第26話 高貴な身分にはきつい旅だが
状況が分かれば色々と目星はつく。
「姫様にお尋ねしたいのですが」
「あら、なんです?」
「成人の儀式が終わったら、そのまま誰か結婚って話はございましたか?」
「何を言っているのですか! この方を誰だと思っているのです! セネニア姫様ですよ! この方にその様な浮いた話など持ち上がるわけが無いでしょう!」
ニッコリ笑顔で再びのバックドロップ。
あーあ、この駄メイド泡吹いてるよ。
しかし相変わらず体幹良いな。見た目以上に運動神経は高いようだ。
つかレベル200オーバーだ。スキルはともかく体幹など今更だな。
「そういった話はありませんでした。それに婚姻となれば王位継承権を返上しての事となりますので、儀式をしてすぐにという事は儀礼上ありません」
あれをした後でも、真顔でこういう話が出来るのはさすがだ。
しかしまあ即婚姻など、確かに折角極秘でやった儀式が茶番劇になり果てるか。
大々的にやる普通の成人の儀式だけやって、普通に嫁に出せばいい話だしな。
そう考えれば1年後や2年後を見越しての婚約者が内定していた可能性も消えるか。
いや、むしろそれがあったからあの場で動いた可能性は捨てきれんか?
何があるかが分からないからこその子沢山。それ故に保険として必須の儀式。そこに王室を去るまでの時間制限が加わったら? 俺なら動くね。
婚姻までの期間と王室関係者それぞれのスケジュール。それが分かれば今回の事件に決着も付けられそうだが……ダメだな。あの女の指示が今の最優先だ。
『自分が黒幕でーす』とか言いながら出て来てくれない限りこちらからは行けない。
それ以前に、これは王室内で片を付ける問題ではある。
王室特務隊が決着をつけていない以上、俺が動いたところで返り討ちになるのがオチだな。
「考えていても仕方ありません。さて、行きましょうか」
「良いのですか?」
「王族というのはこういうものです。陰謀から逃れる事は出来ません。さあ、行きましょう。あ、それとフェンケ、起きなさい」
「ふぁ、ふぁい……」
ふらふらと立ち上がるメイド。
うん、思ったよりも根性ある。また少し見直した。
「おそらく連絡が来ていると思いますが、クラム様のお相手はお願いしますね。あたしは一応、まだ守らないといけませんので」
パタ。
あ、ついに切れた。
「ちょっとからかいすぎですよ。どうせ俺が欲望に負けて襲っても、姫様のレベルならどうとでもなるでしょうに。あ、自分は意識が無い女性を相手にする趣味はないですので」
「どうでしょうね。でも信用はしています」
妖しく微笑むが、色気はまだまだだな。
「じゃあ行きましょうか。ほら、メイド起きろ」
「ふぁ、ふぁあい……」
あ、再び立ち上がった。
これでも男爵のお嬢様なのが驚きだ。
その根性に祝福だ。
「そろそろメイドではなくフェンケと呼んであげてください。わたしもこれからは……そうですねえ、名前はどうしましょう。これからは、人前で姫様と呼ぶのはご法度ですよ。あたしが主人であるかのような振る舞いもやめた方が良いですね。今後はクラム様が、あたし達の主人がごとく振る舞ってください。人前で敬語もいけませんよ」
まあ俺はともかく、女性2人って特徴は知られている。
どっちが主人と振る舞っても、高貴さは消しきれない……いや、フェンケはどうか分からんが、こっちは演技が上手いとは言えない。
この辺りは姫様の光が強すぎて、たとえ人を増やしても同じか。しかもそれはそれで危険を増やす事にもなる。
なら2人は大人しくさせて、俺がメインで動いた方が良いな。
どうせ町や村で応対するのは俺だ。
「姫様のご選択でしたら、そう致しましょう。正直に言えば、自分も町や村ではそうした方が良いとは思っていました。ただ十中八九、今もこちらには見張りが付いていますよ。それも人外といえるような連中がね」
「何となく分かってはいますが、それでも彼らは動かないでしょうね。かなりの思惑が渦巻いているでしょうし。それより、彼らの手が及ばない集団に目を付けられる方が問題です。あたしは何とかなると判ってきましたが、フェンケは別です」
驚いたな。王室関係は俺より詳しいとはいえ、ここまで考えているとは思わなかった。
「姫様がそこまでお考えであればそう致しましょう。ただ偽名は慣れないとボロが出ます。これから町などでは名前は呼びません。お互いも相手の名前は呼ばないで下さい」
「出来るかしら?」
「案外出来ますよ。どうせ互いに離れる事も無いでしょうし、名前で呼び合う必要も無いでしょう」
「ではこれからはそれで。フェンケも分かりましたか?」
「ふぁ、ふぁあああぁい」
ダメだこれは。正気に戻ったら改めて説明しよう。
「ではこれからはその方針で。ですが最終確認です。本当にそれで良いのですね? 徹底する必要がありますから、一切姫様としては扱えませんよ」
「ええ。まだ死ぬわけにはいきませんから。必要でしたら、今からでも敬語の必要はありませんよ。“本来の”貴方で大丈夫です」
その言葉を発した時、正確にはその瞳を見た時、初めて彼女が王族の姫だという事を認識した。
どれ程の想いを抱えてここまで来たのだろう。
そんな事に気付かなかった。俺も甘いな。だから昨夜はあそこまでコテンパンにされたんだ。
もっと自分を研ぎ澄ませ。この姫様に負けないくらいにな。
「分かった。町や村ではこんな感じかな。だが、普段は今まで通り敬語は使いますよ」
「ふふ、お任せします」
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