第28話 ある日の王室特務隊

 マーカシア・ラインブルゼン王国、王都カブラムにあるセヴィオ・ドルケン城。

 いわゆる王国の王都にある王城は”きわめて華麗で美しい”と形容されるほど見事な装飾が施された城だ。

 ただその分、防衛という面ではいささか心もとない。

 城はもちろんだが都市としても小さく、しかも町並みは美しく整理されている。

 とてもではないが、攻撃に耐えられる造りにはなっていない。


 それでも守り切れたのは、2代目国王”不敗王”インゼナッセ・バーリント・クラックシェイムの手腕によるものといわれる。

 初代国王は政治力でこの街を王国として独立させたが、それを守り切り盤石となしたのは”不敗王”インゼナッセの持つユニークスキルによる点が大きかったという。

 彼はその力により生涯負けを知らず、”不敗王”の異名を得るに至った。

 3代目国王、”英雄賢王”イグリナス・ストマルト・クラックシェイムが急速に版図を拡大できたのも、レベル屋だけでなく2代目国王”不敗王”インゼナッセの下積みがあったからだとも言われている。


 さてそれはともかく、その美しい城は内部もまた美しい装飾で満ちている。

 過去一度も敵兵の侵入を許さなかった事もそうだが、最初から戦いではなく政治の場を目的として作られたからだ。

 その廊下の一角。太陽の光に照らされた、美しい彫刻が施された柱が並ぶ外廊下を1人の女性が歩いていた。


 優雅に、力強く、その立ち振る舞いから常人でない事は一目瞭然だ。

 むしろ戦場でそれに気が付かない愚か者は、明日を見ることは出来ないだろう。

 もっとも、気が付いたところで同じかもしれないが。

 顔を隠した純白の鎧に純白のマント。所々に入るオレンジのラインに顔の付いた盾に翼の紋章。 王室特務隊の制服だ。

 そしてその前から現れた一団を見ると、少し愉快そうに目を細めた。


「久しいな。お互いあまり会わぬ身だが、壮健のようで何よりだな」


“絶懐不滅”ケニー・タヴォルド・アセッシェン。

 その彼女が発した言葉に偽りはない。

 実際、王室特務隊は所属する王、王妃、王子や姫の警護こそが任務であるが、任務の特性上、表立っての警護活動は行わない。

 むしろ、それぞれの思惑にそって動き回るのが仕事といって差し支えはない。


 実際、王城全般の警備はナンバー1、ナンバー5のペアだけで行っている。

 だが手薄とは縁遠い状態だ。なにせ、仮に他の隊員全員が反旗を翻したとしても、1日の内に殲滅されるのであろうから。


「お久しぶりですのう、お姉さま殿。


「今日もお変わりなく美しく、羨ましい限りですわなあ、ウヒヒ」


 最初に前に出て話しかけたのは、どう見ても少女のような外見の2人。

 衣装こそ制服だが、どちらも身長は140センチを切っているだろう。

 ただ双子ではない事は、声とわずかに見える顔から想像がつく。

 それ以前に、2人が漂わせる雰囲気は異常だ。しかも正反対と言っていい。

 いわば光と影。聖と邪。しかし共通しているのは、2人共その口元は身長からは想像できないほどに自信にあふれているという事だろう。


「お前達に言われると複雑だよ、クエント 、エナ。しかし――もう発つようだな」


「やはりお分かりになるかのう」


「クヒヒヒヒ。まあ、うちの王子様があれだけ派手に動いていますからねえ」


「色々と思惑はあろうが、セネニア姫の事は頼んだぞ」


「それはお任せくださいませや」


「まあ、こちらは命令に従うだけですから、色々な意味で心配はご無用かと。フヒヒシシシシ」


「そうだな」


 そう言いながら他の4名に目を向けると――、


「お前達はお前達で任務があろう、壮健でな」


「ケニー殿こそ、今の状況は気苦労が絶えますまい。御心中、お察しいたします」


 そう返礼したのは、3番目に控えていた男。

 顎から伸びた白い髭と、首元の皴。見える姿からは老齢とも呼べそうだ。


「クローベットか。なに、久しぶりに楽しんでいるよ。なにせ……我らの入れ替わりなど、久しくなかった事だからな」


 その鋭い眼光は先ほどまでとは違う。見るものを凍り付かせる凶悪な怪物のそれといっていい。

 だが同時に、狂気にも似た楽しさもにじませていた。


「……お戯れを」


「さてどうだろうな。だが楽しみなのは事実だよ。久しぶりに面白い奴にも出会えたしな」


 颯爽と去って行くケニーを見ながら、6人は等しく頭を垂れた。

 それぞれの思惑を胸に秘め。

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