしまあ、まだ正式には姫なのだがここは王女殿下の方が通りは良いだろう。

 どうせ一般人は、城での成人の儀式など気にはしないからな。

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