第17話 すんなり誤魔化せてよかったよ
レベルに関しては教えておいても良いだろう。
むしろ俺が一番の低レベルという事で緊張感を与える事も出来るかもしれない。
「俺の見立てだと、今の状態だと姫様がレベル207。メイドが64間違っていませんね?」
「確かにその通りです。最後の方は全然上がらなくて苦労しました」
まあ一番苦労したのは俺だけどな。
「こちらも間違いありません。レベル屋で上げたっきりですので」
そりゃそうだろう。実戦に出るとか思ってもいないよ。
「そして自分は55です。一番下ですね。もちろん嘘では無いですよ」
「とても信じられません。そのレベルであの数を相手に勝てたのですか? しかも傷一つ負わずに?」
「あたしもちょっと驚きです。レベルの差がどれ程かは分かりませんが、それでも今までの相手が全員貴方より低かったとは思えません」
グイグイと押し込んでくる2人相手にちょっとたじろいでしまう。
「まあそうですね。ド田舎や未発達の国ならレベル30で超強者みたいに言われていますが、この国や先端技術を取り入れた国は50以上が当然。最初に馬車を襲っていた連中は首魁が70ちょい、部下が50から60って所でしたか。それで大司教が100を超えていて、部下は12人いましたが全員72ですね。あれは聖教お抱えの同じレベル屋で上げたのでしょう。均等なレベルって所が養殖感満載ですね」
「それでどうやって勝ったのですか?」
「レベル1の違いはかなり大きいと聞いています。それが20近くも離れた大勢を相手に戦えるなど考えられませんが」
当然だが簡単には誤魔化せない。人の興味は怖いねえ。
「まあ普通は無理ですね。ただスキルが違いますので」
「それは見ていてわかります。ただそれだけで勝てるわけが無いですよね? 特に聖教魔法の使い手たちは精鋭と呼ばれていました。魔法が使える時点でレベルだけって事は無いでしょう。スキルも相当だったと思います」
確かに相当な使い手たちだった。大司教が連れていた事を考えれば、聖教に所属する暗部の中でも最強部隊のはずだ。レベルは明らかに養殖だが、スキルは自力だったろう。まさに人生を費やした鍛錬の結果だ。
ただそれじゃ俺には勝てない。俺の
さてどう説明したらいいものかだが、嘘さえ言わなければ納得させられるだろう。
「彼らのスキルはどの位だったと思いますか?」
「そうですね……想像もつきませんが、武芸であれば兵士長で3、前線隊長で5といった所ですか。7くらいになると、もう達人と言える域ですね……うーん、難しいです」
「剣聖と呼ばれる様な方は10とも言われますが、そこが人類の到達点と聞いております。極々稀にそれを越える方もいますが、それは要するに人を超えるという事です。伝説に残る様な方々ですね。それにレベルよりもスキルは1の差がとても大きいですね。上げるのも大変です」
「確かに上げるのは大変ですよ。こればっかりは地道な鍛錬か、強敵との戦い位しかありませんからね。それにレベルと違って測定も大変です。まあ上がって行けば、経験でどの位の差があるかは分かりますが」
一応スキルを調べる魔法や道具はあるが、ほいほいと確認させる事は無い。レベルと違ってスキルは多岐に渡るし、何を覚えているかを知られるのはあまり気分の良いものではない。
まあ俺からすれば致命的な話だ。
俺は事情があって自分のスキルを把握しているが、さすがに他人には絶対に教えられないな。
「まあ彼らのスキルも高かったですが、今回は自分がそれを上回ったという事です。単純な武器だけでなく闇夜とこの地形、そういった場所で戦う総合力がですね。彼らも確かに精鋭と呼ぶにふさわしい者たちではありましたが、ここで戦うスキルに関しては、こちらの方が遥かに格上だったという事ですよ」
「なるほど……総合力ですか。そういえば夜目が効くし森にも慣れていると言っていましたね。聴覚スキルもお持ちとか」
まるで見聞きしたことを全部覚えていそうな感じだな。
奔放だの姫らしくないだのと悪い噂も聞くが、同時に聡明であるという話もあった。
見たところ……なんか全部当てはまっている感じだ。人の噂は当てになるねぇ。
「そういう事です。彼らの本分は、神殿や町での仕事だけだったのでしょう」
「それでクラム様の武器スキルはいくつなのです?」
「これは企業秘密という事でお願いします。なにせ飯の種ですので」
「今はこちらが雇い主ですよ! 答えるべきではないのですか⁉」
「だから止めなさいって。そろそろ本当に怒りますよ。実力があって、護衛をして頂いている。しかも代金は口約束。これ以上の事を求める立場にありません」
「セ、セネニア様ぁ……」
はしごを外されてかわいそうだとは思うが、姫様に分別があって助かった。
俺のスキルに関しては、明かしたところで色々と追及されるだけで時間ばかり食われてしまう。
今は姫様が聡明で助かったよ。
■ ■ ■
こうして、俺たちは真っ暗な中、明かりもつけずに夜通し森を歩いた。
とは言っても、うっそうとした藪という訳ではない。いやそういう場所もあるんだけどね。
ただ今回は二人の事を考えて、通りやすい場所を選んだ。
かつて聞いたジャングルとかいう場所じゃないんだ。広葉樹の森なんて、通ろうと思えば隙間は多い。
それに村が近くなるに従って、更に開けてくる。
この辺りは街道の整備こそされていないが、村人が食料や薪を拾うために使っているのだろう。
そして夜が明ける頃には、平和そうな村に到着した。
見た所、兵士もいない。こちらに来る事を考えていなかったか、それとも手が足りないかのどちらか。
どちらにせよ、これで王の線は消えた。国王の動員であれば、手が足りないどころかあまりまくりだ。始めた時点で森を包囲する程にな。
良かったな、実の父親に命を狙われるとかじゃなくて。
まあそっから先は絞れないけどな。
いずれ分かる日も来るさ……なんて暢気に構えていられるかは謎だが。
「やっと村ですね」
「こんな早朝なのに、もう働き始めているのですね」
「村というのはこういったものです。夜の明かりは貴重ですので、朝日が昇り始めたら起きて、働いて、日が沈んだら寝る。その繰り返しです」
「健康的ですね」
姫様がそういってクスリと笑ったのが印象的だった。
悪気は感じない。何と言うか、世間知らずって訳じゃないんだよな。
そういや、初めて出会った時も夜中だった。
あの時も城の各所には明かりがついていて、様々な事が行われていたものだ。
王都に限らず、町なんかは夜でも明るいな。
彼女にとっては、そちらの方が普通なのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます