第21話 いつかは出てくる可能性はあったが
女性の方は兜と装備でよく分からないが、おそらく銀に近い白髪。
美人だろうが、鼻から上は兜のせいで見えないな。
背は俺と同じくらい。いや、1センチか2センチ低い。175センチって所だろう。
男は逆に少し高い。目算で179センチ。
戦士の体はしているが、宮廷の舞踏会でも通じる手足の長さと抜群のスタイル。
こちらも鼻から上は兜のせいで顔は分からない。
しかし正体は分かる。
月に照らされた純白の鎧。各所に走るオレンジのライン。
兜で口元しか見えないが、向こうからは見えているらしい。その辺りは王宮にいれば子供でも知っている。
武器は女が長剣、男は長めの
どちらも盾はもっていないが、まあ両方とも両手用だしな。
そして特徴的なマント。
正面から見える裏側も、風で微かにみえる背中側も白。
ただ淵を走るオレンジのライン。そして此処からは見えないが、背中には確実に顔の付いた盾に翼の紋章が入っている。
”王室特務隊”。
総勢20人程の精鋭――いや、怪物。そして王国の剣であり盾。俺が知っていた頃は18人だったが、増える事はあっても減る事はないだろうな。
その武勇は並の将軍クラスなど足元にも及ばないと言われている。
更に各種のスキルの他、魔法も使いこなす戦闘のエキスパート。
それに何よりの特徴は、全員が何らかのユニークスキルを持っているという事だ。
この時点で、生涯関わりたくないね。
大規模な部隊を率いる事はないが、それは適材適所の結果。こいつらはそれぞれが少数で行動した方が強いからだ。それに動くときは必ずツーマンセル。
兎相手にも油断しない連中で、絶対に戦ってはいけない範疇に分類されている。
しかも今やレベル屋のせいで、かつての比ではないほどに脅威度が上がっているときたものだ。
「先ずはセネニア姫とアーヴィ嬢を守ってくれて感謝する。仕掛けられていた罠も見事だった。あれでは並大抵の人間では近づくことすら出来ないだろう」
「それはどうも」
罠なんてのは、見破られたら意味ないんだよ。
正直嫌味と同じだぞ、それ。
「それでそちらのご用件は? お礼だけでしたらお気持ちは十分頂きましたので、お帰りはあちらでございます」
「ふむ、実に面白い。これはセネニア姫が気に入るのも無理はないな。あの方は決して他人に心を許しはしないが、面白いものは好きだからな」
そのあたりはまあ分かるけどね。
しかしそうか。やはり姫様は、ある程度は自分が置かれている現状を察していた。ずっと前からな。
それとほぼ確定で、俺が少し違う事を見抜いているという事か。
「お褒め頂き光栄でございます。それで本題は何でしょう?」
「なに。大司教様を弑逆し、姫様を拉致した男の首とやらに興味があっただけだ」
いやいや、今までの話と展開が違いませんか?
それに鞘鳴りと共に引き抜いたそのバカでかくて太い片刃剣、なんだか黒いオーラが出ているんだけど。
というかそもそも黒いし。
普通はもっと、見た目に合わせて聖剣とかじゃないのか? それどう見ても魔剣の類だろうがよ!
「ではいくぞ!」
「わざわざ宣言して来る相手は久しぶりだよ」
とはいえダメだわ、これ。
中途半端に受けたら、こんな安物の短剣なんぞ真っ二つだ。
ただ避けきれるかといえばまあ無理だ。とにかくギリギリで受け流すが、受けた端から金属の短剣が削られていく。野菜の皮を剥いているんじゃないんだぞ。これでも金属なんだけどな。
一応は受けるための柄は付いていたが、2回の攻撃で綺麗に無くなった。
ちょっとでも失敗したら指が全部飛ぶな。まあ首が飛んで行くよりは良いが、順番が変わるだけだ。
最低限、同格の武器が無ければ逃げる事も無理かな。
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