第27話 案外人との旅も悪くないかもな

 さすがに王都からルーベスノア村までの道のりは遠い。

 途中で何度か町に立ち寄って旅の必需品を買い込んだりもするが、基本的には村から村への長距離移動だ。


 移動手段は最初から変えずに騎乗のみ。馬車は使わない。

 二人の事を考えれば馬車にした方が良いし、町でなら比較的容易に買える。

 ……が、速度と機動性を考えたら使えない。


 最大の問題は、村から村へと移動する関係で街道の整備がされていない事だ。

 ましてや辺境へ行けば行くほどそもそもの道路がいい加減になってくる。

 道すら無い事すらあるのだからどうにもならない。

 そんな所を走って車軸が壊れたら、結局全部無駄になるわけだ。

 だから荷物は馬で運べる最小限。道中は辛いし尻も痛くなる。

 何より本格的にやってきた冬の寒さがきつい。


 雨の日は町に行きたかったが、そうタイミング良くはいかない。

 そんな時は、3人寄り添って防水用の布を被って凌ぐ。

 あの日も、そんな雨の日だった。

 本降りになり、防水シートに痛いほどの雨粒が降り注ぐ。内側に響く音がうるさくてしょうがない。

 一応木陰に移動はしたが、流れてくる土交じりの水がくるぶしまでを埋めていく。


 ――これはまずいな。


 凍ってもおかしくないような水だ。幾らレベルがあるとはいえ、まだまだ2人はそれを自分の物にしていない。

 足に影響が出るのは致命的だ。


「雪にならないだけマシと思いましたが、これはきついですね。二人とも、俺の膝の上に乗って下さい」


「よろしいのですか?」


「構いませんよ」


 始めて2人に出会ってから、ここまでおよそ20日。

 姫様はなんだかんだで面白がっているせいもあるが、なんか余裕が出てきた。

 それに引き換え――、


「では遠慮なく。よいしょっと」


 フェンケの方はなんかもうすっかり慣れたという感じだ。別の意味で。


 確認すら取らず、無遠慮に膝の上にまたがって来る。

 というか、自分がそうしろとは言ったが、椅子のような感じに座ると思っていた。

 しかし二人とも馬にまたがるように乗ったので少し驚きだ。まあ足を後ろに畳む方が確かに濡れなくて済むが、なんかもろに来る女性の感触がたまらない。

 耐えろよ、俺。


「大丈夫ですか?」


「ええ、問題ありませんよ」


「ふーん、どうせスケベな事でも考えているんじゃないの?」


 フェンケの方はその大きなものをグイッと押し付けてくる。

 本当に遠慮が無くなったなコイツ。


「おまえなあ、俺が欲望に負けたら手を出して良い事になっている件、忘れているんじゃないだろうな?」


「手を出さないと約束しましたよね?」


 そう言いながら指でつつーっと胸をなぞる。

 こいつ、完全にストレス解消に俺を使っているな。

 いや、そんな単純でもないか。不安の裏返しだな。本気とは思えないし。

 確かにこの道中、決して楽な移動ではなかった。貴族のお嬢様には酷だったかもしれん。

 姫様はまあ……まだ楽しむ余裕があるようだが。


「別にそんな約束、反故ほごにしていいのですよ? あたしが許可したんですから」


「ひ、ひ、ひ、姫様!?」


 あ、急に動揺した。やはり安全を確信してからかっていただけだったな。主人の許可が出たら話が変わるって訳だ。

 というか、姫様もあまり本気で言っていないな。

 こちらもこちらでフェンケをからかった――というか、たしなめただけか。

 でもまあ、こうして談笑しながら冷えた体を温め合うのも悪くはない。

 というか、本当に女の子って柔らかったんだな。

 俺が知る感触は、刺したり斬ったりするだけだったからこれは新鮮だ。

 なんて改めて考えると、俺は随分と人の道から外れているのだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る