第22話 ”絶壊不滅”のババアかよ

 反撃の為に何本か短剣はある。

 牽制を兼ねて投げるか?

 狙うなら腕、足、心臓……ダメだな。仮に当たっても弾かれるだけだ。なら喉か剥き出しの顔――こちらは特にガードが堅い。こりゃダメだね。

 いや参ったよ、本当に参った。さすがにここまで実力に差があるとどうにもならん。

 とにかく回避。ひたすら回避。どうにもならない攻撃だけは受け流すが、どう考えても反撃の機会すらない。


「フム、なるほどたいしたものだ。さすがはクラム・サージェスといった所かな?」


「あれま、こんな底辺の人間をご存じで?」


「堂々とサージェスの姓を名乗るところは誇りかね?」


「何か意味でもありましたかねえ? 親からもらった数少ないものですのでそれなりに愛着はありますが、誇るものでもないでしょう」


「なるほど、確かにその通りだ。人とはそういうものだったな。儚いものだ……」


 くそ、向こうの話に付き合ってみたものの、まるで隙が無い。

 だが相手の正体は十分に予想がついたよ。全員のリストがあったわけではないが、ある意味有名人だよ、こいつは。

 だからどうしたという感じだがね。俺が知るかぎり、こいつに勝てるのは世界に10人もいないだろうさ。


 いかなる武器を使っても、破壊出来ぬものはこの世に無し。生き物を倒せばその生命を奪い、どんな傷をも治し寿命さえ奪う。ユニークスキル“絶懐不滅”持ちの生ける伝説。

 いつから存在しているのかも定かではない。噂だが太古から生きているという。

 王室特務隊ナンバー4。ケニー・タヴォルド・アセッシェン。無限に破壊と自己再生を続ける永久機関。

 まさか出会うとは思わなかったが、こいつの命になるのはごめんだな。


 なんて考えながらも話しながらも戦闘は続く。

 これを戦闘と呼べるのならだがね。

 完全に防戦一方だ。


「クラム・サージェス。幼少期はスラム街でゴミ拾いと残飯漁りの日々を送るが、9歳でスカーラリア家に買われ暗部としての教育を受ける。いや、あれは実験だったな。人がその枠を超えられるかどうかの」


 とっくに超えている人間に言われてもねえ。


「日々の投薬に手術、鍛錬。更には同僚との殺し合い。書類を見た時は、正直おぞましいと思ったよ。どんな化け物を作る気だったのかとね」


 だからあんたほどのモノは出来ないって。


「まあお互い顔も知りませんので、同僚と呼ぶのもどうかと。というか、調べ過ぎじゃありませんか? 以前の事なんて、姫様どころかレベル屋の旦那も知りませんよ」


「ふふ、こうして半年後には立派な暗殺者になった。だが他を驚愕させたのは15の時。レベルは確か3だったな」


「よくご存じで。自分でも忘れていましたよ」


「しかしやったことは覚えているか」


「まあ、ある意味きっかけでしたので」


「君は当時政敵であったマジアイ家の勇士、ロベルス・カムハルゼを倒した。彼のレベルは26。当時はまだレベルとスキルが釣り合っていた時代。彼は達人とも目されたほどの腕前で、チームさえ組めばドラゴンすら倒せただろう。だがその彼を君は倒してしまった」


「けちの付き始めですねえ。ですがあれは、誰が見ても”偶然”でしたよ」


「スカーラリア家もまさかやってしまうとは思わなかったのだろう。所詮は失敗作の処分が目的だったのだから。しかし落としどころは決めなければならない。結局、政治的な決着の為に君は16歳の誕生日と同時にブラントン商会に奴隷として売却された。奴隷になれば、この世から名前も生きていた痕跡すら消える。ある意味良い決断だっただろう。自ら始末しなかったのは格の問題だ。スカーラリアが手を下せば、ブラントンの顔は立てられる。しかしそれは、ブラントンより下と見られてしまう行為でもあった」


「何処も権力闘争なんてくだらないものですがね。まあ結果としては、殺し合いをするよりマシな生活でしたよ」


「だが22歳になった所で、君は冤罪により追放された……と」


「しかし本当によく調べたもので」


「調べていたからこれだけ時間がかかったともいえる」


 俺が姫様と出会って、まだ2日だぞ、おい。


「私はこの経歴を見た時に、君がユニークスキル持ちだと確信した。そうでなければ説明がつかないのでね。そこで質問だ。私と君は、ここまで何合打ち合ったかな?」


「30合ですねえ。これ以上は勘弁してもらえませんか?」

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