第30話 予定を完全にぶっ壊していきやがって

 ただ、確かに武器は持っていない。“出してしまう”か。こういった奴は大抵所見殺しと相場が決まっている。

 さすがに王室特務隊ともなると、嫌な奴しかいないな。


「聞いていた通り、なかなか変わっていて実に面白い。大司教すら顔色一つ変えずに仕留める人間が、意外な事を気にするものです。今更、異性の好みとかの話ではないでしょう?」


「こいつも一応は男爵の娘だ。ふさわしい相手と、正式な手続きで式を挙げさせたい。その位の権利はあるだろう。少々、身勝手じゃないのか?」


「そんな事を気にしますか。どちらにせよ、その娘に望んだ結婚などはありませんよ。貴方の言う様に、男爵家の娘なのですからね」


「それでもだ。知らない間に結婚させられていましたとは違うな」


「その辺りは本人次第だと思いますが……良いでしょう。こちらが気にする事では無いですし。ただ当然ながら」


「王族の娘に手を出す様な愚か者だと本気で思っているのなら、そもそもこの話は無かっただろう。余計な事は不要だ」


「分かっているのでしたら結構。こちらも実際、貴方とやり合うつもりはありませんよ。この距離では腕の一本も持って行かれかねませんしね」


「計画の為に戦わないとかじゃないのかよ。というか、お前らなら腕なんぞ斬った所ですぐにくっつけるだろう。命との交換は割に合わないな」


「間違ってはいませんが、そこまで簡単にはつながりませんよ。それと計画はもちろん大切ですが、その為にも力は測っておきたかったのですよ」


「それで?」


「及第点をはるかに超える。こちら的には合格ですよ。もっとも、そうでなければ貴族になどしてはいません。全ては計画通りという訳です。それでは、後の事はお任せします。ただそれにしても、貴方のスキルに関しては少し確認しておかないといけませんね。あの人が気付かなかったとは思えませんので」


 ……消えたか。

 周囲の気配が戻っている。用事は済んだという事で良いだろう。

 最終確認か独断先行かは分からないが、必要とあれば一戦交えていたのは確かか。物騒な連中だ。

 というか、今後の姫様をどうするかについての件は聞けもしなかったな。

 だが分かるには分かる。

 王家の姫が辺境の村で指揮を執る。誰が見ても異常だ。様々な噂が飛び交うだろう。

 今まではそれしかなかったから計画に入れていたが……はあ、いきなりお貴族様かよ。

 まさかこちらを矢面に立てるとは思ってもいなかった。


「私は……良かったのですよ」


「起きていたのか」


「気配感知はメイドの嗜みです。もちろんルーベスノア卿ほどではございませんが、あそこまで強く阻害されると気が付くものですよ」


 気配感知スキルが無い人間にとっては隣で踊っていても気が付かないだろうが、逆にある人間にとってはとてつもない異常事態って事だよな。

 まあ当然だし理解もするが、こいつが持っていた事に少々驚いた。


「違いない。しかしそうか、俺に惚れていたか?」


「そこに生えているキノコは猛毒ですので、一度食して頭を冷やしてみてはいかがでしょう」


 普通の人間なら頭だけでなく体まで冷たくなるぞ。

 こいつは俺が毒無効を持っているのは知らないはずだから、マジで言いやがったな。


「しかしまあ、もう少しじっくり考えろ。今決めたって仕方ない」


「そうかもしれませんけどね……どうせ相手や式だのなんて、関係ないんですよ。いつの間にか知らない相手との縁談が決まっていて、興味のない儀式をして、薄っぺらく祝福される。それが貴族の結婚です。相手も同じ事を考えていますよ」


 いや、よほど人と離れた趣向でない限り、その心配は無用だ。

 こいつはもう少し、自分の美貌と体がどれだけ男を惹きつけるか知った方が良いな。

 性格に関しても――まあ悪くはない。

 文句が出るとしたら家柄くらいだろうが、それは相手次第だろうな。

 何せ他の男爵家と比べたら、異様なほどに広大な領地を有している。

 ただ辺鄙だし、立場的には王室直轄の代官みたいなものだ。そこをどうとるかだな。


「それに場合によっては結婚どころか妾が精々かもしれません。長女とかではありませんので」


「それは辛いな」


「男爵家の4女なんてそんなものです。そう考えたら、別にフェンケ・オーフェルス・サージェス・ルーベスノアになっても構わないんです」


 そういった彼女からは、微弱な感情の動きしか感じらせなかった。

 本当に興味など無いのだろう。むしろここで決着がついた方が楽とまで考えていそうだ。

 もう少し自分を大切にして欲しいとも思うが、それは本来俺がやるべき事じゃないだろう……と誤魔化しても仕方ない。これは多分俺が決めるべき仕事だ。


「お前はこのまま姫様のメイドで良いだろう。幸いというにはおかしな状況だが、こんな時にお前に縁談話が出る事はないさ。まだまだ今のままで良いだろう。まあ来たとしたらら間違いなく謀略だ。手放す気はないし、むしろ敵が分かって良いとまで言えるよ」


「……優しいんですね」


「同族ってだけさ。今は俺も、これからどうなるかが何も見えない状態だからな」

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